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誰かに会いたい、会って話がしたい。
その一心で自分は、とにかく目の前の道を進んだ。
瓦礫と化した町はそれほど大きなものじゃなかったみたいで、あっさりと城壁にたどり着いた。
城壁といっても、木で作った人の背丈の倍くらいの柵のようなものだ。
その柵もあちこち壊れていて、どこからでも出入りできそう。
自分はおっかなびっくり正門だったと思われるところを潜り抜けると、すぐに目に留まった大きな岩の後ろに身を隠した。
正直、ここまでおびえる必要はないような気がする。
けど、いきなり誰かとばったり出くわすのは正直ちょっと怖い。
まったくわからない土地だ。
どこに誰がいるかわからない。
誰かをみつけたなら、自分は近くの物陰にとにかく隠れる。
そして、そこからゆっくり話しかけるのがとりあえずの作戦だ。
身を隠した岩の後ろから頭だけを出してそっと町の外の様子をうかがった。
緩やかな丘陵地だが、岩がごろごろしていて、植物があまりない。
典型的な荒地だった。
前言撤回。
とても人がいるようには思えない。
そこそこ開けた土地だけど、近くに家の明かりも見えない。
これは、かなり歩かないといけないんじゃ……。
その心配は当たっていた。
それから三日ほど、さまよった。
最初の夜明けは、とても怖かったのを覚えている。
それまで隠れながら移動していた自分はふと周囲が明るみ始めたのに気がついた。
太陽が昇り始めたのだ。
なぜだか、とっさに大きな岩陰に隠れて震えながら日の出に備えた。
自分のような存在は太陽の光を浴びるとどうにかなってしまうんじゃ?
日の光は生者のものだ。
自分のようなアンデッドには毒になるんじゃないだろうか。
どこで知ったかもわからないような知識が脳裏をよぎってとっさに日陰に隠れた。
しばらくの間は太陽の動きにあわせて移動する影にそって、自分も一緒に移動した。
そして、完全に太陽が上ったあと、恐る恐る指先を日向に差し出してみたのだが……。
あっ、よかった、なんともない。
指先、手、腕、肩まで出して大丈夫なことを確認すると、最後は全身で太陽の光を浴びてみた。
うん、けっこう日差しは強い。
でも、もう日焼けはできないけどね。
あれ、でも骨も日に焼けて黄ばんだりするのかな?
そんなこんなで一日中動けることを確認できたのは幸い。
おっかなびっくりでも進んでいける。
少しずつでも移動しているうちに、だんだんと景色も変わってくる。
最初は岩ばかりだった景色に、うっすらと植物が混じり始めて、ついには周りが木ばかりになった。
森の中だ。
自分は適当な木のうろを見つけるとそこに入って体を丸めた。
この数日間の旅で気づいたことがある。
こんな体になって食事も睡眠もいらないと思っていたけど、どうやら「休憩」は必要みたい。
たしかに体は疲れないんだけど、周囲を警戒しながらの道のりは、精神を大きく消耗させた。
体はぜんぜん動くし、眠りもしないのだが、精神的な疲れを癒すために何もしないでじっとする必要があるようだ。
当然、その時は周囲への警戒も解いてリラックスする。
だけど、こうして木のうろに入ってる自分の姿はマジ遺骨。
そのうちムカデが肋骨に巻きついてたり、頭蓋骨の裏側でダンゴ虫が丸まってたりする。
大きなミミズが、自分の眼窩を通って頭蓋骨の中と外をしきりに行ったり来たりする。
なんだか泣けてくる(言うまでもないが上手く泣けない。当然、涙も出ない)が、そこはあきらめた。
そうして、しばらく休んだあと、体についた、おが屑や虫たちを振るい落としてまた進む。
7日目の夕方。
自分は小高い丘の上から、人間が住んでいる小さな村を見つけた。
ここからでも人が何人か動いているのがわかる。いくつかの家の煙突からは、煙が出ているのが見える。
ヤット、ミツケタ……。
どきどきしながら、緩やかな丘を下っていった。