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とにかく、間合いを掴まないと話にならない。
なんか鎧の留め金やベルトの部分がガクガクいってる。
もう一回、尻尾のなぎ払いを食らったら、それがはずれて全身がばらばらになりそうな気がする。
でも、それが来る前には竜は一度体をねじる。
よく見ておけば、躱せると思う。
そう、よく見るんだ。
普段と違う行動をしたらすぐに離れる癖をつけておかないと、初見の攻撃に対応できない。
こんなことはすでに学んだことだったはずだ。
相変わらず、自分の戦いのセンスの無さには失望する。
ただ、それを嘆いていても始まらない。
えっと、弩で攻撃を続けるのはいいとして、次はどこを狙って撃てばいいんだろう。
胸を狙って撃ってみたけど刺さりすらしないんだけど。
外れてもいいから、頭を狙って矢を放つ?
角度があって狙いづらいけど、目になら矢は刺さる気がする。
とにかくいろんな場所に何発か撃ってみて、反応を見てみよう。
体をねじったら、尻尾が来るのですぐに後ろに走って逃げる。
それだけは絶対に守る。
同じように一度洞窟の外に出て、弩に矢を装填して戻ってくる。
やっぱり、竜は立ったままで自分を待ち構えていた。
チャンスがあれば頭を狙おう。偶然でも目に当たればなんか効果があるかもしれない。
次に胴体。
それに関節部分とかもいいかもしれない。
全身鎧もそうだけど、動きが制限されるから関節の装甲は薄くなってたりする。
竜のうろこはどうなんだろう。同じ理屈が通じるだろうか。
相手をよく見ながら近寄っていく。
今のところ、竜も黙ってこっちのスキをうかがっているようだった。
好機と見たらまた攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
それを相手に悟られないようにしなければ。
弩を構えて接近する。
今度は頭はやっぱり遠い。
それなら胴体の中央を狙う?
多少、狙いがずれても必ずどこかには当たると思う。
後ろ足で立ち上がった竜のみぞおちの部分を狙う。
竜の体の中心。
今のところ、相手も黙ってこっちを見ている。
引き金を引く。
矢はやっぱり刺さらない。
金属同士がこすれるような音がして、弾かれる。
竜が体をねじった。
すぐ後ろに走る。
背後で風が唸りを上げる。
とっさに飛ぶ。
ズザー。
地面の上をすべる。
砂埃が舞い上がった。
体を確認する。
なんともない!
すぐ立ち上がって後ろを振り向くと地面に竜の尻尾がなぞった跡が扇状に広がっていた。
……飛ばなきゃ吹き飛ばされてたな。
こんなに広範囲な攻撃なのね。弩の有効射程ぎりぎりか。
でも、この跡のおかげでどれくらいの間合いを保てばいいか、わかる!
この後、矢が尽きるまで何度も同じことを繰り返した。
入り口に行って矢を装填し、戻ってきて引き金を引く。
引き金を引いたらすぐに後ろに逃げる。
矢は全弾命中した。
ただ、一本も刺さらない。
竜は何か考えているのか、その間、尻尾攻撃はしてこなかった。
相変わらず、平気な顔をしていた。
小憎らしい。
いや、竜の表情なんてわかんないんですけどね。
矢は尽きた。
弩を捨てて剣を抜いた。
弩の距離から、剣と盾を構えてゆっくり進む。
竜は相変わらず涼しい顔でこちらを見下ろしている。
ただ、この距離なのに向かってくることもないのが不思議だった。
じりじり距離を詰めて、やがて半分ほど進んだところで。
ぐ、と竜が上半身をねじり始めた。
このタイミングでか……ッ!
慌てて後ろを向いて走り出……そうとしてやめた。
竜の足元に「空間」が見えた。
今から走っても間に合わない。
弾き飛ばされるのがオチだ。
なら、前に走ってあの空間に飛び込む。
地面を蹴って、勢いよく前に走る。
見えているのはあの空間だけ。
竜の両足の間にある、あの隙間……!
走って飛び込む。周囲から鈍い風切り音。
おお……。
下半身を回転させるための軸足の側。安全そうだ。
ただ、竜の全身を確認できない。次にどんな行動をとるか不安ではある。
竜は自分を見失っているようだった。
尻尾にはじかれてどこかに吹き飛んだとでも思っているのか、自分の姿を探しているようでもある。
あれ、今、好機なんじゃ。
とっさに剣を振り下ろす。
尻尾薙ぎ払いの軸足となる竜の左足。
弾かれる。やっぱ硬い。でも、もう一回。さらにもう一回!
竜が気づいた。
この位置取りは初めてだ。来る? 反撃、来る?
警戒は怠らない。
前足で振り払い来た。攻撃をやめて後ろに飛ぶ。
通り過ぎる轟音。その場でちょっと様子見。
反撃、来ない。来ない。
軸足に近寄る。攻撃、攻撃、攻撃。
前足来た。離れる。待機。近寄って、攻撃攻撃攻撃!
同じうろこを何度も攻撃する。
硬いうろこにも、爪でひっかいたような傷が幾筋も走る。
反撃を警戒しながらの、剣を振り続ける。
反撃が前足での振り払いくらいしか来ない。
体の構造上、股下は反撃しにくいのかもしれない。
たたき続けると嫌がって、前に後ろに移動したりもする。
けど、動きそのものが遅い。それに合わせて自分も移動して同じ位置につける。
そして、攻撃と回避を繰り返す。
気の遠くなるような時間、同じことを繰り返したと思う。
同じところを叩きつづけたうろこは、はた目にもわかるくらい傷だらけになっている。
ただし、表面に傷がついているだけで貫ける様子はない。
そして、その時は突然訪れた。