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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
村人、始めました。
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 やばい、マジでやばい。

 何がやばいかって、もうほんと全然動けない。

 意識はあるんだけど手も足も動かないんだ。

 あごの骨も外れてどこかに飛んでっちゃってるせいか、声も出せなかった。

 でも、新発見。

 自分、ばらばらになってもなんか生きてました。

 いや、骨だけの自分はすでに死んでいるのかもしれない。

 だから、それは正確な表現じゃないかもしんない。

 けど、たしかに自分はここにあって、そうして自分のばらばらになってしまった骨たちを見つめてた。

 不思議な光景だったよ。

 自分であったものが、自分でなくなる感覚というか。

 まるで、切ったつめを見つめるような。

 さっきまで自分だったものが切り離されて自分じゃなくなる感覚?

 でも、確かにあれは自分で、そしてそう考えている自分もたしかにここにいる。

 ともあれ、どうにかしないといけないと思った。

 動けないどころか、声すら出せないんじゃ、バラバラの白骨死体以外の何者でもない。

 ただ、前みたいに動いたりしゃべったりするにはどうすればいいのか。

 全然わからない。

 とりあえず、明日もゲンさんが来るはず。

 このまましばらく待つしかない。


 そうして、夜があけて次の日の朝。

 予想通りゲンさんがやって来たのだけど、来たのは彼だけじゃなかった。

 ゲンさんの隣には、エミリとミザリもいた。

 ミザリは、二人の側を離れてしばらくあたりをきょろきょろすると、こんな姿になってしまった自分をすぐに見つけた

 彼女はあわてて走ってくると、自分のしゃれこうべを抱きしめて大きな声で泣き始めた。

 ゲンさんもエミリも、ばらばらになった自分の姿を見てびっくりしていた。

 けど、さすがに大人だったみたい。

 周りの状況を見て何が起こったのかを理解したようだった。

「おい、骨! 骨!」

 ミザリに抱かれた自分に、エミリが何度も呼びかけてくる。

 自分も必死で返事をした。

 大丈夫、聞こえてるよ。

 だから、泣かなくてもいいよ。

 そう言いたいのに、声が出せない。

 どうすればいいんだろう。

 そもそも、自分はどんな風に声を出していたか。

 ミザリは相変わらず、大声で泣いている。

 どんなに呼びかけられても触られても、なんの返事もできない。

 そんな自分を見て、みんなは勘違いしたみたい。

 大人二人も顔を真っ青にして、立ち尽くしていた。

 けど、何を思いついたのか。

 あきらめたようにため息をつくと自分のバラバラになった骨を拾い集めた。

 そして、それを抱えて村に戻っていった。

 

 村に帰ったあとは、大騒ぎ。

 こんな風になってしまったことが村中に知れ渡って、大勢の人たちがいろいろと動き出した。

 自分はいつもの小屋にバラバラになった体ごと置かれていた。

 その隣ではあいかわらずミザリがわんわん泣いている。

 そこにゲンさんが大きな箱を持って入ってきた。

 どう見ても棺桶だ。

 そこでようやく気づいた。

 これ、本当にまずいんじゃ。

 けど、今の自分にはどうすることもできない。

 自分の骨はエミリの手で棺桶の中に丁寧に収められた。

「バラバラになっちゃったけどさ。最後くらい、もとの姿にしてあげたいからね……」

 そういって目にうっすらと涙を浮かべながら言った。

 棺桶の中でパズルのピースのようになってしまった自分をああでもない、こうでもないと組み立てていく。

 そうして、全身の骨格をようやく元にもどし、頭蓋骨を首の骨の上に置いた。

「ああ、これもなくちゃね」

 最後に頭蓋のあごの部分を取り出すと、きちんと頭蓋骨にはめた。

 そこまで済んだところで、ロイ君が棺桶のふたをもってやってきた。

「ゲンさん、ふたを上にのせて、釘をうちつければいいんだよな?」

「おう」と短く答えるゲンさん。

 ロイ君はふたを小屋の壁に立てかけて棺桶のなかの自分を見下ろした。

「でもさ、こいつにここまでやってやることないんじゃねぇの?」

 ゲンさんは、静かに「いや」と返した。

「そもそも俺が手伝ってくれって言わなければ、こんなことにはならなかった」

 そういってうつむくゲンさんに、エミリが涙をこぼしながら返す。

「ゲンさんが悪いわけじゃないさ。あたしが、骨に仕事を紹介したから」

 ロイ君が、棺桶にふたをかぶせようと持ってくる。

「棺桶を埋葬する穴は、ほかの連中が掘ってくれてるぜ」

 その一言を聞いた時の自分の恐怖がわかるかな。

 木でできた棺桶に入れられて、ふたは釘で打ち付けられた上に土の中に埋められる。

 確かに自分は骨だけど、意識はある。

 普通の人間だったら、生きたまま埋葬されるのと同じことだ。

 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい……

 そんなとこに埋められて出てこられるのはいつなんだ。

 木の棺おけが腐って、上にかぶせられた土が何かの拍子に取り除かれて、でもそれっていつ? 

 自力で土の中から出られる自信は全くない。

 いや、そもそも出てこられる保証はない。

 何もできないまま意識だけもって永遠に土の中で過ごす。

 そんなことを想像したら、頭がおかしくなりそうだった。

 いよいよ、ロイ君がふたを閉めようとしたとき、自分は心の中で叫んだ。

 待って! 自分は生きてる! いや、死んでるのかもしれないけど、でも、生きてるんだ!


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