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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
星に選ばれた骨
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 実を言うと、この部屋で話を聞いた時から気持ちは決まっていた。

 結局、誰かがどうにかしないといけないことなんだ。

 そして、それができるのが自分しかいなかったら、行くしかない。

 ただ、ここまで自分が渋ったのは頼み方の問題だけだったのだ。

 最初からもっときちんと頼んでくれれば、自分はあっさりとうなずいた。

 焦っているのはわかるけど、それでも通すべき筋も順序もある。

 それを無視して強引に相手を動かそうとするのは、好きじゃない。

 でも、マルガや伯の気持ちだってわからなくはないんだ。

 領主としての責任や、この国の行く末を考えたら、手段は選んでいられなかったのだろう。

「もう一回、ランバート伯を呼んでもらえる?」

 額を床にこすりつけていたマルガは、ハッとして顔を上げた。

 そして、立ち上がるともう一度自分に頭を下げてすぐに伯を呼びに行った。

 

 部屋に入ってきた伯は、自分と向かうあうように先ほどと同じ場所に座った。

「マルガは?」

 彼女の姿が見えなかったが。

「とても疲れているようだったので部屋で休んでもらった」

 伯は神妙な表情で言った。

 とはいえ、すでにこちらは決意を固めている。

「提案があります」

 自分の言葉に、伯はうなずく。

「まず、連れの二人はこの屋敷に置いておくのはかまわない。でも、丁重に扱って」

 伯の表情がぱっと明るくなった。

 頭がいい人だから、すぐに察したみたい。

 事の成り行きは大体、マルガから聞いていただろうが、半信半疑だったのかも。

「もちろんだとも! 最初からそのつもりだった!」

 それから、と付け加えた。

「必要な物が何か、考える時間が欲しいから、ちょっと時間もらえる?」

「わかった! 決まったらすぐに教えてくれ! 他になにかあるかな?」

「えーっとね……、今は特にないかな」

 じゃ、そゆことで。

 簡潔に話を打ち切って立ち上がる。

 部屋を出て二人に会いに行こうとしたが、どこにいるかわからなかった。

「そういえば、ミザリとエミリはどこ?」

 自分が決心したことを知って、若干興奮気味の伯は

「すぐ隣の部屋さ。少し遠い部屋に連れて行こうと思ったが、小さいほうのお嬢さんが泣くのでね」

 そんなことを言った。


 すぐ隣の部屋の扉を開けると、エミリがそれに気づいて駆け寄ってきた。

「骨! それで?」

 同じように駆け寄ってきて、腰骨をぺたぺた触ってくるミザリの頭をなでる。

「えっと、そのぉ、行くことになった……」

 それを聞いたエミリは唖然としている。

「あんた……! あんたに何ができるの!」

 それを言われるとつらい。

 エミリは自分がどんなに貧弱な存在か知っている。

 皮も筋肉も内臓もないし、何にも知らない。

 ばらばらになったら動けなくなるし。あごの骨がはずれるとしゃべれなくもなる。

 そんな自分がよくわからない「竜」なんかと戦いにいくとか、頭がおかしいと思われても仕方がない。

 とにかく瘴気がすごすぎて、ろくに近寄れないから何にもわかってないのだ。

 もう、手探りでいろいろやるしかない。

 とにかく、今は旅支度を整えるために必要なものを準備したい。

 自分たちは椅子に座って話を始めた。

「まぁ、あんたには食料はいらないよね」 

 うん、いらない。

「あと、なんだろ……、なにがいるんだっけ?」

 やばい、戦いに行った経験がないから何が必要なのか全くわかんない。

 ミザリはエミリの膝の上でおとなしくしている。

 やっぱり、あんまり状況がわかってないみたい。

 エミリは思いついたように言う。

「ほら、あれだ。剣とかいるんじゃない?」

 剣! 剣ですか。

 そりゃそうだ。

 戦いにいくんだからね。

「なら、鎧とか盾も?」

「いるいる! あんた、ばらばらになったら動けないし!」

「まじかー、ばらばらになっちゃう?」

「なるなる! だって、竜にかみつかれたりするんじゃない?」

「噛みつかれるの!?」

「だから、鎧とかいるんだって!」

「ほかには?」

「わかんない!」

「じゃぁ、とりあえず、伯に剣と鎧だけ用意してもらう?」


「これで、よろしいですか?」

 初老の使用人が運んできたのは、白銀に光る全身鎧だった。

「お、おお……」

 思わず、声が出てしまう。

 でも、なんかすごく重そうだ。

 こんなの着て動けるんだろうか。

「骨、一回着てみる?」

 エミリの提案で、試着してみることにした。


「き、着れた……」

 重たいんだけど、重さが全身に分散するからなのか。

 かなり動ける。

 でも……。

「中身すっかすか!」

 骨しかない体なんで、鎧の中めちゃ空洞。

 留め金やベルトで止めても肉がないからか、鎧がぐらぐらする。

「それならさ、布とか綿とか詰めとけば殴られても痛くないんじゃない?」

 一回脱いだあと、もう一度鎧を着ながらエミリが隙間に布や綿をきれいに詰めてくれた。

「どう?」

「うん、いい感じ。でも、ちょっと息苦しいかな。息はしないけど」

 盾と剣をもって、それっぽく構えをとる。

 なぜか、ミザリはそれを見て、ぱちぱちと拍手する。

 様子を見にやってきた伯とマルガも、おお、と声を上げた。


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