16
二日後、ランパートについた。
遠くからでもわかる高い城壁に囲まれた地方都市。
城門をくぐるときも、あまりの城壁の高さに首の骨が痛くなるほど見上げなければならなかった。
巨大な城壁の内側は、これまたにぎやかなだった。
城門入り口近くから、大通りの左右にはさまざまな露天が立ち並びさまざまな品物が売っていた。
服、雑貨、小物、野菜。
露天の店主たちは声を張り上げて道行く人にアピールしている。
めずらしげに眺めていた自分とミザリと違って、エミリは腕を組んで馬車の外を見ようとしない。
「あれ、エミリは見ないの?」
ミザリなど馬車の窓に張り付いている。
「いや、あたしは前に来たことあるからさ。あんたたちもあんまり田舎者丸出しな態度はやめなよ」
と、かっこつけてるが服や小物の店があると、視線がちらちら泳ぐ。
彼女にしてはわかりやすいが、突っ込んであげるのはやめておこう。
マルガはそんな自分たちを見ながら、上品にクスリと笑う。
馬車は大通りをそのまま直進していった。
大通りも進むごとにその色を変えていく。
最初は露天が多かったが、徐々に店舗を持つお店が目立つようになり、今は静かな住宅街だった。
どの家も石造りで大きな家だ。
さらにその先には城がある。
「なんとなく予想はしてたけど」
エミリは緊張した面持ちで、ようやく馬車の窓から顔をだした。
そして、道の先にある城を見つめた。
城の周りには堀がめぐらされ、水が引いてあった。
馬車が城門の近くにくると堀を渡る橋がおろされ、馬車はその上を進んでいく。
馬車を下りて城の中に通されると、そこはまるで世界が違った。
玄関は赤いじゅうたんが引かれ、大理石の床は鏡のように磨かれている。
調度品や絵画が、嫌味にならない程度の間隔で飾れている。
ミザリやエミリの格好は十分綺麗で可愛かったが、どうもこの城の中の雰囲気にはあわず、とても浮いていた。
全裸の全身骨格の自分は言わずもがな。
この雰囲気に合わせるには、ドレスでも着るしかないように思う。
そんな中を自分は拘束されたまま連行された。
そして、ミザリとエミリと一緒に客間らしきところに通された。
上品なソファとテーブル、落ち着いた壁紙、広すぎず狭すぎない部屋はとても安心できる。
……はずだったのだが、ミザリとエミリはそわそわしっぱなしだった。
使用人とおぼしく初老の人が入ってきて、飲み物はどうかとたずねられる。
部屋の戸をノックされたとき、エミリは若干ビクついたが、それも突っ込まないであげておこう。
「自分は、飲み食いできないので」
と、丁重に断ったが、エミリは緊張して言葉が出ないようだった。
ミザリにいたってはそもそもしゃべれない。
使用人も困った様子だったが、
「こっちの二人に、なんかあったかいお茶もらえる?」
と自分が告げると微笑を残して準備しに行った。
しばらくしてお茶が出てくると、カップに恐る恐る口をつけたエミリは「わ、全然違う!」と一気に飲み干した。
それを先ほどの使用人に見られていたのを思い出すと、赤くなってうつむいた。
お茶のおかわりをもらった後、使用人はそのまま下がって自分たち三人だけが部屋に取り残された。
「ねぇ、なんであんたそんなに落ち着いてんの?」
責めるような口調で言ってきたが、そんなこと言われたって。
「わかんない。緊張とかする?」
「あんた、骨になる前はどっかいいとこのおぼっちゃんだったのかもね」
と、エミリは気楽に言ってくれた。
部屋の扉がノックされる。
精悍な声で「失礼」と聞こえてきたあと、部屋の扉が開けられた。
そこには、どこから見ても紳士としか言えない背の高い中年の男が立っていた。
そのうしろにはマルガもいた。
「彼です」
マルガが男にささやくようにいった。
男はしばらく自分のことを見つめて「そうか、そういう意味だったのか」とつぶやいた。
「マルガ、ありがとう」
男が言った。
「伯、信じていただけましたか? 私の占い、ピタリと当たります」
そして、ようやく笑顔を浮かべて、自分たちが座っているソファの向かいに腰を下ろす。
テーブルを挟む形で自分たち、向こう側には男とマルガが腰を下ろした。
こっちは完全に置いてけぼりだ。
エミリが口を尖らせる。
「あのさ、マルガは知ってるけど、そっちの人は誰?」
その言葉に男は、ややあって笑いながら言った。
「お嬢さん、自己紹介が遅れて申し訳ない。私はランバート辺境伯。まぁ、君が言うところのここらを治めている王様みたいなものだよ」
以前、エミリが言った台詞をそのまま吐いたランバート伯。
誰がそれを教えたかなんて、わかりきっている。
旅の途中、エミリはずっとマルガに冷たい態度をとってたからね。
エミリは顔を真っ赤にしてにらんだが、マルガは「お返しです」と小さな声でつぶやいた。