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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
星に選ばれた骨
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 自分と一人の兵士がもみあっていると、騒ぎを聞きつけたのか、他の兵士たちも集まってきた。

 鍛えられた屈強な兵士と、骨だけの細腕の自分とでは勝負にならなかった。

 兵士でなくても、この村に来た初日に村の男たちにあっさりと取り押さえられている。

 自分はどこまで非力だった。

 引っ立てられて村の広場の中央に引きずり出される。

 マルガも隊長も兵士たちも、自分の骨だけの姿を見て、それが動いてしゃべっているの見て驚いていた。

 捕らえられた自分の姿を見て、泣きながらミザリが飛び出してきた。

 それを追ってエミリとゲンさん、ついでにロイ君も苦々しい顔をしながら自分を助けようとしてくれた。

 だけど、みんな兵士たちにさえぎられて、取り押さえられた。

 マルガは静かに「そういうことですか」とつぶやいた。

 隊長は取り押さえられた自分を見ながら、マルガに言った。

「目的の人物は、『一目見ればわかる』ということでしたが……」

 これは、そもそも人間なのでしょうか、そう言いたいようだった。

 だが、マルガは満足そうに自分の骨だけの体を見てうなずく。

「間違いありません」

「いや、でもしかし……」

 マルガは静かだけど、さらに強い声で言った。

「間違いありません」

 何かを確信しているかのようだった。


 その後、自分は拘束されたまま、馬車に乗せられた。

 屋根のついた豪華な馬車だ。

 マルガの兵士たちへの態度といい、どこかの偉い人なのだろうか。

 馬車の中にはマルガ、自分、ミザリ、そしてエミリもいた。

 自分が無理やり馬車に乗せられそうになったとき、兵士たちのすきをついて自分にしがみついたミザリはさんざんに泣きじゃくった。

 兵士の一人が、そんなミザリを引き剥がそうとした。

 が、マルガは何を思ったのか、「あなたも一緒にいきますか?」とやさしい声で告げた。

 それを聞いて泣き止むと、ミザリはこくこくとうなずくのだった。

 そこで、村人たちの中から声がかかった。

「子供がいるならさ、面倒みる人間も必要だよね?」

 声を上げたのはエミリだ。

 マルガはエミリを足下から頭まで見回して値踏みすると、「いいでしょう」とあっさり了承した。

 村のみんながミザリとエミリの心配をして、引き止めたが「悪いようにはいたしませんよ」とマルガの声を聞いて静まるのだった。


 そんなわけでこの面子。

 馬車の外を数人の兵士が馬に乗って並走し、護衛している。

 御者台には御者の兵士と隊長が座っている。

 ミザリはそれを見ておびえたが、、馬車の後ろは壁も屋根もある完全な個室になっているので少しだけ安心したようだった。

 しかし、馬車の空気は最悪だった。

 そりゃそうだ。

 突然、村に押し寄せて乱暴を働いたあげく、こうして人を連れ去ったのだから。

 ただ、今、考えてみると、必要以上に乱暴にされたわけでもないような気がする。

 それはマルガの態度に表れていた。

「先ほどは申し訳ありません。しかし、急がねば事態は悪化する一方なのです」

 張り詰めた空気を破るように、突然、頭を下げてきた。

 ただ、気の強いエミリは怒りが収まらないといった感じだ。

 下げられたマルガの後頭部を見下ろしながら、とげとげしく言った。

「それで? なんで、あたしたち馬車に乗ってんだっけ?」

 許す気が全く感じられない。

 謝罪を受け止めてもいない態度だ。

 だけど、これくらい言う権利はあるように思う。

 マルガも、頭ひとつ下げただけで全てが許されるとは、はなから思ってないようだ。

「それは、目的地についてからお話いたします」


 その後、馬車は三日間走り続けた。

「これって、どこへ向かっているの?」

 土地勘の無い自分は素直にマルガに聞いたら、少しだけ悩んだ後、教えてくれた、

「ランバートです」

 です、って言われてもそれがどこなのかわからない。

 エミリはそれを聞いて少し考え込んだようだが、なにも知らない自分に「ここらを治めてる王様んとこ」と簡潔に教えてくれた。

「いえ、王ではありません。ランバート伯は一領主に過ぎません」

 マルガの訂正にもエミリは辛らつだった。

「そんなん、あたしらにとっちゃどっちも同じことなんだけど?」

 そして、二人とも黙り込む。

 マルガはしょぼんと、エミリはむっつりと。

 しかし、馬車の乗っている間は何もすることが無かった。

 ミザリは退屈なのか、席を離れて自分のひざの上に来たりした。

 だけど、尻に大腿骨があたるのか、背中に肋骨があたるのか。

 すわり心地が悪いようですぐにエミリのひざの上に移動した。

 しょぼーん。

 エミリはようやくひざに来たミザリを後ろから羽交い絞めにする。

「あんたも退屈なのね」

 ひざに乗せたミザリのほっぺたをぷにぷにひっぱったり、わき腹をくすぐったりして遊んでいる。

 きゃっきゃと喜ぶミザリと、それを見ていたマルガの目がふと合った。

 マルガは相変わらず顔をベールで隠しているが、優しい声でミザリを手招きする。

「私のひざにも来ますか?」

 ミザリは少し考えたあと、ぷいっと顔を背ける。

「あはは、骨もあんたも嫌われたね」

 そう言って笑うエミリは、今までマルガにすげない態度をとっていたことを思い出して、顔を赤くしてやっぱりそっぽを向いた。

 

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