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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
自分らしくあるために
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 都合のいいお願い。

 勝手に出て行って、勝手に戻ってきたのに。

 一人だった自分は役立たずどころか、みんなの戦いの邪魔でさえあった。

 なのに。


 オルガが笑って言った。

「私たちも、そのつもりだったし」

 ワイズはため息をつく。

「正直、怖くはあった。だが、お前が私たちに牙をむくなんて、絶対ありえないことだからな」

 ヴェラが。

「隊長って兵士たちの心理に影響を与えるのですよ。

 あなたがいた時は、どこかおちゃらけて優しかった兵士たちも、私が代理で指揮を執り始めると、なんか理屈っぽくなってしまって」

 ロイ。

「実は、俺がお前を訪ねたのは、みんなに頼まれたからなんだ。

 ちょうどいいと思って、ミザリからの預かり物も渡したけどよ。

 でも、こんなことになっちまった」

 すべてを見ていた隊長は静かに語った。

「骨。お前が悩んでいたことはわかっていた。どこか力におぼれているようなそぶりも。

 だが、俺は何を言っていいのかわからなかった。

 それに、これはお前が自分で気づくべきことだと思ってもいた。

 正直、もう一度、エルザ軍に戻ってくるのは難しいことだと思う。

 だが、お前がその気なら、俺は協力を惜しまない。

 皇都で顔を合わせた時、俺はお前がどこか苦しそうにしていて心配だった。

 だけど、今は違う。

 今のお前は、竜と戦っていたときと同じに見える。

 誰もがあきらめた状況の中で、自分自身も迷いながら、それでも前に進んでいったあの時のお前だ」

 


 いい、のかな……。

 こんなにあっさり。あんなに自分を怖がっていたのに。

 恐怖騎士テラーナイトなんて、変なあだ名までつけられたのに。

「戻る。エルザ軍に戻るよ。ここにいる人は、受けれいれてくれたのはわかった。

 でも、きっとほかの大勢のエルザ兵たちはまだ怖がってるんだよね?

 だったら、自分は味方だよ。心配ないよって、話して回るよ。

 最初から、そうすべきだったんだ。

 弓を向けられたくらいで、それをあきらめるなんて自分らしくなかった!」


 自分の肩に手が置かれた。見るとロイが口元をゆがめて、笑っている。

 手を握られたので、そちらを見るとヴェラが小さく笑ってこちらを見上げている。

 背骨を誰かがコツコツ叩いた。ワイズだ。そっぽ向いてて顔は見えないけど。

 目の前に歩いてきたオルガが、自分の頬骨を白い指で撫でながら言う。

「ごめんなさい。それから、おかえり」

「ただいま」

 

 さぁ、ここからが本当の始まりだ。

 自分の戦い方を、負けない戦い方をバルバラに見せてやる。


 だけど。その前に。

 この人にもけじめはつけてもらおうかな。

 

 いまだに崖のそばに立って、なさけない顔で下を見つめているドレン。

 自分は彼の背中を叩いてこちらを振り向かせると、力いっぱいその顔を殴りつけた。

 あ。

 あかん。

 全然、きいてないや。やっぱり、自分は非力なのかも。

 ちょっとだけ、よろよろっとした『先生』。


 自分はさらに、彼の後ろに回り込んで羽交い絞めにすると。

「さぁ、準備はいいよ。いつでもどうぞ」

 オルガに向かって言ってあげた。

 彼女はなんのことだかわからないのか、それともわからないふりをしているのか、戸惑っていた。

 その背中をワイズが後押しする。

「折られた牙を取り戻すのは今しかない。

 もう、この先、二度とこんな機会は訪れないだろう。

 このままなら、確かに賢く生きられるかもしれん。

 だが、それでも何かあるたびに『先生』の顔がちらつくことになるだろう。

 全ての人に胸を張って、これが自分だと言いたければ。

 断ち切るなら、ここだ。

 オルガ、それはお前次第だ」


 オルガは、大分葛藤したようだった。

 でも、しばらくして、こくんとうなずくとこぶしを作って、思いっきり『先生』を殴りつけた。

 そうそう、自分はお手本のつもりでさっき同じことをしたんだ。

 よく見ていてくれたらしい。

 でも、やっぱり女の子だった。へなちょこグーパンチが、先生のほっぺたに当たってぺちって軽い音を出した。

 対して、効いてはいないだろう。

 だけど、自分が『先生』を離すと、そのままずるずると地面にへたり込んだ。


 うーん。この『先生』どうなるのかな。

 少なくとも、隊長はこのことを皇都に報告するつもりみたいだし。

 一部の貴族とこの人だけの独断だってのがまずいよね。皇様の許可とかないみたいだし。

 でも、あの皇様はいいものも悪いものも、囲みこんで自分の中に取り込んでしまいそうな気がする。

 処罰なんかはあるのかもしれないけど、なんやかや、うやむやになってそして知らないうちにいい方向に向かいそうな気がする。

 あの皇様からはそういうものを感じていた。

 

 さて、エルザ軍にもどった自分は。

 まず、ゲンさんの死と向き合うために、彼の遺体を見に行こうとした。

 すごくお世話になった人だし、自分のきこりの師匠でもある。

 でも、遺体はすでに焼かれていたらしい。

 残念がっていた自分にロイが、木箱を差し出してきた。

「これは?」

「開けてみろ」

 それはゲンさんの遺骨だった。焼け残ったあばら骨の部分らしい。

 灰で汚れていたけど、自分は今のあばらの一本をぽきっと折って、ゲンさんのあばらをくっつけてみた。

 うん、くっついちゃうんだなぁ、これが。

 自分の体、適当すぎぃぃ!

 自分の体にくっついたゲンさんの骨を撫でていると。

 骨。

 誰かに呼ばれた気がした。

 だけど、自分は返事をせず。

 ただ、そっと顔を伏せた。


 それからの自分は忙しかった。 

 まず、いろんな部隊を回って、取り合えず「怖がらせて、ごめんなさい」をしてきた。

 軍に来たときは隠していたけど、今回は鎧を全部脱いで本当の自分を見せた。

 裸の体当たりだ。

 みんな、最初は唖然としていた。

 うん、骨だけだしね。

 でも、自分はもうこんなとこで立ち止まらないよ。

 一回、謝ってだめだったら、もう一回、それでもだめならさらにもう一回。

 そのうち、みんな、もういいよ、と苦笑交じりに許してくれた。

 そうそう、エルザの将軍のとこにも行ってきた。

 謝った後、事情を説明して、さらに自分の考えを話した。

 将軍は、自分には期待していないのか、それともほかに考えがあるのか、あっさりと自分の申し出を受け入れてくれた。


 気分を良くした自分は、「49」と木の板に書かれた自分の幕舎に返ってくると、もう一回鎧を身に着ける。

 そのあと、みんなを集めてこれからの戦いについて説明を始めた。

「えー、みなさん、お久しぶりです。骨です」

 ひゅーひゅーと、はやし立てられる。

「今、自分の考えを将軍に話してきました。将軍は快く、いいよって言ってくれました。

 なので、これからはそうします」

 ヴェラがわからない、という顔をしていった。

「えっと、何を、そうするんです?」

 自分はドヤ顔を作って言い放った。


「これからこの部隊は、独立遊撃部隊として戦っていくことになるよ!」


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