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大爆笑の渦だった……。
狙ってもこれだけ笑いをとることはできそうもないと思っていた。
エミリとゲンさん笑いすぎぃぃ!
マルガは笑いをこらえるのに苦しそう。
伯なんか遠慮なしで声を上げて笑っている。
ミザリは、みんな笑ってるのでなんか楽しくなってとりあえず笑い出した。
子供ォ!
うっかり、うっかりと。
思ってることが口に出てしまったらしい。
なんだろう。
今、思い出しても相当暑苦しいことをしゃべったと思う。
あと、超青臭い……。
それが自分自身なんだ――――!とか、ガチでいっちゃった。
語ってしまった。
やべ、みんなと顔を合わせられない。
穴ほって埋まりたい。
殺せ……。
誰か自分を殺せぇぇぇ!
あ、でも、生きてるか死んでるかもわかんなかった……。
だけど、今までの暗い雰囲気は消し飛んでいた。
無邪気に腹を抱えて笑っていた。
まぁ、よかったのか……。
ある意味、おいしかったのか?
皆の笑いが収まるまでしばらくかかった。
エミリは苦しそうに息を整え、笑いすぎて出てきた涙をぬぐう。
「はー、はー、あんたそんなこと思ってたんだね」
その顔はさっき見せた暗い笑顔、やせ我慢の笑顔とは似ても似つかなかった。
ゲンさんもなぜかすっきりした顔をしている。
伯はまだ顔に笑みを張り付けながら聞いてきた。
「それで、君はまだやる気なのかい?」
それは、もちろんだ。
「足がなくなったなら、別の戦い方を考えてでも続ける」
自分が納得してない。
いや、納得することなんかないのかもしれない。
ただ、まだ折れてない。
心の奥でヤツが、行け、と言う。
「そうか、でも別の方法は考えなくてもいいかもしれない」
伯は上半身だけの自分を見つめながら言う。
「それって……」
聞き返そうとする前に伯は誰かをこの部屋に呼んだ。
「そういうことらしい、入ってきてくれるか?」
白いローブを着た若い女性が入ってきた。
「オルガ!?」
マルガが驚いて声を上げる。
オルガと呼ばれた女性はマルガのそばにきてちょこんと頭を下げた。
「おひさしぶり、姉さん」
姉妹? マルガの妹なのか。
「私だって何もしてこなかったわけではない。
以前、骨君がいったよね。
あなたにできることは何?と。
私は答えた。
それは君を応援することぐらいだ、と」
状況が変わったわけでもない。
打開策が見つかったわけでもない。
伯の顔は静かで自信に満ちた、最初にあった時と同じ顔をしている。
「君のことをどう支援していいか、わからなかった。だから、君に倣ってとりあえずやってみることにした」
それが宮廷から魔術師を呼ぶことだった。
「妹は宮廷魔術師ですが、彼女を呼んだところで……」
マルガはそう言うが、オルガの見解は違うらしい。
「姉さん、確かに私も竜と戦えない。
呼吸をしなくていい魔法なんて使えないし、そんなものがこの世にあるかどうかも知らない。
くっそ長い呪文の後で出した火炎が竜に効くのかもわからないし、そもそも詠唱を黙って見ててもらえるとも思えない。
だけど、今回はそっちじゃないんだ。
私は確かにいくつか魔術つかえるけど……」
「医術のほう、ですか?」
「そうだよ」
オルガは寝台で寝ている見下ろした。
マルガは濃い紫のローブを着て、口元さえベールで覆っているが、妹のオルガは上下とも丈の短いローブを来ている。
鎖骨とか太ももとも丸見えだった。
簡単に言うとちょっとえっちなお姉さんだった。
なんかやる気でてきました。
エミリが自分の視線がどこを這っているかに感づいて頭蓋骨をぽこんと殴った。
中身が入ってないので、いつもながら乾いたいい音がする。
オルガは自分をじろじろ眺めると、唐突に言った。
「私なら、骨さんの体、もとに戻せるかもしれない」