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〈リバイブ〉

『どんなトリックかって? 〈パークサイト〉に決まってんだろ! 〈リバイブ〉って奴だよ!』

「何、それ!!」

『一回だけ死んでも復活できるんだ!』

「ちょっ、ここの〈プレイヤー〉が選択したのは〈レーダー〉じゃないの!」

『間違ったみてえだ!』

「きいてないよ!!」


 僕は三人組のお笑い芸人みたいなことを言ってから、身を逸らした。

 自分に突き刺さっていたはずの中華包丁を振り回して、奇声を発する男が襲い掛かってきたからだ。

 咄嗟に銃を構えて撃つが、見当違いの方向へと飛んで行ってしまう。

 やはり一瞬でもきちんと構えないと……。


「ギェェェェェェフウウウ!!」


 いきなり白目を剥いたまま、こちらにやってくる。

 ザグとソファーがバッサリと叩き切られる。

 中のスプリングが顔を出した。

 あの中華包丁の切れ味がいいというよりも、男の力が強すぎるのだ。


「やっておしまい、三郎! その男をブチ殺してしまえ!」


 オバサンの指示のままに、三郎という男がくる。

 さっきまでは「一郎」と呼ばれていたはずなのに。

 僕は二度転がってから、三人掛けの椅子を駆け上がる。

 まずは距離をとらないと……。

 しかし、勢いよく嵩にかかって攻めたててくる怪人がテーブルを蹴り飛ばして突っ込んできた。

 拳銃というものは結局は距離を必要とする道具だ。

 ガン・カタでも使えなければ、むしろ動きを限定されるだけ不利だ。

 正直なところ、僕は身が軽いだけで体術を鍛えている訳ではない。

 奇襲以外でまともに戦いなんかできるはずがなかった。

 けれど、始めてしまった以上、対処しないと。

 こうなると〈去勢〉されたのは助かるね。

 普通の高校生だったら、僕なんて為す術もなく殺されてしまっていただろうから。

 そんなのはゴメンだ。

 テーブルの上に片づけられずに残っていた食器類の類を蹴ってぶちまける。


「ぷギャア!」


 金属のステーキ皿が顔面にぶつかり、三郎が怯んだ。

 その隙をついてつま先をツッコむ。

 嫌な手応えとともに鼻の骨が折れたようだ。

 悲鳴もなんか動物みたいだ。


「うるさいよ!」


 もう一度蹴りつけたら、床に落ちていった。

 おかげでようやく体勢が整えられて、僕は店の端にまで達せた。

 だが、まだ三郎とオバサンは健在だ。

 となると逃げるためには……。

 イスを手にとって、正面のガラス張りの部分に叩き付ける。

 大きく割れ目が入り砕けた。

 車に使われている強化フロントガラスなどとちがい、ただの大きなガラスなので割るのは簡単だ。

 なんといっても町のいたるところでゾンビどもが実演してくれているしね。

 開いた隙間から外へとジャンプする。

 これで逃げきった。


 ―――と、連中は思っただろうけど、僕はしゃがんで陰に隠れるとマカロフをぶっ放す。

 不用意に僕を追っていた三郎の太ももに命中した。


『よっしゃあ!』


 頭の中のゼルパァールが歓声を上げる。

 まったく、僕は生きている人を撃ったんだよ、そんなに気分のいいものじゃないのに。


「……これ以上、こっちにこないで! 殺すことになるよ!」


 だが、警告は無視された。


「ふざけんでないよ! 一郎を撃ったくせに、このキチ○イ!」

「そっちに言われたくないなあ」


 今となっては僕も同じ穴の狢だからなあ。

 でも、不思議だ。

 オバサンは僕が撃ったのを一郎だと認識しているのに、さっきは三郎だと言っていた。

 更年期障害で記憶に齟齬でも生じていない限り、そんなことはなさそうなぐらいに筋骨隆々で元気っぽいオバサンだ。

 おかしいことはわかる。

 そんなことを思案している余裕はなかったけど。

 足を引っ張りながら、三郎が窓から飛び出してきた。

 僕は飛び退り、花壇を乗り越えて、駐車場にでる。

 多少なりとも距離を置いて……。

 マカロフを横に構えて二発撃った。

 初弾は外れたが、二発目は今度こそ過たず、三郎の胸を貫いた。


「ギャピィィィィ!!」


 豚のように鳴くな!

 でも、油断はしない。

 さっきの奇跡的な復活を思い出したからだ。

 確かゼルパァールは〈パークサイト〉の力だと言っていたけど……。


「ゼルパァール。〈リバイブ〉ってのを使ったということは、彼が〈キャラクター〉なの?」

『実はな……さっきから〈キャラクター〉の反応が二つあるんだよ……。なんだ、バグか? さっきまでは一つだったのに』

「どういうこと?」

『いや、たぶん、こいつが〈キャラクター〉だというのは確かだ。〈パークサイト〉は普通なら他人にはつけられないものだし……』

「じゃあ……」

『だけれどよ、あの店内にもまだ反応があるんだ。ここにはてめえを含めて三つの〈キャラクター〉が集結しているのさ』

「マジで?」


 銃口を見せながら、慎重に痛みに蠢く三郎に近づき、左手のあたりを剥いた。

 僕と同じ位置に蒼い刺青のようなものがある。

 これで、彼が〈キャラクター〉であることは明白になった。

 だが、まだいるっていうのか?


『殺しておけや。もう〈リバイブ〉はないから長くはないがな』

「いわれなくても」


 僕は三郎の眉間に銃口をあてて引き金を絞った。

 パン。

 あっけなく、僕の手にかかった犠牲者は二人になる。

 たった一日違うだけで、ここまで心境の変化があるなんて、僕の方が驚きだよ。


「さぶろうぉぉぉぉぉぉぉ!」


 この様子をみていたらしいオバサン唾を吐きながらこちらにやってくる。

 咄嗟にマカロフを構えた僕のことなんか見てもいない。

 ただ、息子のところへと駆け寄っていく。

 腐っていても、人肉食いの怪物の集まりであっても、家族は家族なのだ。

 息子が失われれば取り乱すし、涙も流すだろう。

 親子愛というものは強い絆でできている。


「三郎、一郎、三郎……」


 二人の息子の名前を交互に繰り返し、死んだ身体を抱きしめている。

 母親の方がガタイがいいこともあり、まるで大きなお人形遊びをしているようだった。

 ただ、このオバサンはあの倉庫に吊るされた女の子と、道端にゴミと一緒に捨てられた死骸について責任がある。

 きっと放っておけばもっと多くの―――ゾンビの脅威から逃れた人たちを不幸のどん底に突き落とすだろう。

 今、ここでいなくなってしまうのに越したことはない。


「よくも、息子を……」

「……ごめん。でも、悪いこととは思わないよ」

「うちの子供たちを……」


 般若のような形相で僕を睨みつけるオバサン。

 涙を流し、目を血走らせている顔からは、まるで彼女の方が正義っぽい。

 でも、仕方ない。

 僕は人殺しという罪悪に手を汚すけど、それはあなたたちも同様なんだ。


「さよなら」


 引き金を引こうとした時、


『あぶねえ!!』


 ゼルパァールの叫びが僕を横っ飛びさせた。

 ほんの一瞬前までいた場所が欠片とともに吹き散る。

 思わず、頭を抱えて駐車場のアスファルトの上で伏せた。

 今のは間違いなく、銃弾によるものだ。

 しかも、散弾。

 僕の知る限り、そんなものを持っているのは……。


「あなた!」

「おまえ!」


 長い銃身をバットのように振り回しながら、駐車場に戻ってきたのはさっき出ていった禿頭のでっぷりした大男であった。

 折りたたんだ銃身にまたも弾丸をこめながら、大男がやってくる。

 僕はオバサンと大男の間に割ってはいるような斜めに、狙いをつけにくくなるように動いて、再びファミレスに戻る。

 開けた場所で撃ち合いなんてしたら殺されるだけだ。


「おまえ、さっきの奴はなんだ!? なにがどうなっている!?」

「あなた、三郎が……三郎が……」

「い、一郎!!」


 大男も一郎の死体にしがみつく。

 男親の方にも子供に対する情愛が強いのだろう。

 ただ、あの死体を一郎と三郎を一緒に呼ぶのか。


「どうして一郎が……」 

「あなたたちが出ていってから、一郎が変なガキに銃で撃たれたの……」

「なんだと!」

「そのときは三郎の例の力で生き返れたんだけど……そいつを追って出て撃たれて……また……」

「あ、あの、宇宙人はどうしたんだ! 三郎の中にいた宇宙人は!?」


 大男がオバサンの肩をゆすった。

 だが、問い詰めてもわかるはずがない。

 盗み聞きしていた僕だからこそ、この二人の会話の意味が理解できたのだから。

 ただ一つだけわからないことがあっだか、そこまで聞き取ることはできなかった。

 今度は派手なブレーキを鳴らして、黒いライダーズスーツの男が帰ってきたからであった。

 

「兄貴ぃぃ!!」


 さっき出かけていった二郎だ。

 銃声を聞きつけて戻ってきたのか?

 すると、ゾンビがやってくる可能性もでてきた。

 まずい。

 このままいくと、ジリ貧だ。

 この家族だけでも厄介なのに、よりにもよってゾンビがくるかもしれないなんて……。


 さて、どうする?


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