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新しい鎧を着こみながら、ずっと考えていた。
もう一回行くにしても、同じことをやっていたら芸がない。
幸い、一度だけ戦ったために敵のことが少しだけわかっている。
盾で防ぐときはしっかりと体に腕を引き付けて全身で受ける感じにしないと腕がもがれてしまう。
また、動き自体は早くないため、しっかり見ていれば躱すことはできるということ。
どちらにしろ、次はもうちょっと焦らずにいけると思う。
それにしても問題は相手に与えるダメージなんだが。
非力な腕から繰り出される剣の一撃は、竜のうろこにあっさりと弾かれる。
なんとか、うろこを貫いてその下にある肉に刃を突き立てたいんだけど。
そんなことをつぶやいていたら。
鎧のすきまにせっせと布を詰め込んでいたエミリが何気なく言った。
「弓とか、どう?」
「弓?」
「そう、矢が飛んでやつ」
弓か……。
確かに弓なら貫通力もあるかもしれない。
それに離れて攻撃できるから、竜の攻撃も食らわないかもしれない。
射程があるんで、いろんな場所に攻撃が届く。
いいような……気がする。
ただ、問題が一つだけある。
自分、弓を扱ったことがありません。
それでも剣で攻撃するよりはいいのかもしれない。
とにかく、話をしてみるか。
今日、自分が帰ってきたときさんざん泣いていたミザリは疲れたのか、ベッドですやすや眠っている。
ほっぺたに涙の筋がついてたので、拭いてやろうと思ったけど、起こしそうだったのでやめておいた。
そんな彼女を部屋にのこして、自分とエミリは伯に相談に行った。
部屋に入ると、伯とマルガは相変わらず暗い表情で頭を抱えていた。
こういう理由で弓を使ってみたいというと、城の庭に弓を撃てる場所があるのでやってみるかと言われた。
自分とエミリがそこに行こうとすると、伯とマルガもついてきた。
「だ、だめだぁ」
みょいーん。
撃ち方は教えてもらったけど、全然、矢がきれいに飛ばない。
弓に矢をつがえて撃っても、みょいーんと弱弱しい矢が変な方に飛んでいく。
伯もマルガも何か期待していたようだったが、自分の有様を見るとため息をついた。
人を見てため息つくとか、ちょっと失礼じゃない? とも思ったが。
まぁ、これはあきれられてもしょうがないか。
こりゃあきらめるしかないかな、と思ったとき。
伯が何かを思いついたようだった。
使用人に命じて持ってこさせたのは、弩だった。
「これなら、多少はいいかもしれない」
伯に簡単にお礼を言って、弩を受け取る。
離れた場所から的に向かって、引き金を引くとあろうことかど真ん中に命中!
ドス!
と頼もしい音を立てて、矢が木の的に突き刺さる。
自分も、エミリも、マルガも、伯も、使用人も、それを見て一瞬わっと歓声を上げた。
だが、伯はすぐに自分を取り戻して、「それくらいできたところで」と捨て台詞を残して去っていった。
あれ、でもこれ一発しか撃てないじゃん。
再装填はなんとかできた。
かなり力を込めて弦を引っ張り、矢をセットした。
だけど、こんなに時間がかかったら二発目を撃つ前に接近されてやられそう。
でも、ないよりはましか。
とりあえず、これは背中に背負っていこう。
さてと、それじゃもう一回行くか。
昼頃に街について、治療を受け、いろいろ準備してたら夕方になってしまった。
だけど、ミザリが寝ている今がチャンスだ。
もし、出がけに泣きつかれたら振り切って出発できる自信がない。
結局のところ、甘えてくるミザリが可愛くてしょうがない自分。
だから、今がチャンスだ。
また、城に馬車を呼んでもらって乗り込もうとする。
エミリとマルガが見送ってくれるが、伯はその場にいなかった。
と、思いきや城の窓からこちらを見ているのを発見。
なんだかんだで気にかけてくれているのだろう。
手を挙げて挨拶すると、窓際からすっと離れていくのが見えた。
「ほんじゃ、いってくる」
最初と同じ挨拶をして馬車に後ろに乗った。
二人とも、不安そうな顔をするだけで何も言わなかった。
馬車は前回と同じ御者のものだった。
「正直、また会えるとはおもっていませんでしたよ」
街中を走りながら、そんな軽口をたたく。
そうだね、と応じながらも何か違和感を覚えて馬車の荷台から外を眺める。
なぜか、街の人たちが自分のことを見ているような気がするんだけど。
相変わらず、幌もない馬車の荷台はむき出しで乗っている自分の姿は丸見えだ。
御者はそれに気づいて言う。
「気になります? 街で噂になってましてね」
「噂?」
「今日の昼頃でしたかね。竜と戦って帰ってきた人がいるっていう噂が街をちょっとだけにぎわせましてね」
「へー、自分以外にもそんな人がいるのか」
御者は笑う。
「いやいや。だんなのことですよ」
「自分? そうか、そうだよな」
瘴気のためにどんな勇者も数刻で倒れる。
そのため、誰もあの竜には近寄れない。
自分のように呼吸をしない者以外は。
そして、もしそんな人がいるなら伯もマルガもあそこまで悲嘆に暮れないだろう。
少なくとも自分よりは役に立つはずだから。
ランバートの正門を抜けたところでまた御者が話しかけてきた。
「だんな」
「なに?」
「もう一度同じことを聞いてもいいですか?」
「いいよ」
「往復の料金をもらってるんですが、帰りはどうします?」
「そうだね、前と同じでいいよ」
ネビル山につく頃には深夜になっていた。
ただ、自分は暗い中での不思議と目が見えるので、難なく山を登っていく。
そして、竜のいる洞窟の前にくると、剣と盾、それに背中の弩を確認して、再び中に入っていった。
二回戦、スタート。