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人外界で民宿始めます  作者: ぱくどら
エピローグ
45/47

おまけ 家畜たちの恩返し 1

 ライスたちが戻ってきた民宿は、はっきり言ってしまえば荒れ放題だった。

 そもそも、ライスとウミが主に動いて営んでいた民宿。ヤクちゃんたちはあくまで補助として動いていた。

 ヤクちゃんたちが料理をできるわけでもない。掃除を丁寧にできるわけもない。

 そのせいか、民宿の前はゴミや雑草が生え放題。

 キッチンは埃を被り、部屋も埃だらけ。

 露店風呂は少し掃除をした形跡が見られたものの、ぬるぬると水アカだらけ。

 そんな民宿に、客足があるはずもなく――久しぶりに店にやってきたカグラは静かに怒っていた。


「ライス、ウミさん……戻って来ていただいて、非常に助かりますねぇ……」


 椅子に腰かけ、久しぶりに紅茶を口にしたカグラはふうとため息を漏らした。

 テーブルの上には小さく身を縮こませる家畜たちと、カグラの後ろに立つのは顔を包帯でまくグルン。

 ――なぜ包帯を巻いているのか。おかげで気持ち悪い触手は見えないが、明らかに不自然だった。


「……カグラ、俺がいねぇ間に金稼ぐんじゃなかったのかよ。なんだこの状態は」


 腕組みをして半笑いでカグラを見つめる。

 今はなんとか片づけられたものの、とてもまだお客を呼べる状態ではない。

 露店風呂を綺麗にしなくてはいけないし、部屋にある布団も干さなくてはいけない。

 一日がかりでしなくては店は開けられないだろう。


「私は換金所にいなくてはいけませんでしたからねぇ……。この役立たずの僕に任せたのですが……それが間違いでしたねぇ」


 後ろに立つグルンがビクッとして身体を震わせる。

 

「料理はできない、掃除は中途半端、呼び込みもお客が逃げる始末……全く……本当に馬鹿ですねぇ」


 ガタガタと震えが止まらない。

 おそらく、触手でも千切られたのかもしれない。


「ま、まぁ……民宿が壊れていなかっただけでも良かったです。カグラさん、私たちがいない間ヤクちゃんたちを守ってくださって、ありがとうござました! 準備ができ次第民宿を再開して、絶対にお借りしたお金を返しますね」


 笑顔を向けるウミに対し、ムスッとしていたカグラの顔が少し和らいだ。


「……期待していますよ。それにしても……ウミさんは人界へ帰られなかったんですねぇ。良かったのですか?」

「あ、はい……。色々あって……。私、この世界が大好きですから」

「ほう。それはそれは」

「あ、リクがカグラさんにすごく感謝してましたよ。生き伸びたのはカグラさんのおかげだって」

「……それはぜひ、直接本人から聞きたかったですねぇ。まぁ……いいでしょう」


 くくっと笑いを堪えて小さく声を漏らしている。

 が、何か思い出したように顔を上げるとじっとライスを見つめた。


「……もしかして、君がウミさんをつがいに迎えるつもりなのですか?」

「……は」


 固まるライス。ウミも頬を染めて視線を落とした。

 その様子を家畜たちはじっと見つめている。カグラもニヤニヤと笑みをこぼした。


「おやおや……君、わかりやすいですねぇ」

「はぁ!? な、何にも言ってねぇじゃねぇか!」

「それがわかりやすいと言っているのですよ。馬鹿ですか?」


 ライスとカグラがぎゃーぎゃーと騒いでいる横で――家畜たちは何かを確信したように頷き合っていた。


    ◇    ◇


 翌日はずっと全員で掃除をしていた。全ての窓を開け、積っていた埃を吐き出し、水拭きをする。

 布団は外に出し、露店風呂は念入りに擦り水アカを落とす。

 皆、黙々と作業をこなし――なんとか陽が沈む前に全てを終わらすことができた。


「はぁ~、疲れた」

「お疲れさま。はい、どうぞ」


 水入りコップをライスの前に差し出した。

 ごくごくとライスは一気に飲み干した。


「あー! 生き返るな。……明日、民宿を再開するからな。お前ら、また頼むぞ」

「まかせろです!」「やってやるねん!」「……!」


 家畜たちはテーブルの上でぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 その様子を微笑ましくライスは見ていたが――大きな欠伸をした。


「……なんか疲れた……。ウミ、わりぃけど先に寝る。お前も早く寝ろよ」

「うん。……おやすみ」


 ライスが屋根裏部屋へ消えていくのを見届けると――待っていました、と言わんばかりに家畜たちが一斉にウミの近くに寄る。


「ウミ! ライスとつがいになったですか!?」

「親子じゃなかったのん!? どういうことねん!」

「……! ……!」

「ま、待って待って! みんな落ち着いて!」


 そう叫ぶとピタッと止まり、じっと三体がウミを見上げる。

 見るからに、期待の眼差しでウミを見ていた。


「あ、あのね……ライスとは、つがいになったわけじゃないんだよ?」

「……嘘です。昼のライス、すごく恥ずかしがっていたです」

「きっと、ライスはウミのこと好きだわん! 間違いないのん!」

「んー……でも、私、まだライスから好きって聞いてないから……」


 見上げていた家畜たちだが、三体が頭を合わせごにょごにょと話し合っている。

 ウミは不思議そうに首を傾げ、じっと様子を伺う。

 小声で話しているせいか、どんな内容を話しているのかわからなかった。


「……みんな、何話してるの?」


 声をかけると、皆一斉にウミを見上げた。


「ウミ、僕らウミとライスがいない間、すごく大変でしたです」

「ライスとウミがいかに苦労したか、すごくわかったのん」

「……!」

「だから、僕ら、ウミに恩返しするです!」

「ライスとウミをくっつけるのん! 絶対つがいにするのん!」

「……! ……!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねる家畜たちを、ウミは苦笑いで答える。


「き、気持ちは嬉しいけど……私、ライスと一緒にいられるだけでも嬉しいし……」

「駄目です! またロンロンみたいな奴が現れるです! 立場をはっきりさせるです!」

「そうなのん! ずるずる時間が過ぎると、ライスの思うつぼねん!」

「……!」


 なぜか熱くなっている家畜たちに、ウミは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「そ、そうかな?」

「そうです! 僕らが協力するです!」

「あちきたちにまかせろねん! 絶対、ライスに好きって言わせるのん!」


 リビングで家畜たちとウミがわーわーと騒いでいる上で、何も知らないライスは眠りに落ちていた。


    ◇    ◇


 翌朝、ウミはいつも通り朝日が昇る前に起きて、買い出しの行く準備をしていた。

 準備をし終えいざリビングへ出てみると――ライスが玄関から入ってきた。


「おはよう……ってどこ行ってたの?」

「どこって、水汲みに決まってんだろ」


 確かに大きな水瓶を抱えて、台所へと運んでいる。

 足元にはリンちゃんが口から小さな水瓶を吐き出していた。


「……早くない? 前はこの時間ぐらいに出てなかったっけ?」

「この時間じゃねぇと、買い出しに付き添えねぇからな。ほら、準備できたのか? できたなら行くぞ」 


 そう言ってライスは再び外へと出ていく。

 なんで急にそんなことになったのか、と呆然とするウミの足元へリンちゃんが近寄って来た。隣にはヤクちゃんもいる。


「あちき、眠いのに起こされたわん。ライス、ウミと一緒に買い出し行きたいみたいねん」

「え……なんで?」

「前、買い出し行ってさらわれたです。だから一緒に行くと思うです」

「ウミ、あちきたちを抱えて早く後を追うねん」


 そう言ってリンちゃんとヤクちゃんはぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。

 ウミは半信半疑ながらも、二体を腕に抱えるとライスの後を追った。


 ウミが先導する形でいつも通り買い出しを行う。

 ライスはウミの買う物に文句を言うこともなく、ただ隣に付添見守っていた。

 今までならば、ウミとヤクちゃんが買い出しを行い、その間ライスは水汲みや露店風呂の準備を行っていた。


「ねぇライス。私に付き合って良かったの? 露店風呂の準備とか、大丈夫?」


 ウミは相変わらず腕にヤクちゃんとリンちゃんを抱えている。

 今日必要と思われるものは全て買い終えた。それらの荷物は全てライスが持っている。


「心配すんな。今から帰ってすれば十分間に合う」

「……なんで急に買い出しに付き合おうって思ったの?」

「そりゃ同じヘマはしたくねぇからな。俺も馬鹿じゃねぇんだよ」


 やっぱり前回さらわれてしまったからなのか――そんな風に思っていると急にライスの足が止まった。

 ある店をじっと眺めている。


「どうしたの? 何見てるの?」


 釣られて見てみれば――鉱石店のようだった。

 大通り沿いにある、こじんまりとする店。だが店の大きさとは裏腹に、中で売られているものはとんでもない値段が多い。


「……ウミ、先に帰ってろ。俺はちょっと用事を思い出した」

「え? あ、うん。わかった」

「荷物わりぃな。……リンちゃん、お前は俺と一緒に来い」


 ライスは荷物をウミに渡すと、リンちゃんのカップを持ち上げ、鉱石店へと行ってしまった。

 その背中を見送りつつ、ウミはヤクちゃんに微笑んだ。


「よくわからないけど、帰ろうか」

「はいです!」


    ◇    ◇


 帰ったウミとヤクちゃんは、料理の下準備をしつつ部屋の掃除をしていた。

 その後しばらくして帰って来たライスとリンちゃんは、とくに何かを持ち帰ったわけでもなく、何をしたのかも言わなかった。

 問いかけようにもライスはすぐに露店風呂の掃除を取りかかったため、聞く暇もなかった。


「リンちゃん、ライスは何を買ったの?」


 台所に立ちながら、その横で見守っているリンちゃんに話しかける。

 が、リンちゃんはビクッと震わせ、花びらが一枚床へと落ちた。


「……な、何にも買ってないわん」

「……そう?」

「そ、それよりも今何を作っているのん?」


 話を逸らすリンちゃんを不思議に思ったものの、それ以上の追及はしなかった。

 もしかしたらお客から何か頼まれたのかもしれない――そうウミは思った。

 が、ヤクちゃんは違う。

 ウミは台所を離れた隙に、リンちゃんに近寄る。


「リンちゃん、何があったですか」

「……言ったらライスに花を毟られるわん」

「……じゃあ言わなくていいです」

「でも、あちきたちも準備するわん」

「準備ですか? 何の準備ですか?」

「ウミを着飾るわん。だからヤクちゃん、あちきと一緒にカグラのところへ行くのん」

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