59
あー、とため息をついて長い回想からようやく現実に戻ってきた。
あとは冒頭で語った通り。
騎士の一人と戦って勝ったはいいものの。
まわりにいる他の騎士たちは納得していないようだった。
きっと、力に力をぶつけて圧倒し、鮮やかに勝利できていれば、
間違いない竜を倒した英雄だー
とかなっていたんだろう。
けど、現実はボコボコに殴らせ、疲れて肩で息をしている相手をこかして勝った。
言葉にしても、なんかせこい。
だけど、これが自分の戦い方なんだからしょうがない。
迫力も鮮やかさもないけど、自分にあった戦い方。負けない戦い方だ。
そのあとも、訓練に参加させてもらった。
手合わせしてた別の兵士からは
「練習なんだから、どんどん攻めてください。にらみ合ってても訓練にならないじゃないですか」
と、割とまじめに怒られる。
「それなら、そっちからせめて来ればいいじゃん」
反論したが
「今はあなたが攻めて自分が受ける番なんです」
え。
なにその順番制。
戦いには攻めるときと守るときがある。自分と竜の時もそうだった。
だけど、それはこんな風に順番交互にはやって来ない。
戦闘には流れがある。
守り一辺倒の時もあれば、敵にとどめを刺すためにずっと攻撃の手を緩めないときもある。
ここが攻める時だ、ここは守る時だ、という判断力も必要だと思うんだけど、この訓練でそういうものは鍛えるのは無理だと思う。
隊長をちらっと見る。
向こうもこっちを見ていたが、苦い顔をしてうなずく。
つきあってやってくれ、ということらしい。
しょうがないから、チクチクと攻撃をした。
ただし、頭はがっちり守る。相手の間合いにもなかなか入らない。
それがつまらないのか、そのうち誰も相手してくれなくなった。
いや、ようやく解放されたと言うべきか。
輪から外れて、はじっこからみんなの訓練を見てると不安になってきた。
攻める側が
「この剣をうけるがいい!」
と言い、受ける側が
「その程度で私の防御が破れると思ったか!」
と、返す。
みんないきいきとしている。いっそ、すがすがしいくらい楽しそうであった。
自分はどうしてもこらえきれず、隊長に愚痴った。
「この国、負けるね」
「そう言うな。あれでも本人たちはまじめなんだ」
彼らは貴族の子弟だったらしい。
どうやら戦争に出て、手柄の一つもあげ、箔をつけてから家を継ぎたいらしいのだ。
「安全な後方から、前線にくることはないんだがな。
だが、どこどこの戦争に参加したというだけで、そこそこ勇敢には見られるらしい。
そして、自分がその戦争でいかに活躍したかを、茶会や舞踏会などで、まことしやかに語るらしい」
「後方からでて来ないのに?」
「出てこないのに、だ。まぁその辺はお約束だな。みんな実情は大体わかってる。ご婦人なんかは、作り話とわかっていて、楽しんでいる風でさえあるな」
虚飾というのだろうか。
「それじゃ、自分はそんな人たちに、偽物呼ばわりされたってわけ?」
「お? いまさら怒りがわいてきたか?」
「いいや、ただ単に、あきれただけだから」
訓練が終わる前に、練兵場から出酔うと思った、
生意気な連中を叩きのめしてくれっていう依頼も達成したし、もう、いいだろう。
それよりも、マルガに会いたいな。
この王宮のどこかにいるはずだ。
しかし、弱った。宮廷の中をどう進んだらいいかなんて自分には全くわからない。
そんなことを考えていた矢先、練兵場の入り口に伯の姿が見えた。
「ここにいてくれてよかった。骨君、一緒に来てくれ。皇がお呼びだ」
え、来たばっかりで、いきなり会うの?
皇さまって、この国で一番偉い人だよね?
どんな人なんだろう。
なんだか、緊張してきた……。