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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
ただの骨 VS 腐蝕竜
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 夕方にランバートに帰ってきて、治療を受け、工房を訪ね、再び城に戻った時には夜更けだった。

 とりあえず、城の中で用意できる装備はすぐにそろえて、またすぐにネビルに向かおうと思った。

 こうしている間にもじわじわと腐蝕が進んでいるはずだ。

 どれくらいの被害が出ているのか、マルガに聞いても教えてくれなかった。

 困った目をして首を振るだけだ。

 だが、出発は少しだけ先延ばしになりそうな感じがする。

 ミザリが自分にはりついて眠らないのだ。

 もうすでに二回も寝ているスキをついて、出発している。

 置いて行かれたことを怒っているのか、とも思った。

 けど、そうではない。

 一緒についていきたいわけではなく、自分を行かせたくないみたいだ。

 行こうとすると小さな手で自分の骨をつかんで邪魔しようとする。

 毎回、ボロボロになって帰ってきてるからなぁ。

 こんな小さい子にまで、心配をかけるなんて正直情けない。

 自分はあきらめたふりをして椅子にすわる。

 ミザリは自分の手を握ったままで、その隣に座った。

 邪魔しようと動いていたときは元気だったが、こうして座ってしまえばミザリはうとうとしだした。

 上のまぶたと下のまぶたがくっつきそうになると慌てて目をこするが、すぐに小さな頭が前後に揺れだした。

 今のうちにミザリの手を振り払って出ていこうとしたら、エミリに怒られた。

「せめてさ、完全に寝入るまで居てやってよ」

 同じ部屋にいたマルガもゲンさんも同じような視線で訴えてくるので、そうすることにした。


「そういえば、伯はどうしてる?」

 ミザリが寝入るまでの間、手持無沙汰になったのでマルガに聞いた。

「伯は、その……」

 彼女は口ごもりながら言った。

「食料の問題などで頭がいっぱいのようです。ただ、それも実に難しい問題で……」

 今は足りない分の食料をほかの土地から運んできている。

 だが、輸送にかかる費用は当然上乗せだ。

 もっとも、ランバートはこの国の食糧庫なのでほかの土地から運んでこれる分なんて限りがある。

 ランバートがつぶれると、この国の食糧事情は一気に悪化する。

「前も話しましたが、明確な国難です。その責任が伯の肩にずっしりかかっているのです。

 みなさんは、ひょっとしたら伯があっさりあきらめたと思っていらっしゃるかもしれません。

 ですが、そこは誤解しないで上げてください。

 戦争なら敵国の兵と必死に戦えもした。

 天災なら、通り過ぎるのを待って備蓄した食料でしのげばいい。

 ただ、相手はあろうことか腐蝕竜です。

 近寄ることさえできない。

 理不尽に感じたでしょう。自分のふがいなさを責めたかもしれません。

 それでも調査隊を送ったり、宮廷に救援要請を出したりと必死に頑張っておられました。

 そして、私の占いを聞いて、何とかなると安堵した矢先にこの事態なのです。

 お怒りになられるのも無理はないかと」

「ごめん、自分が頼りないから」

「いえ、私も責任を感じております……」

 マルガは席を立って窓辺に寄った。

 そして、星空を見上げていった。

「あいかわらず、星はあいまいなことしか語りません。

 一度目の失敗のあと、伯はもう一度占ってくれと私に依頼しました。

 私も、その……、ひょっとしたらと思って、それを了承しました。

 ですが、あいかわらず星はあいまいなことしか告げませんでした。

 そして、あなたを指し示しているのも変わりませんでした」

「一度目、失敗して逃げかえってきたとき。

 ボロボロになったあなたを見て、私はなんとあやまればいいかと申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

 同時にひどく落胆したのも真実です。

 剣を失い、腕をもがれ、鎧はもとの形がわからないくらいに変形している。

 泥と砂埃にまみれたあなたのしゃれこうべを見て、これはダメだ、と思いました。

 ただ、それでもあなたはもう一度行くと行ったから。

 ひょっとしたら、何か勝算でもあるのか、と私も伯も少し期待していたのです。

 ですが、それも二度目の敗走で消えました」

「……」

 何も言い返せない。

「そして、それは私や伯だけではないはずです。

 ミザリがあなたを引き留めようと必死なのは、なぜ?」

 それは……。

「そして、エミリさん、ゲンさん。

 あなたたちは骨さんに協力していますが、それは心から勝利を信じてのことなのでしょうか?」

 ハッと顔を上げる。

 同時にエミリとゲンさんは自分から目をそらした。

「あたし、あたしは……!」

 信じている。

 エミリは、その言葉がどうしても出せない。

 苦しそうな顔をしてうつむくエミリ。

 そして、そんな顔をさせているのは自分だ。

 力がほしい、素直にそう思った。

 だけど、そんなものは望んだからといって手に入るものじゃない。

 

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