防衛戦力が育ちました
前話、スライムのスキルを訂正しました。違和感なく読んでください。
防衛戦力の養成を始めてから一週間と三日が経つ。あれから各種五体ずつに増やし、新しい種族を召喚した。
とりあえず、その内訳も記録を取ってある。
スライム ×10 ゴブリン ×5 オーク ×5
コボルト ×5 ケトッシー ×5 ミノタウロス ×1
ケンタウロス ×1 リザードマン ×1 アラクネ ×1
ラミア ×1 ハーピー ×1
合計二十五体の召喚を行い、さらにはダンジョンの拡張も行ったことで毎日溜め込んでいたDPは一割程度しか残っていない。
ちなみに、リザードマン以降は女性陣である。言語で意思疎通ができるた種族は、かなりDPを持っていかれたが後悔はない!
ちなみに、今は拡張したダンジョンを利用してサバイバルゲームをさせている。同士討ちしないよう設定してあるから安心だ。
それぞれの動向はコールを使い、視覚と聴覚をフロートウインドウで共有させてもらっている。
「さて、連携で地力の差が埋まるかね?」
これは最初の五体を各種族のリーダーに据え、連携を取るための訓練も兼ねている。そして、ミノタウロスたち単体組は連携を打ち破るよう命令しておいた。
二十六枚目の大きなウインドウに目をやる。これにはダンジョン内のマップを表示してあり、そろそろ一度目の接敵が起きる。
「さあ、見せてくれよ。訓練の成果を!」
実を言うと、かなりテンションが上がっている。自分が育てた魔物が、どれだけ頑張れるか楽しみだ。
某アニメのボールから飛び出てバトルする気分も、こんな感じだったのかもしれない。
ミノタウロスとコボルトが接敵し、AGRを利用して時間差で間合いを詰めていった。先導を切っているのはリーダーだ。
剛腕による一撃が放たれ、鋭い鳴き声が響いた。それぞれが回避行動を取り、リーダーがミノタウロスの喉元に牙を突き立てる。
「おっ、今のはクリーンヒットか?」
二十七枚目ウインドウに目をやる。そこには単体で動いている魔物のHPを表示されていた。もっとも、シミュレーションソフトみたいなものだ。
詳細は長くなるので置いておく。というか、面倒くさい。
表示されているミノタウロスのHPは、レベルというアドバンテージで一割が削られている。
コボルト Lv10
職業:ダンジョンの防衛者・軍曹
HP 一四六六 SP 九四六
STR 二七八 AGR 五一八
VIT 三九八 INT 一〇七六
LUC 四八八
ミノタウロス Lv3
職業:ダンジョンの防衛者
HP 二〇〇六 SP 七五六
STR 九八六 AGR 二六〇
VIT 九二六 INT 一〇六六
LUC 四四八
召喚に数日の差があったからほぼ互角だが、コボルトの方は群れで連携を取っているため優位だ。先ほどの回避から四体のうち二体が、ミノタウロスの腕に牙を突き立てた。
腕による攻撃を封じ、振り落とされたリーダーが二体を伴って一斉攻撃をしかける。
「……なかなかの練度だけどなぁ」
全員のステータスを知っている身としては、これが悪手だと理解できてしまった。
ブモォオオオ―――ッ
ミノタウロスの雄叫びが響くと同時に、周囲へと衝撃波を迸らせる。必然とコボルトの連携は崩壊。
五体のうち腕に纏わりついていた二体は気絶し、吹き飛ばされたリーダーを除く二体は地面に這いつくばる。
今のは、〈闘気〉のスキルによるものだ。簡単に言うなら、攻撃と防御の両方に使用できる衝撃波。
唯一おれのHPを削ってきたから、コボルトたちはひとたまりもない。実際、HPバーは大幅に削られている。
ワオンッ、ウォオオオンッ
受け身を取り、耐えきったリーダーが再び向かっていく。そのスピードは、さっきに比べて速い。
おそらくは、〈走狗〉のスキルを発動したんだろう。速度に乗って翻弄して狙いを付けさせず、ヒット&アウェイを繰り返して確実に削っていく。
たまらず、ミノタウロスは二度目の衝撃波を放った。コボルトは為すすべなく吹き飛ばされるようにみえたが、衝撃を上手く受け流して再び攻勢に入る。
結局、終盤は一対一になってしまった。ミノタウロスは牛だが、まさにドッグファイトだな。
消耗戦になるのは目に見えていたので、他の接敵した方へと目を向ける。
「オーク隊とアラクネか……」
オークは鼻息を荒げ、リーダーが先頭を切って走り出した。ただの突進だが、重量が乗っているので直撃すれば岩もひびが入る。
それに対し、アラクネは片手を突き出して開いた。糸が飛び出し、蜘蛛の巣が通路を完全に塞いでしまう。
一匹目が網に突撃して絡めとられ、後続が次々と蜘蛛の巣を揺らした。
「………うわぁ」
わざとらしく言ってみたが、これは予想外の結果だ。
閉鎖空間で蜘蛛の巣を展開されたら、動きが制限されてしまう。また、通路を塞ぐように張れば今のように侵攻を防いでしまうわけだ。
確か、蜘蛛の糸は強力なもので鉄ワイヤーと同等の強度だったはずだ。これを攻略するには、切れ味のいい武器か魔法が必要だな。
「あとで、敵の特性を判断するよう指示を出さないとな……」
新しい課題もわかったことだし、次の接敵を確認する。
ケトッシー隊とハーピー、ゴブリン隊とケンタウロスの組み合わせだ。
ケトッシーたちは立体機動と隠形により、宙を舞うハーピーを追い詰めている。ゴブリン隊はケンタウロスの早駆けによって何度も蹴散らされていた。
「……………がんばれ、ゴブリン」
思わず、声援を送ってしまいたくなるぐらい不憫だ。
何とか張り付いて動きを止めようとするも、早駆けの勢いで振り落とされてしまっている。見た目はあれだけど、粘り強く頑張っていることは評価できるな。
さて、最後はスライム隊だ。スライムだけ他の隊より多くした理由は二つある。
一つは、単に召喚に使用するDPが少なかったからだ。そして、二つ目はスライムの特性による。
まあ、実際に見た方が速いな。ラミアとリザードマンを相手に、6:4に分れた。
ラミアは尻尾を使って薙ぎ払い、リザードマンが飛びかって殴りつけるが、スライムたちはほとんどノーダメージだ。
リザードマン側にいるリーダーのステータスを例として表示してみよう。
スライム Lv10
職業:ダンジョンの防衛者・軍曹
HP 一三五七 SP 一〇〇七
STR 二五六 AGR 二八六
VIT 九八七 INT 一〇七七
LUC 五三七
とまあ、さっき確認したコボルトと比較しても変わらないわけだ。強いて言うなら、VITが高いぐらいだろう。
しかし、直接的な要因は別にある。それは、レベル上昇によって取得したスキルだ。
スライム Lv10
スキル:形状変化 体の形状を変化させることが可能。
物理耐性 相手の物理攻撃によるダメージを半減させる。
物理封殺 相手を取り込むことにより、STRの値を10分の1にする。
コール 召喚によって自動的に誓約が交わされ、召喚者が死なない以上は使用可能。
この〈物理耐性〉スキルによるダメージは、他のスライムたちの持つ〈物理抵抗〉スキルの上位互換版だ。
つまり、魔法攻撃やSTRがけた外れに高くないと有効打にならないというわけだ。
そして、もう一つの〈物理封殺〉は纏わりついただけでも効果を発揮する。
これが、何を意味するかは容易に想像がつくだろう。
リーダーが跳ね上がり、ゲル状の体を触手へと変化させた。リザードマンの体に纏わりつき、〈物理封殺〉スキルが発動。
リザードマンの打撃は通らなくなり、スライムたちが一方的に体当たりのラッシュをかける。HPの減少は微々たるものだが、奇襲でもない真っ向勝負で圧倒していた。
「…………スライム強い」
どこの誰だろうか、ゲームの中でスライムを初期の雑魚キャラに設定したのは! もっと想像力を働かせろよ!
……っと、少し取り乱してしまった。まあ、おれが知っているのは召喚した魔物だけだしな。実際は、もっと弱いのかもしれない。
結果的に見れば、当たりが悪かったオークやゴブリンを除いて訓練の成果は出ていた。これなら、十分に防衛できるだろう。
「ということで、そろそろ外に出てみますかね?」
ようやく拠点の安全も確保できたわけだ。戦闘さえ避ければ問題は無いだろうし、いざという時は警報トラップを仕掛けておけば大丈夫なはずだ。
「ダンジョン運営:トラップ設置・警報。ダンジョン運営:トラップ設定・侵入時」
警報トラップとは警報を鳴らすだけのトラップだが、これによってダンジョン内にいる魔物たちに侵入者の居場所が一斉に伝達されてしまう。そして、いわゆるトレインが発生すうるわけだ。
「……まあ、今回の用途は別なんだがな」
おれがトラップの設置と設定繰り返していると、魔物たちが戻ってきた。
ゴブリンたちは疲弊した様子で、オークたちは雁字搦めの状態だ。リザードマンとラミアはスライムと相対したせいで、ベトベトになっている。
なんとも哀愁漂う姿だが、話題として触れないわけにはいかない。
「訓練、ご苦労さま。一部は成果を発揮できなかったようだね」
「「「ききっ………」」」「「「ぶひっ………」」」
落ち込んじゃったよ。まあ、努力した結果が報われなかったんだから仕方ないよな。
「だけど、無駄じゃない。君たちの努力は実っている。ただ、今回はくじ運が悪かっただけだ」
アラクネやスライムは対処できなくても仕方がない。ケンタウロスに関しては、本当にくじ運が悪かっただけだ。
これを言ってしまうと、ゴブリンたちは復活できなくなる。なので、あえて言わずに締めくくってしまおう。
「これで今日の訓練は終了とする。各自、しっかりと休みを取ってくれ」
なんせ、明日から三日ほど出かけるつもりだからな。おれも準備するのに時間が欲しい。
そえれぞれが解散する中、ラミアとリザードマンを呼び止めて動きの取れないオークへ近づく。
「サモン・エレメント:アクア。サモン・エレメント:ウェントス」
蒼と翠に輝く魔法陣が出現し、それぞれの中心から水飛沫と旋風を伴って精霊が出現した。水の精霊はいわゆる人魚で、風の精霊はハーピーに似ている。
「スプラッシュ。エアカッター」
驚く魔物たちを無視して、精霊たちにスキルを発動させた。水の精霊は水飛沫でゲルを洗い流し、風の精霊は絡まった糸を風の刃で切断する。
「よし、もう戻っていいぞ」
色々と言いたいことはあるんだろうが、唖然としたまま指示に従ってくれた。
「さてと、おれも明日の準備に取り掛かりますかね」
ダンジョンコアのある部屋へ行き、コアに触れてSPを注ぎ込んだ。ちなみに、この部屋はおれの居住区の真下にある。
わざわざ見つかりやすい場所に置いておいたら、取られた瞬間に拠点を失うことになりかねないからな。
「……っと、こんなもんでいいか?」
注ぎ込んだSPは九〇〇〇〇〇。俺自身に残っているSPは、さっきの精霊召喚を差し引いて八〇〇〇〇。
精霊一体辺りに、一〇〇〇〇も使ったわけだ。魔物召喚よりもコストがかかるが、それに見合う能力を持っている。
それぞれが高密度な属性の塊であるため、水・風・土は自然界に溶け込むことが可能。また広範囲に存在を散らせることができ、偵察として使うには便利だ。
偵察ついでに、さっきスキルと使わせたのはSPの消費を押さえるためである。精霊は送還することでSPに戻るが、スキルは戻すことができない。
ちなみに、SPの回復については検証を重ねた結果、ステータスに関係することがわかった。特にHPやINTの値が高いほど回復しやすいらしい。
目安としては一〇〇〇前後で、一分あたり一の回復だ。つまり、残存するHPによって回復は遅くなるわけだ。
おれのSP回復については言うまでもないだろうが、HP+INT=二〇〇〇〇〇〇=SP二〇〇〇〇/分。たとえ全消費したとしても、SP全回復まで一時間もかからない。
「と、まあ、このことは脇に置いておいておこう。ダンジョン運営:メニュー表示」
規格外なのは今さらだし、気にしたって仕方がないんだ。だから、できる考えない方で行く。
フロートウインドウの出現と共に物資のアイコンを選択し、そこから必要なものをピックアップしていく。
「回復系のポーションと通貨。あと、持ち運び用のバッグや寝袋も必要だな」
何があるかわからないが、必要最小限にしておく。テントは大きいから、アイテムボッ
クスに収納しておけばいいか。
「ん? 封殺の腕輪?」
ふと、表示されたアイテムの一つに目が留まった。
封殺の枷 HPとSP以外のパラメーターを半減させる枷。指定した人物が一定のSPを注ぐことで外すことができる。
必要DP 一〇〇万
……これ使えば、手加減の練習なんて必要なくね?
即決即断し、四つを購入した。なんせ、ステータスが高い魔物たちでさえ一撃必殺だからな。