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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
第一部 完全に骨です、本当にありがとうございました。
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 どうしよう。

 と、いう言葉しか出てこなかった。

 目を覚ましたら記憶も何も無くて、ここがどこだかもわからなくて、しかも体は骨だけになっていた。

 なんというか、事態があまりに急展開過ぎるのだが、こんな誰もいない廃墟で文句を言ったって誰にも聞こえやしない。

 もはや、なにがなんだか、わからない。

 目を覚まして記憶が無いだけならともかく、皮膚も筋肉も臓器もないとかもうどうしろというんだろうか。

 せめて、記憶が無いだけなら(それでも最初はへこむだろうが)とりあえず人里に下りて、新しい生活を始められるかもしれない。

 仕事を見つけて、生活を整え、嫁さんをもらって幸福な一生を送ることができたかもしれない。

 しかも、途中で自分の記憶が戻ったりして、実は自分は貴族の息子で、遺産が転がり込んできて、それを元手に交易とかして大もうけとか、そういうことができるかもしれない。

 なのに、自分に残ってるの骨だけ!

 いや、ちょっと発想を転換してみようか。

 ばらばらになったものは、もう一度ひとつずつ整理して積み重ねていけばいい。

 我思う故に、我在り。

 男か女かもわからないわけだけど、とりあえず一人称は「自分」としておこうか。

 そこからはじめて、自分に残っているものを一つ一つ確認してみようじゃないか。

 割とそれを手がかりに今後どうするかを決められるかもしれない。

 それじゃ、はじめようか。

 まず、自分に残されたものの一つは、この骸骨だけになった体。

 あと、人間としての常識と、一定以上の知識。

 あ、くそ。もう何も無いでやんの……。

 ただ、思考力が残っていたのは、いいんだか悪いんだが。

 脳も無いのにどこで思考しているのか、不思議だが、まぁ、それはおいといて。

 じゃぁ、それらをもって、どうしよう、何をしようという話になるのだが、これが正直さっぱりわからない。

 人間だったら生きていくために食料を獲得するだとか、安全に寝るところを確保するだとか、奥さんをもらって子孫を残すだとかいろいろあるんだろう。

 けど、もう自分は人間とは言えない(哲学的な意味ではまだ人間だと思いたい)と思うし、食料も多分必要ない。

 それに寝るところも必要ないように思う。さっきまで寝ていてなんだけど、今の自分に睡眠が必要かどうかというのは大いに疑問が残る。

 ましてや、子孫を残そうなんて気持ちも多分……、ない。(でも、綺麗な女の子がいたら、いちゃいちゃしたいと思う気持ちはあったりする)

 だが、そもそも自分には生殖器官が無いし、男か女かもわからない。

 あれ、女の子が好きだということは、自分は男なのだろうか? 

 待て待て、女の子が好きな女の子だっているわけだし、結論を出すには早すぎる。

 ともあれ、自分は少なくともこのまま消えてなくなりたいとか思っているわけじゃないことだけはわかる。

 それなら、近くの洞窟にでも行ってのんびり雲でも眺めながら暮らそうか。

 いや、違う。

 自分はそんなことは望んでいない。

 そんな何も無い生活なんか、きっと耐えられない。

 精神をすり減らしながら、いずれこの骨格が風化していくのを待つだけなんて嫌だ。

 そもそも前提が間違っていたんだ。

 「どうしよう」じゃない。「どうしたい」かだ。

 そこで自分にはもうひとつだけ大事なものが残っていることに気づいた。

 思考力でも、知識でもない。それは「心」だ。

 自分は、こんな風になってしまったけど、まだ泣いたり、笑ったり、怒ったりできる。

 それがなぜかうれしかった。

 そして、それが今の自分の全てなんだ。

 なら、とりあえず何がしたい? 何をしたらうれしい?

 そうか、そうだ。

 自分は、とにかく誰かに会いたいよ。

 

 

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