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あなたは知らない人に気軽に声をかけることはできますか?
いや、違う違う。
特に何かを狙って声をかけるわけじゃなくて、ほんとにただちょっとお話するだけ。
本当にそれだけなんだけど……、あ、やっぱりちょっと怖い?
勇気を持って話しかけても、すげない態度をとられると傷つくし、無視されたらしょんぼりする。
でも、それって話しかける側だけの事情。
ねね、逆によく考えてみて?
相手だっていきなり声をかけたらびっくりすると思うし、知らない相手には警戒すると思う。
たとえば自分が丸腰のときにさ、剣を持ってる人が話しかけてきたら相当びっくりするよね?
いや、こっちが同じように武器を持っててもやっぱり怖い。
でもさー、自分なんかは本当に丸腰なわけ。
剣はおろか皮膚も筋肉も内臓もない完全丸腰状態なのに、なんでそこまで警戒されなきゃいけないわけ?
あ、逆に本来あるべきものが無さ過ぎて相手びびっちゃってるのか、てへぺろ(なぜか、舌が出せない)
猛省。
猛省しております。
えー、自分、廃墟で目が覚めてからというもの、人目をはばかり物陰に隠れて移動しました。
慎重に歩を進め、ついには小さな村に発見いたしました。
しかし、かねてより人と話をしたいと熱望していた自分。
最初は、話しかけるタイミングをうかがいながらゆっくりと村に近づいていました。
しかし、間近に人の姿を見るにいたり、うれしさのあまり頭が真っ白になってしまい、物陰から飛び出し
「こんにちわー☆」
なんて陽気な声をかけてしまいました。
もちろん、全身骨格でその喜びを表現しました。
両腕をいっぱいに広げての歓迎のポーズ。
しかし、あろう事か、相手は「ぎゃー!」と一声うめくと、後ろ向きにばたーんと倒れてしまったのです。
自分はしばらくそこで呆然としてたのですが、数秒の後、自分が一糸まとわぬ姿だったことを思い出し、若干もじもじいたしました。
でも、それなら、変態!って罵倒されるのが筋なんじゃ、と現実逃避もいたしました。
が、自分のしたことを振り返り、取り返しのつかないことをしてしまったと考え、ようやく我を取り戻したのです。
そこで、倒れたのが人のよさそうなおばさんだったことにようやく気づきました。
浮かれていた自分は、話しかけた相手が誰かということすら見えていなかったのです。
夕暮れ時に、しかも骸骨に声かけられたら、そりゃ誰でもびっくりします。
でも、とりあえず、道の真ん中におばさんを放置しておくことはできません。
両脇を抱えて木陰にでも運ぼうと思いました。
しかし、それがあだになりました。
すぐにトンズラすべきだったのです。
豚のように丸々肥えたおばさんを引きずってるうちに、さっきの悲鳴を聞きつけて村人が集まって来ちゃいました。
彼らから見たら、自分はご夫人を気絶させて連れ去ろうとしている魔物に見えたらしくあっという間に取り囲まれてしまいました。
そして、今に至る。
あ、そろそろ疲れるから敬語はやめるよ。猛省は続けるけどね。
「なんだ、こいつは」
「骨がなんで動いてるんだ」
「気持ち悪い……」
「おら、化け物! おばさんを放せ!」
村人たちはあからさまに警戒しながら、自分を遠巻きに囲む。
時たま、ごくりとつばを飲み込む音が聞こえてくる。
そんな緊迫した空気の中で、自分の今の気持ちを一言で表現すると「はわわわわっ!」
たくさんの人に取り囲まれて責められているのに、冷静でなんていられないよ?
あわてておばさんから離れる。
すかさず村人たちは、おばさんを確保。
そして、自分のほうに振り返ると、最初はおそるおそる石を投げてきた。
小さい石はアバラ骨の間をすり抜けていくけど、逆に大きい石は骨に当たる。
大きい石マジ痛い。
痛い攻撃ばかり食らうとか、なんの罰ゲーム!
「いた、やめてやめて。上腕骨が欠けちゃう!」
神経とか無いはずだから、痛覚も無いはずなのになんで痛いの、理不尽、理不尽!
弱気な発言をしていると、集団心理が働いたのか村人たちは調子に乗り始めた。
「おい、なんか効いてるみたいだぞ」
「いいぞ、もっとやれ!」
投げつけられる石の量がさっきの倍になった。
たまらずしゃがみこんだ自分に村人たちがいっせいに掴みかかってくる。
体中の骨をつかまれて、あっさり地面に引きずり倒された。
「あ、鎖骨はやさしく扱ってください」
「こいつ、弱ってると思ったらけっこう余裕がありやがる!?」
そのまま引きずられる、どこかに連れて行かれるみたいだ。
どこに連れて行かれるんだろ。
不安だ。
けど、一つだけうれしいこともあった。
会話したいと思っていながらぜんぜん確認してなかったけど、自分、声帯とか無いのに声が出るみたい。
何で出るのか、よくわからないけど、とりあえず。
やったー!!!