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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
ただの骨 VS 腐蝕竜
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 馬車にのってネビルに向かう。 

 瘴気がだんだん広がっているのか、街を出てしばらくするとうっすらと瘴気がただよい始めた。

 馬車で半日くらいでネビルにつくはずだったが。

 その半分くらいの距離でもう人間が耐えられる濃度を超えているようだった。

「だんな、すいません」

 御者がせき込んだ。

「ここまでありがとう」

 あっさりと馬車を下りると、ネビルに向かって歩き始めた。

 これからは、行きにも時間がかかるのか。

 歩きながら考える。

 四回目の戦闘に入る前に、前回までのおさらいをしよう。

 前みたいに、致命的な攻撃を食らわないように。

 今度こそ(これも何回言ったやら)倒せるように。

 まずは相手の攻撃を思い出してみよう。

 遠距離は、ブレス、かみつき、しっぽ薙ぎ払い。

 近距離は、前足の爪、踏みつけ、あと攻撃ではないけれどバックジャンプ。

 こうして思い出してみると、やはり遠距離よりも近距離で相手に張り付いて戦ったほうがいいと思う。

 どれだけ相手に張り付いていられるか、足元の位置を維持できるかが勝負のカギと言えそうだ。

 爪も踏みつけもはしっかりみてれば躱せる。

 ただ、地味に嫌なのがバックジャンプ。

 これは風圧でスタンさせられるので、絶対に距離を開けられる。

 距離が空いたら、ブレス、かみつき、しっぽと戦闘不能に直結する攻撃が飛んでくる。

 特に気をつける攻撃はブレスとかみつき。

 ブレスは即死はしないけど、装備に多大なダメージを受ける。

 数秒間ブレスにさらされただけで、武器も防具も使い物にならなくなる。

 躱すことはそれほど難しくない、と思う。

 ブレスの射線から外れてしまえばいいからだ。

 が、フェイントを織り交ぜて、かみつきもやってくる。

 かみつきは本当に痛い。

 食らえば、そのまま体を食いちぎられる。

 前回は、それでやられてしまった。

 首が届くような中途半端な距離にいたのも悪い。

 ただブレスとかみつきの二択も、かみつきの範囲外に逃げてしまえば食らわない。

 今回は食らうことを覚悟で直線的に後ろに下がろう。

 下がればかみつきは届かない。

 ブレスが来たら、ちょっとだけ食らってすぐに射線から外れるように横に飛ぶ。

 メッキ加工された装備がどれだけ持ってくれるかわからないが、試してみる価値はある。


 ネビル山のふもとにたどり着いた。

 よし、行こうか。

 山を登り、洞窟の中に入っていく。

 奥の広い空洞の入り口。

 あれ。

 なんか、竜が、いない?

 いつもだったら、空洞に入る途中から竜の姿が見えるんだけど……。

 まさかどこかに行っちゃった?

 でも、それなら瘴気だって徐々に拡散していくはずだ。

 なのに、依然じわじわと広がっている。

 いる。

 竜は間違いなく、いる。

 なんか気配がする。

 息をひそめて自分を狙っている感じがする。

 自分はゆっくりと空洞の入り口をくぐろうとする。

 そして、いよいよ入ろうとしたところで、一気に走り出す。

 ばぐん!

 後ろでそんな音がした。

 振り返ると入り口からは見えない位置に隠れた竜がいた。

 入ってくる自分を狙ってかみついたが、いきなり走り出したので失敗したのだ。

 あ、あぶねぇ。

 なんとなく読めたからよかったけど。

 もし、何も考えずに中に入っていたらぱっくりいかれていたに違いなかった。

 頭蓋骨だけはやられないようにね、と出発前にオルガに言われている。

 わからないことだらけだけど、頭蓋骨だけは本当に自分のものかもしれないらしいのだ。

 それは何となく自分も思っていた。

 ほかの部分は取り換えがきくけど、そこだけは死守しなきゃいけない。

 でも、この竜。

 地味にいろいろ考えて攻撃してくるんだよな。

 フェイントを織り交ぜたり、待ち伏せしたり、と持ってる攻撃をいろいろ工夫して繰り出してくる。

 力任せにあばれる竜のほうが、つけ入るすきも多いような気がするし、自分も戦いやすい気がするのだが。

 さて、最初の不意打ちは躱した。

 今度はこっちの番だ。

 じりじりと近づいていく。

 狙いは股下の安全地帯。

 ただ、やっぱり足元に入られるのは嫌みたいだった。

 遠い距離から尻尾。

 いったん後ろに躱す。

 尻尾を振った後の竜の背中が見える。

 もう一度。こちらに振り向く前に距離を詰める。

 中途半端な距離。

 尻尾もう一度。

 でも、走れば股下にもぐれる。

 背後で尻尾が唸りを上げる音。

 ここまではいつもと一緒。

 爪、爪、爪。

 飛んでくる。

 かわして、斧を振る。

 ただ、残念。

 前回破壊したうろこが再生していた。

 今までの苦労を思い出して泣きそうになる。

 力を抜いて斧を振る。

 やっぱり、うまく食い込んでいく。

 ほどなくして、われそうになる。

 いい感じ。

 羽ばたきが聞こえる。

 バックジャンプ来るか?

 バックジャンプ来た。

 羽ばたきの風圧で、その場に縫いとめられる。

 どうしようもない。

 距離ができる。

 ブレスの距離、かみつきも届く距離。

 竜が息を吸い込む。

 判断はいらない。

 もう、だまされないよ。

 フェイントかどうかなんて判断もしない。

 とにかく、大きく後ろに下がる。

 牙の届かない位置まで。

 逃げる。

 ブレスが来た!

 盾を構える。

 防ぎながら射線から外れようと横に移動。

 しかし。

 自分の動きに合わせて、ブレスを横凪ぎに吹いてくる。

 おぃぃ。

 食らってる! めっちゃ腐蝕ブレス浴びてる!

 ブレス終わった。

 装備大丈夫か。

 確認。

 おお!

 メッキ!

 さすが、メッキ!

 多少痛んだ感はあるが、それでも全然大丈夫。

 使える。戦える。

 親方、やるじゃん!

 ははは、人間の力をなめるなよ!

 自分、人間かどうかも怪しいですが。

 予想と違ったのか。

 竜は、唖然としていた。

 チャンス。

 と、思って近寄ろうとする。

 また、足首たたいてやる。

 そう思ったが。

 竜が羽ばたく。

 羽ばたく?

 え、この距離で? バックジャンプする必要ないじゃん。

 自分はここよ?

 足元じゃないよ?

 ぶわわっ!

 風圧。

 いや、風撃とでもいうのか。

 地面に縫い付ける感じの風圧じゃない。

 完全に吹き飛ばすつもりでの、羽ばたき攻撃。

 おお、あわてて伏せようとしたが、風にあおられて体が反り返る。

 地面から足が離れた瞬間。

 ゴッ。

 からだが吹っ飛ぶ。

 木の葉のように舞った。

 自分の体。

 壁にたたきつけられる。

 生身の体だったら、内臓破裂くらいしていたかもしれない。

 虫を手で払うように。

 壁に叩き付けられて、力を失い、そのまま崩れ落ちる羽虫のように。

 地面に落ちる。

 ぐしゃ。

 いてぇ。

 この期に及んで、また新しい攻撃がくるのか。

 この竜さん、引き出し多いな。

 でも不思議。

 なんか、気持ち落ち着いてる。

 鎧の中で骨はもうボロボロのはずだ。

 全身の骨に亀裂が入っているのが自分でもわかった。

 折れているものも何本もある。

 ただ、人間だったら即死の攻撃だ。

 それがこの程度で済んでいるのだから、幸運と思うべきだった。

 立ち上がって向かっていく。

 羽ばたき来る。

 木の葉のように舞う。

 壁に叩き付けられる。

 地面に落ちる。

 向かっていく。

 羽ばたき。

 舞う。

 どか。

 ぐしゃ。

 以下、ループ。

 竜さん、容赦ないっす。

 もう一歩も近づけない気?

 だめだ、立ち上がるたびに吹き飛ばされる。

 竜さん、自分の心を折りにきてるな。

 風圧の隙間を縫って、近づいて攻撃したい。

 なんとか、ならんか……。

 ただ何度も壁に叩き付けられているうちに、あることに気付く。

 だんだん、羽ばたき弱くなっているような……。

 何回目だろう、何十回目だろう。

 体を低くして、しゃがむと吹き飛ばさずに堪えることができた。

 そのままの姿勢で移動すれば、なんとか近づける。

 羽ばたきを警戒しながら、完全前傾姿勢で必死に前に進む。

 ここにきて。

 ぐっ。

 竜が上半身をひねる。

 尻尾かよ!

 ここでか!

 距離は後ろに下がれば躱せるが、完全な前傾姿勢で重心が前にあるため、とっさに下がれない。

 さりとて前に走っても股下までは距離がある。

 ど、どうし、どうしよう……!

 迷っている間に、尻尾が来た。

 先端のほうが速度が出るのか、前食らった時とは比べ物にならない衝撃だった。

 前回は空中に跳ね上げられたが、今回は壁まで吹き飛ばされて叩き付けられた。

 なんか、今回は壁とばっかりくっついてる感じがする。

 食らうの二回目だけど、これほんとやばい。

 全身がばらばらになりそうな衝撃。

 また、同じように地面に落下した後、全身の確認をする。

 腰の剣なくなっていた。

 斧、斧、どこだ……。

 斧も弩もどこかに飛んで行ってしまった。

 武器武器、体中を手でまさぐって探したが、そもそも両腕がなかった。

 おお…。

 尻尾が来るのが見えてしまったため、とっさに両腕を前に出したのだ。

 そのまま両腕は吹き飛ばされたみたい。

 洞窟内に視線を走らせる。

 だめだ、見つかんない。 

 剣も斧も弩も、それを振るうための両腕も。

 洞窟内にあるはずだ。

 だけど、竜が黙っているわけがない。

 どうしようもなかった。

 泣く泣く帰る。


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