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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
ただの骨 VS 腐蝕竜
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「そんなものはない」

 あの後、マルガの案内でランバート城下にある武器防具の工房に来た。

 工房の親方に一通りの話をした。

 けれど黙って聞いていた親方から返ってきた第一声がそれだった。

 竜を斬れる剣がほしい。

 そんな注文、たしかに頭がおかしいと思われても仕方ない。

 マルガや伯、それにエミリを見る限り、竜というのはお話の中に出てくるだけ存在なのだ。

 普通に暮らしている人間は、一生その姿を見ることすらない。

 しかし、そんなものが突然現れて猛威を振るっている。

 暴れまわり破壊の限りを尽くして通りすぎるわけではない。

 ゆっくりとじわじわとこの国の大地を腐らせていく。

 そして竜がそこに居る限り、大地は腐り続けたままであり、新しい命は芽生えない。

 親方の言ってることはもっともだった。

「人間の敵はいつだって人間だ」

 だから、ここには人間を殺す武器しかないという。

 帰れ。

 背中を向けようとした親方。

 だけど、そんな簡単に終わるならここまで来た意味なんてない。

「ここには人間を倒す武器しか無い(・・)んだよね?」

 親方はもう一度念を押すように「そうだ」と答える。

 親方の目をじっと見つめる。

 自分は駆け引きなんてできるほど賢いとは思ってない。

 断わられた人の気持ちを変えるような言葉も言えないと思う。

 だから、まっすぐに今思っていることを伝えるしかない。

無い(・・)ならさ、作ればいい(・・・・・)

 その言葉に。

 親方は雷で撃たれたような衝撃を受け、竜を殺す武器を作ることを約束する。

 はずもなく。

「無理だな」

 と、あっけなく切り返してくれた。

 あれー。

 キメ顔まで作って言ったのに……。

 後ろでエミリが吹き出したのが聞こえた。

 マルガも笑いをこらえているのが気配でわかる。

 クッ。

 親方はあきれたように言った。

 そして、わからない子供にするように説明を始める。

「それは一瞬、俺も考えた。だが、竜を斬れる武器ってどんなものなんだ? 

 材質は?

 形状は?

 振るからには適正な重量も考えなきゃいけない。

 作成方法だって今までと同じでは無理だろう。

 俺は竜と戦ったことはない。

 戦ったことがあるやつも、一人も知らない。

 骨の被り物をしたあんた以外には。

 つまり竜のことを何も知らない。

 だから、作りようがない。

 俺は、伯から依頼を受けたとき、自分のできる精一杯の技術を込めて打った剣を渡した。

 でも、それはへし折れてしまったんだろう?」

 まだ、四十手前だろう。若いがしっかりした親方だった。これだけの工房を持っているのもうなずける。

 自分は親方がはなからあきらめているように見えていた。でも、違う。

 職人として検討して、やはり不可能だと判断したのだろう。

 この工房はランバートで一番の工房だという。ここがだめなら、ほかでも結果は同じに思える。

 ただ、それでも親方は複雑な思いを持っていたのだと思う。

 自分は前回の戦闘で折れた剣を持ってきていた。

 親方はしゃべっている間、ずっとその剣を見つめていた。

「俺には無理だ。帰ってもらえるか」

 その顔にはあきらめのような、さびしさのような、複雑な色が浮かんでいる。

 今は何を言ってもダメかもしれない。

「親方」

「まだ何か?」

「これを」

 折れてしまった剣を手渡す。

 黒く変色し、さびつき、半ばから折れている剣だ。

 親方は「へっ」と笑ってそれを工房のすみに投げ捨てようとした。

 その腕をつかんでやめさせる。

「放してほしいんだが」

「ごめん」

 素直に手を放した。

 親方はもう一度投げ捨てようとして、やっぱりやめた。

 そして、自分の手の中にあるそれをじっと見つめた。


 ゲンさんとミザリは、工房の中が珍しいらしく二人でいろいろ見て回っている。

 この工房では武器に限らず、いろいろな金属製品を作成しているみたいだ。

 できあがったばかりの製品を見るのはなんだか楽しいらしい。

 そんな中でゲンさんが足を止めてずっと見入っているものがあった。

 斧だ。

 木を切る斧。

 きこりのゲンさんは、やっぱり斧に興味あるようだ。

「やっぱり仕事道具は気になるのね」

 ゲンさんはこちらを振り返らなかった。

 斧に視線を注いだままだ。

「これ、いい斧だなぁ」

 壁にかけてある斧。

 肉厚で重量もある、刃は鋭く光っている。

「そうだね。これなら仕事もはかどるんだろうね」

 ゲンさんは「いやいや」と首を振った。

「わかんねぇけどさ。次は、こいつを持ってったらどうだ?」

 それは、長年に渡り斧を振り続けていたものの直感だったのだろうか。

 

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