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王山学園の乙女ゲーム事情

転生ヒロインは難易度が鬼だった。

作者: まんげつ

 「私の王子様(笑)」の外伝です。関係なく読めますが、繋がっています。

 自分なりに転生ヒロインというものについて考えてみました。

 どうも、こんにちは。私の名前は虹園(にじぞの)彩葉(いろは)といいます。

 この春、高校入学を果たした高校一年生です。長く苦しい受験を乗り越え、第一志望の名門私立へ通う事が叶いました。


 王山学園。それが私がこれから青春を送る学校です。

 中等部から大学部まである学園で、高等部からの外部受験はものすごく難関でした。合格できたのは奇跡としか言いようがありません。

 その奇跡を噛み締めながら出席した入学式。そこで事件は起こったのです。


 そもそも受験の時から違和感はあったのです。学校見学会、試験当日、合格発表。この学園に足を踏み入れるたびに頭の奥で何かが引っかかっていました。

それでも特に気にすることなく入学式をむかえたのですが、そこで違和感の正体に気付いたのです。いえ、思い出したというべきなのかもしれませんね。


 憧れの制服に身を包み、心踊らせながら高校生活最初のイベントである入学式を堪能していた私は壇上に上がった生徒会長を見て驚きました。私は彼を知っていたのです。


 生徒会長が壇上に上がった瞬間、その場の空気が色めき立ちました。特に女子。

 無理もありません。生徒会長は少し長めのクセッ毛の銀髪。神経質そうだがスッとした眼元は理知的で、肌は女子が羨むほど白く輝く美しい美青年なのですから。かけている眼鏡も彼の知的な魅力を演出しています。芸能人でもない男性に対して、美人と言う言葉を使うのは初めてです。


 そんな彼を私は知っていたのです。いえ、会った事はありません。今日が初対面です。あ、違いますね。一方的に見てるだけなので初対面と言えるのかも分かりません。

 会った事もないのに何故知っているのかと言うと、私は彼の存在を記憶でだけ知っていたのです。何言っているんだとお思いでしょう。私は彼を見た瞬間、前世の記憶を思い出したのです。


 ますます何を言っているんだと思った事でしょうとも。でも事実なのです。


 前世の全てを思い出したわけではありません。私が思い出したのは主に今と同じ学生時代の事です。そしてその学生時代の記憶の中に彼の存在があるのです。

 私は前世であるゲームに心の底からハマっていました。『夢色スクールライフ』という乙女ゲームです。

 もうお分かりでしょう。そのゲームの舞台は王山学園という学校で、壇上に立つ生徒会長は攻略対象の一人。つまりここは前世でプレイした乙女ゲームの世界だったのです。


 入学式の真っただ中で叫びださなかった自分を誉めてあげたいですね。私が前世の記憶を思い出している間に件の生徒会長は壇上から下りていました。代わりに壇上に上がっている学園長の演説を聞き流しながら、私は頭の中を整理します。


 私はニヤけそうになるのを必死に堪えながら、心の中で狂喜乱舞していました。何故なら私の名前、虹園彩葉には大きな意味がある事も思い出したからです。

 虹園彩葉。それはこの世界『夢色スクールライフ』の主人公、つまりヒロインの名前だったのです。


 私は大好きな乙女ゲームの世界にヒロイン転生していたのです。


 これが喜ばずにいられましょうか。私はイケメン攻略対象達との恋愛イベントを体験する権利を神から与えられたのですから。

 私はちらりと周囲に目を走らせました。私と同じ新入生の中にも四人の攻略対象がいるはずです。王山の入学式は新入生は自由席なのでどこに座っているのか見当もつきません。あまりキョロキョロするわけにもいかないので全員は見つけられませんでしたが、一人視界に入りました。


 赤井隼人。サラサラの茶髪でアイドル顔の美少年。性格も人当たりが良く気さくで、優しい爽やかキャラです。私の斜め三列前に座っているのでハッキリと顔は見えませんが、ゲーム通りのイケメンです。多分近くに彼の親友が座っているはずなのですが、間に座っている人で死角になっていて見えません。


 私は踊り出したいくらいの喜びをどうにか押さえます。

 何度も言いますが、このゲームは私が大好きだったゲームです。完全攻略はもちろん、何度も繰り返しプレイしました。攻略本も買って、設定資料集やドラマCD、小説やコミックスも全て買い揃えました。キャラプロフィールもイベントフラグも攻略条件も全て記憶しています。


 つまり逆ハーエンドへの道も完璧に覚えています!


 まぁ、現実の学園生活でマジもんの逆ハーレムは無理ですが、逆ハールートを堪能しつつ最終的に一番いい感じになった人と付き合うのがベストでしょう。全員と付き合えないのは残念ですが、ゲームではない一度きりの人生です。仕方ありません。その代わり画面越しではないリアルイベントに心が弾みます。


 人生ってなんて素晴らしいんでしょうか!今日から夢色の学園生活の始まりです!!




 小躍りしたい気持ちを抑え切って無事に入学式を終え、各自、教室へと移動を開始します。

 私の記憶が確かなら、攻略対象の二人が同じクラスのはずです。掲示板に張り出されているクラス分けを眺め、ゲームと同じA組である事に心の中でガッツポーズをします。そして一年A組の前で一度深呼吸をしてから教室へと足を踏み出しました。胸がドキワクします。


 教室の中はすでにいくつかのグループで固まっています。ここ王山学園は中等部からの持ち上がりの生徒が多いので、固まっている人達は皆内部生なのでしょう。ちらほら所在なさげに立っている生徒が私と同じ外部からの新入生と思われます。

 本来なら早く友達をつくらなければと焦るところですが、私はすでに今日この日に起こる事を知っているので安心です。多分そろそろ……


「ねぇ、あなた虹園さん?」

 一人の女子生徒が声を掛けてきました。初日イベント発生です。

「え!?はい、そうですけど…えっと…」

「あぁ、ごめんね。私は中川 巴っていうの。中等部からの生徒よ」

 少しクセっ毛のセミロングの少女が、人好きする笑顔で自己紹介してくれました。

「私は虹園彩葉です。えっと…」

「あなた外部から入った子でしょ?あなたの名前は黒板に張ってある座席表を見たの。私達出席番号前後だから座席も前後よ。よろしくね」

「はい、よろしくです」

 ニコニコと手を差し出されたので、こちらも笑って握手しました。

「聞いた覚えのない名前だったから外部の人かなって思って、いかにも外部からきましたって風にポツンと立ってる人に声掛けたんだ」

 当たって良かったと笑顔で言う巴ちゃん。彼女こそ右も左も分からない私に色々教えてくれる友人ポジションの御人です。実際に声を掛けてもらうと彼女のありがたみが良く分かりました。ゲームの攻略とか関係なしに、すでに出来がっているグループ達に囲まれる外部入学生にとって彼女のように歩み寄ってくれる存在は本当に助かります。後光が差して見えます。


「みんな席につけー」

 ガラッとドアを開けて先生が入ってきました。

「あ、先生来ちゃった。席はここよ。HRの後もっと話したいんだけどいいかな?」

「はい、喜んで」

 約束をして席に着きます。席は廊下寄りの真ん中列で一番後ろです。全体が見やすい席になりました。


 HRが始まり、先生の自己紹介と今後の学校生活の説明が行われました。

「……と、説明はこんなところだな。忘れ物しないように気を付けろよ。それじゃあ、自己紹介してもらうかな。窓側から出席番号順に立って簡単な自己紹介してくれ」

 先生の言葉に窓側の一番前に座っていた少年が立ち上がります。私を含め、皆が注目する少年は入学式で見かけた赤井君です。


「赤井隼人です。趣味はカラオケ。友達はたくさんいますが彼女はいません。中等部からの持ち上がりで、生徒会に入る事になっています。外部から来た人も困った事があったらいつでも声を掛けてください」

 爽やかな笑顔でハキハキと自己紹介しています。「赤井君と同じクラスでラッキー」と言う女子の声が所々から聞こえてきました。当然と言えば当然です。赤井君こそメイン攻略対象なのですから。中等部の頃からさぞモテた事でしょう。


 やっぱり最終的には赤井君かなぁ…と思いながらクラスメートの自己紹介を聞いていると、もう一人の攻略対象の番が来ました。


「外部からきた紫田(しだ)響希(ひびき)です。一年前までイギリスにいました。趣味はバイオリンで特技はフェンシングです。よろしくお願いします」

 キビキビした態度で堂々と自己紹介する姿に、皆の注目が集まります。


 明るすぎない金髪のイケメン、紫田君です。確かお父さんは日本人でお母さんが日本人とイギリス人のハーフのクォーターだったと思います。顔つきは精悍な正統派イケメンで、性格は負けず嫌いの意地っ張り。ゲームファンの間では二大ツンデレの一人と言われていました。


 実は彼、私の隣の席です。もう顔がニヤけないようにするので必死です。幸せすぎて辛いです。


 赤井君に負けないイケメンの存在に女子達の反応が色めき立ちますが、紫田君は一切反応を返す気はないようです。

 その後、自己紹介は特に問題なく済みました。私も無難な自己紹介しかできませんでしたが、そんなものです。


 自己紹介と言えば、私の特徴などを説明していませんでしたね。ここで簡単に説明しちゃいます。

 私は長い栗色の髪を頭の上で一本に結んだポニーテールで、平均的な身長の女子です。これまで自分が人よりも可愛いかなど考えた事もありませんでしたが、乙女ゲームのヒロインとして客観的に考えると美少女と言える容姿をしています。きれい系と言うよりもカワイイ系です。

 性格は…自分ではこれと言った特徴が思いつきませんね。どこにでもいる普通の女子だと思います。


 HRが終わって本日は解散となりましたが、すぐに帰る者はいません。皆、おしゃべりしたり他のクラスの友人と合流したりとしています。私も約束通り巴ちゃんとおしゃべりです。


「ねえねえ。彩葉って呼んでもいい?」

「いいですよ。私も巴ちゃんって呼んでもいいですか?」

「もちろんいいよ。と言うか、敬語って(笑)」

「ははは。慣れないと敬語になっちゃうんですよね。少ししたら取れますんで」

 巴ちゃんとの交流は良好です。ゲーム通りの良い子で本当に良かったです。

「彩葉の隣の紫田君カッコいいよね。声掛けてみる?」

 巴ちゃんが顔を寄せてヒソヒソと話題を振ってきました。悪戯っ子のような笑顔です。隣の席には紫田君がまだ座っています。周囲を見ると紫田君に声を掛けたそうな女子達がたくさんいました。

「ええ!巴ちゃん…そんな、なんて話しかければいいのか分かんないですよ。それに聞こえちゃいますよ」

 ヒソヒソと小声で答えます。


「聞こえてるぞ」

「「え!?」」

 巴ちゃんと二人で隣を見ると、紫田君がこちらをジッと見ていました。ここまでゲームのシナリオ通りです。巴ちゃんと一緒に愛想笑いを返します。

「中川と虹園…だったか…。虹園は外部だったよな」

「は、はい。同じ外部入学生ですね。よろしくお願いします」

「私は内部生だけどよろしくね」

「ああ。よろしくな」

 紫田君は特に愛想が良いというわけではありませんが、無愛想という事も無く反応を返してくれます。だからと言っていきなり会話が弾むという事もありません。初日は顔合わせ程度のイベントです。


「…!赤井……だったよな?」

 紫田君が近くを通りかかった赤井君を呼び止めました。

「ん?ああ。ええと…紫田だよな?なに?」

 赤井君が私達の席の後ろで立ち止まります。そのまま二人で話し始めました。

「生徒会の事が聞きたいんだ。年間行事で生徒会選挙は七月ってなってたが、もう生徒会入りが決定しているのか?」

「あー。生徒会選挙で決めるのは役職持ちだけで、雑用としてならどの時期でも入れるんだ。俺は中等部でも生徒会に入っていたから先輩や友達に誘われててさ」

「……入るのは誰かの推薦がいるのか?」

「いや、決まってはいないけど入りやすいのは確かかな。基本的に生徒会長に判断は任されているから、自薦でも会長に認められれば入れるよ」

「今の生徒会長は内部生だろ。やっぱり内部生に有利なようにできてるんだな」

「!?ええと……」

 紫田君の不満そうな様子に赤井君は反応に困っています。

 聞き耳をたてなくても聞こえてしまう私と巴ちゃんも困りました。巴ちゃんと顔を見合わせて苦笑します。関係ないから会話に入るのもおかしいし、そそくさと立ち去るのも気まずい状況です。

 もっとも、この後に新たな攻略対象の顔見せがあるので立ち去る気はありませんが。


 紫田君は極度の負けず嫌いなので、すでに出来上がっている内部生のスクールカーストに負けたくないのです。今後の学園生活で何かと内部生に張り合っていきます。


「優秀なら平等に評価される。内部生だからって優遇される事はねぇよ」

 不機嫌そうな声が割って入りました。来ました!次の攻略対象です!!


「夏志」

 赤井君が声の主の名前を呼びます。呼ばれた少年は顔をしかめながら教室へと入ってきました。後ろにもう一人男子生徒がいます。友人でしょう。


 彼は黒宮夏志君。すらっとした長身にキリッとした男らしい顔立ちのイケメンです。甘さのない鋭い印象の青年で、自宅が武術の道場をやっている為、身体つきも同年代の少年に比べて引き締まっています。王山には中等部からいて風紀委員会所属です。不器用で女子と話すのが苦手で、紫田君と並ぶ二大ツンデレのもう一人なのです。

 赤井君とは親友で、よく行動を共にしています。


「遅いから迎えに来たぞ」

「悪い悪い。もうちょっと待っててくれないか?今、生徒会の事を説明してるんだ」

 赤井君の言葉に黒宮君は不機嫌そうな顔でチラリと紫田君を見ました。紫田君もムッとした顔を返します。

 実はこの二人、今後の展開でもあまり仲良くなりません。ツンデレ同士ぶつかってしまうようです。

 黒宮君はチラッと私の方も見ましたが、すぐに逸らされてしまいました。


「彩葉」

 ポーッとイケメンたちに見惚れていたら、巴ちゃんが小声で話しかけてきました。私はそっと巴ちゃんに身を寄せます。

「今赤井君が話してるのは黒宮夏志君っていって、赤井君と同じくらい目立ってる男子だよ」

 巴ちゃんが攻略対象の情報を教えてくれます。ゲームと同じです。

「彼メチャクチャモテるんだけど、その所為でかえって女子と関わるの嫌いみたいなんだ。興味あっても話しかけるのはやめた方がいいかも」

 彼らに興味を持っている様子の私に忠告してくれます。そうなのです。黒宮君は馴れ馴れしい女子は好きではないのです。最初っからグイグイ話しかけるのはNGです。

 私はうんうんと頷き返します。


「彼は紫田。外部からの新入生で生徒会に興味があるらしいんだ」

 赤井君が笑顔で黒宮君に紫田君を紹介します。

「紫田響希だ。生徒会に入ろうと思っている」

 紫田君は少々ぶっきらぼうに自己紹介しました。黒宮君とは合わないと感じ取っているのかもしれません。

「……B組の黒宮夏志だ。そっちの奴らも生徒会に入る気なのか?」

 黒宮君が私と巴ちゃんを視線で指します。そばで成り行きを見守っていたので勘違いされました。

「えっと、彼女達は違う……んだよな?中川さんと……虹園さん?であってたかな?君らも生徒会に興味あるの?」

 赤井君も紫田君と話していた私達が関係ないのかハッキリと答えられず、確認してきます。

「は、はい。虹園であってます。私達は生徒会に入ろうとかそういうのはないです。すみません」

「私じゃ入ろうにも入れないって。赤井君」

 二人で苦笑しながら否定します。あとで巴ちゃんに教えてもらうのですが、王山学園の生徒会は優秀な者だけが入れる選ばれた組織であり、学園内での影響力も大きいのです。


「そんな事ないと思うけど。まあ興味が出たら相談に乗るから」

 赤井君は爽やかに笑いかけてくれます。眩しすぎです!生赤井君の生笑顔です!!

「紫田。俺と直也は生徒会に入るつもりなんだ。そんで夏志は風紀に入るんだよな」

「俺は風紀に入るなんて決めてねぇよ!」

 悪戯っ子な笑顔で言う赤井君に黒宮君が噛みつきます。

 ……あれ?「俺と直也…」?


「夏志と同じB組の八神直也だ。よろしくな」

 黒宮君の後ろにいた男子が一歩前に出てきました。そこで初めて彼の顔をハッキリ見た私は驚愕してしまいました。


 カッコいいのです。

 それはもう攻略対象の彼らに負けないくらいのイケメンなのです。いえ、むしろ攻略対象を食う勢いのカッコよさかもしれません。

 いったい何者なのでしょうか?たしか八神直也君と名乗っていましたよね…。


 ……赤井君と黒宮君のお友達の直也君。赤井君と一緒に生徒会に所属する八神君。


 います。いました。ゲームの脇キャラにいましたとも。八神直也君。

 赤井君と黒宮君の親友で、よく一緒に居る男子です。二人とのイベントや会話でも時々存在が出てきました。攻略対象二人の親友と言うポジションのモブ……それが八神直也君です。


 …………カッコよすぎません!?モブのはずですよね!!?

 八神直也君はゲームのスチルや小説の挿絵などで、常に見切れていたり後姿だったり顔の前に何かが被っていたりと顔が見えませんでした。コミックス化しても登場コマ全てにおいて同じ有様だったことから、顔無き友人とファンの間では言われていた存在です。

 その顔無き友人がこんなにカッコいいなんて、乙女ゲームの世界ゆえでしょうか?

 見た目のタイプは紫田君と同じ系統のような気がします。正統派イケメンです。


「ここじゃなんだから学食で何か飲みながら話さないか?」

「そうだな。紫田はこの後の時間は大丈夫か?良かったら生徒会について説明するよ」

 八神君の提案に赤井君が賛成し、紫田君に顔を向けました。

「…そうだな。俺の方は特に予定はない。色々教えてくれ」

 紫田君も賛成して頷きます。そのまま四人は連れだって教室を出て行きました。

「じゃあな。虹園、中川」

「また明日です。紫田君」

「じゃあね」

 去り際に挨拶してくれた紫田君に巴ちゃんと一緒に手を振ります。これにてイベント終了です。


 その後は巴ちゃんとしばらくおしゃべりしてから家路につきました。

 これからの夢色の高校生活に、胸がいっぱいです。


 ……八神君には本当に驚きましたが。なんでモブなんでしょうか?





 後日、別の攻略対象達とも顔を合わせました。


「きゃあっ!?」

「おっと!」

 階段を歩いていたら男子生徒にぶつかられて落ちかけましたが、ぶつかった男子生徒本人に支えられて事なきをえました。

 無事に済むのは分かっていても、このイベントは実体験すると怖いですね。ぶつかってバランスを崩した瞬間、背中にひやっとしたものが走りました。


「ごっめーん。いそいでてさ。大丈夫?どこも痛くない??」

「は、はい」

 男子生徒が心配そうに顔を覗き込んできます。人懐っこい顔の茶色い短髪の男子です。ワンコ系男子の攻略対象です。名前は桃山春臣君。同学年の元気なムードメーカー。財閥の御曹司で成績が悪いのがたまに傷の陽気な男の子です。

「桃山。なにやってんだ」

 階段の上から声を掛けられます。別の攻略対象達も登場です。

「あー。緑川先輩。ちぃーっス」

「あぶねーだろ。階段では気を付けろよ」

 髪の一部を白く脱色した目つきの悪い青年が、ズボンのポッケに両手を突っ込みながら下りてきました。耳にはシルバー系のピアスをしていて、口には棒付きキャンディを咥えています。


 彼は緑川冬樹さん。三年の先輩で、不良のような見た目ですが風紀委員長です。人をからかうのが大好きなちょい悪系のお兄さんで、黒宮君ちの道場に通っています。この人になら遊ばれてもいい♡とファン間で言われていた人です。私もその一人でした。


「すっみませーん」

「たくっ。そっちのお前は大丈夫か?」

「だ、大丈夫です」

 緑川先輩が顔を覗き込んで聞いてきます。幸せです。

「どうしたんだ?緑川」

 緑川先輩の後ろからもう一人現れます。この方こそ、この方こそ赤井君と並ぶメイン攻略キャラ…!

「白鳥。この馬鹿が階段でふざけててよ」


 白鳥大和生徒会長、その人です!!入学式で私が記憶を思い出したきっかけの方です。スッと細められた冷ややかな瞳が桃山君を捉えます。知的眼鏡です。クール眼鏡です。銀縁眼鏡です。

 

「桃山か。いい加減、落ち着きを持て」

「え~。急いでただけでふざけてたわけじゃないッスよ~」

「他人に迷惑かけてりゃ一緒だ」

 桃山君の言い訳を緑川先輩が切り捨てます。

「あ、あの。私なら大丈夫でしたし…」

「この馬鹿を甘やかすと碌な事ねぇぞ」

「次も大丈夫とは限らない。反省は必要だ」

 桃山君をフォローしようとすると、二人にピシャリと反論されました。

「いくら俺でもマジ反省してますって。女の子にケガさせそうになったんスから」

 桃山君が頬を膨らませる。しぐさが子供っぽい。大型犬です。


「今度あったら容赦なく風紀でしょっ引くからな」

 緑川先輩が溜め息まじりに桃山君を睨みます。

「は~い」

 桃山君は敬礼しながら元気よく返事をしました。その軽い態度に先輩二人は溜息が止まりません。

「階段はもちろん校内では走らないように。キミもどこか痛むなら無理せず保健室に行くこと」

 白鳥先輩は桃山君に念を押し、最後に私に目を向け一言言うと緑川先輩と並んで去っていきます。

「は、はい。ありがとうございます」

 私はお辞儀をして二人を見送ります。今日は先輩二人とは顔見世だけです。二人と仲良くなるには条件を満たさねばなりません。

 名残惜しく二人の背中を見つめます。


「緑川。廊下を歩きながらものを食べるな」

「飴くらいいいじゃん。白鳥はカッテェなぁ」

 白鳥先輩の小言に緑川先輩は気にする様子もなく、ポッケから新しい棒付きキャンディを取り出しました。

「この味飽きたからやる」

「は?……!?」

 

「………!!!」

 ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 私は心の中で絶叫しました。

 見たまんま言います。緑川先輩が舐めていた棒付きキャンディを口から取り出し、それをそのまま白鳥先輩の口に突っ込みました。


「いきなりなにをするんだ。せめて普通に手渡せ」

「んー」

 新しいキャンディを口に咥える緑川先輩を呆れた眼で見ながら、白鳥先輩は溜息を洩らします。その口にはキャンディが咥えられたままです。

 ……食べかけに関しての文句はないようです。


 ビックリしました。萌え死ぬかと思いました。あの二人は幼馴染で親友なのですが、本当にキュンキュンします。現実って素晴らしいですね。ゲームのシナリオにはない普段のアレコレも見れるのですから。

 でも今のは心臓に悪いです。声に出そうになりました。出したが最後、私の学園生活は終わります。

 鎮まりたまえ、私の萌え魂。


「ホンットーにごめんねー。俺E組の桃山。キミはー……見た事ないかなぁ?外部の子?」

「はい。外部から入学した虹園彩葉です」

 あふれ出る萌えを抑え込んでいたら、桃山君が声を掛けてきました。平常心です。

「イロハちゃんかー。可愛いねー。よろしくな」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 屈託のない笑顔で笑いかけられます。


 この後は保健室に行くかどうか聞かれて断ったら終わりです。丁重にお断りして桃山君とは別れました。

 どの攻略対象にしても、初対面でグイグイ行くのはよくありませんからね。さて教室に戻るとしましょう。巴ちゃんが待っています。





 最初の一週間は攻略対象との顔合わせです。


 私は今、放課後の王山学園で迷子になっています。この学園は尋常じゃなく広いのです。

 先生に用事を頼まれ特別教室棟に行き、その帰りに迷ってしまったというわけです。

 巴ちゃんと一緒にいたのですが、放送部所属の彼女はそのまま部活に行くとのことで用事が終わったその場で別れました。まだ学園に慣れない私を心配して下駄箱まで送ろうかと言ってくれたのですが、来た道を戻るだけだからと断りました。その結果がこれです。自分が今、学園の何処にいるのかも分かりません………という設定なだけですけどね。


 本来なら純粋に道に迷っているのでしょうが、前世の記憶がある私は当然ここが何処なのか分かっています。私は今いるのは中等部の校舎です。王山学園の中等部と高等部は同じ敷地内にあります。なので中等部と高等部の交流は盛んにあります。互いの校舎への出入りも自由です。私は下駄箱のある教室棟に行く渡り廊下と中等部への渡り廊下を間違えてここにいます。

 この中等部には攻略対象が二人存在するのです。


 きょろきょろと如何にも道に迷っていますという態度で目をさまよわせます。放課後の特別教室の端っこは人気がありません。誰かいないかとウロウロしていると、目的の人物を見つけました。

 廊下の隅にしゃがみ込んでいる男性がいます。そっと近づいて声をかけます。


「あ、あの…?」

「あー??」

 声をかけたらゆっくりと顔を上げました。眠そうです。


 この人は黄島小次郎先生といいます。中等部の古典の先生です。高校の教員免許も持っているらしく、高等部にも教えに来ます。

 ボサボサの茶髪に無精髭。しわの寄ったヨレヨレのシャツを着たくたびれた大人の男性です。無精髭のせいで三十代後半に見えますが、大学出て二年目の二十四歳の青年です。だらしない姿ですが、顔だちは整っています。身ぎれいにしたらすごい美形の大人の男性です。

 実は王山学園創設者の家系で、現理事長である彼の叔父さんに誘われてこの学園にいます。理事長に押し付けられて中等部生徒会顧問をやっています。


「その制服…高等部の生徒かぁ?何してんだぁ?」

 欠伸をしながら聞いてきます。

「えっと、その…道に迷ってしまいまして。ここから下駄箱にはどう行けばいいのでしょうか?」

「……あー。高等部からの入学生かぁ。ここは中等部だぞぉ」

「ちゅ、中等部!?」

 黄島先生に場所を教えられ、赤面します。実際は分かっていましたが、設定上は学園内で盛大に迷子になっている訳ですから恥ずかしいです。方向音痴だと思われています。


「こっからぁ高等部の下駄箱は……」

 ボーっとした表情で廊下の先を見つめながら話始めましたが、言葉の続きがありません。

「………」

「………あの?」

 しゃがみこんだままの黄島先生の顔を覗き込みます。

「…この先にある扉から外に出れば、校舎沿いに進むだけで高等部に着くぞぉ」

「すみません。上履きなので外に出るのはちょっと…(汗)」

 やる気のない顔で面倒くさそうに言われます。


 黄島先生はこういう人なのです。常にやる気がなくダルそうにしている不良先生なのです。生徒会を中心に生徒たちから呆れられています。今も校舎内を進む道順を説明するのが面倒くさくて、外の道を教えたのです。

 ネタバレしてしまうと、本当はすごく優秀な人なのです。やれば出来る先生なのです。ですがお兄さんと色々あって、やる気を無くしてしまったのです。そんな黄島先生を心配した理事長が、教師の道に引き込んだというエピソードがあります。

 黄島先生ルートを進めば、身ぎれいにした姿がお目にかかれます。あのスチルは目の保養でした。


「あ~。外が無理ならぁ……。たぶん、もうすぐあいつが来るから…」

「あいつ?」


「黄島先生!こんな所にいたんですか?」


 突如別の声が廊下に響きました。振り返ると中等部の制服に身を包んだ少年がこちらに向かってきます。ひどく急いでる様子ですが、決して廊下を走るような事はせず早歩きです。真面目な子です。


「おー。青柳ぃ。ナイスタイミング~」

「ナイスタイミングじゃないですよ黄島先生。生徒会はとっくに始まってるんですよ」

 青柳と呼ばれた少年は眉を下げて困り顔で黄島先生に詰め寄りました。


 彼は中等部の攻略対象の二人目です。 

 中等部三年生の青柳桜介君。中等部生徒会長をしています。サラサラの綺麗な黒髪の気の弱そうな少年です。他の攻略対象と比べると地味な容姿ですが、真面目で素直そうな顔立ちをしています。少々自分に自信を持てないところがあり、母性本能をくすぐる可愛い後輩キャラです。

 

 黄島先生と青柳君の中等部コンビは、私が支えてあげなくちゃ♡とファンに言われていました。ヒロインの支えで成長していく姿に、私も胸キュンでした。


「あ。すみません。お話し中でしたか?」

 青柳君は私を見て頭を下げました。割り込んでしまったと思ったようです。

「いえ、大丈夫ですよ」

「青柳ぃ。こいつ迷子。高等部の下駄箱まで案内してやって」

 黄島先生が眠そうな顔で私を指差します。私のことを押し付ける気です。

「え?ああ、高等部からの方ですね。うちの校舎は広くて入り組んでますから…」

 青柳君は一瞬「?」という顔をしましたが、すぐに理解しつつ迷っても仕方がないとフォローしてくれました。良い子です。


「あの、先生。彼は急ぎの用事なのでは…」

 黄島先生の提案に遠慮がちに口を挟みました。青柳君は黄島先生を急いで探していたのです。

「あー。大丈夫大丈夫」

「いえ、黄島先生。今日締め切りの書類を提出してほしいのですが…」

 全く動じる様子のない黄島先生の態度に、青柳君は青筋をたてて慌てます。仕上がっていないのではとハラハラしている様子です。

「あ~、うん。それなぁ…。終わってるよ~」

「え!本当ですか?良かったぁ」

 青柳君はホッと胸を撫で下ろしました。

「では、僕は先輩を案内するので黄島先生は生徒会室に書類の提出をお願いします」

「無理だなぁ」

 青柳君の笑顔が凍り付きます。と言うか、場の空気がピシッと凍りました。

「……き、黄島先生?」

 青柳君の声が震えています。痛々しいです…。

「昨日家で完成させて、あとはプリントすれば終わりっつー状態なんだけどぉ……」

「………」

 のんびりと話す黄島先生に青柳君の顔色が悪くなっていきます。

「そのデータを入れたメモリーをどっかに落としたっぽいんだよなぁ」

 一応探してる途中なんだよなぁと、黄島先生は頭を掻きながら爆弾を落とします。青柳君は眩暈を起こしたのか、ふらりと崩れかけましたが、グッと踏ん張ってすぐに携帯を取り出しました。

「生徒会役員集合して!黄島先生が書類のデータを紛失。急いで捜索するから!!」

 青柳君は相手が電話に出た瞬間、前置きもなしに要件を伝えました。礼儀正しい少年の、常にはない姿に緊急性が伝わってきます。

「黄島先生。今みんなを呼んだので、先生は今日行った場所をみんなに伝えて一緒に探してください。僕は先輩を案内してから合流します」

 連絡を終えた青柳君が振り返って言います。

「おぉ~」

「あ、あの。大体の行き方を教えてもらえれば大丈夫ですから」

 忙しい人に手間を取らせるわけにはいかない。と遠慮します。

「そうですか?すみません。気を遣わせてしまって」

 青柳君が申し訳なさそうに頭を下げます。

「いえ!そんな!!助けていただくのはこちらですし。むしろ忙しいのにすみません」

 慌ててこちらも頭を下げます。青柳君は本当に良い子です。



 その後、青柳君に道を聞いて別れました。手伝うのがいいとお思いでしょう?初対面では深く関わらないのが正解なのです。ここで学園に慣れていない私が捜索を手伝うと、かえって足を引っ張ってしまうイベントなのです。


 こうして無事に攻略対象との顔合わせが済みました。


 さて、ここからが本番です。みんなの好感度を上げていきます。逆ハーレム寄りに進みつつ、誰か一人を選ぶとしましょう。

 メインの赤井君か白鳥先輩がお勧めですが、クラスメートで隣の席の紫田君が一番好感度を上げやすいんですよね。黄島先生の大人の魅力も捨てがたいですが、教師とリアルにお付き合いするのはリスクが高そうな気もしますし…。

 実は個人的には緑川先輩が好きなんですが、彼のルートには厄介なライバルキャラがいるから攻略方法が分かっていても怖いんですよね。私の同学年にいる義妹さんがすごく厄介な人なんです。


 なんにしても我ながら贅沢な悩みですよね。さあ、夢色のエンディング目指して頑張りましょう!!













 なんて意気込んでいましたが、入学から二か月、事態は難航しています。いえ、難航どころか終わってます。

 どうやら私は乙女ゲームの世界を甘く見ていたようです。


 私は各ルートの攻略法を完璧に覚えています。逆ハールートも完璧です。逆ハーレム寄りに進むには、当然すべての攻略対象の好感度を上げるわけです。各キャラの好感度を上げるポイントは当然分かっていますとも。


 爽やか好青年な赤井君には、明るく優しい普通の女の子。

 努力家な紫田君には、健気で頑張り屋のおっとりした女の子。

 女子が苦手な黒宮君には、清楚でお淑やかで内気な女の子。

 陽気な桃山君には、一緒に騒げる活発でボーイッシュな女の子。

 ちょい悪系の緑川先輩には、からかい甲斐のあるツンデレな女の子。

 完璧主義者な白鳥先輩には、彼のパートナーに相応しい優秀で落ち着きのある女の子。

 やる気を無くしている黄島先生には、どこかカラ回っちゃう天然でほっとけない女の子。

 真面目な青柳君には、しっかり者のお姉さんタイプの女の子。


 はい!無理です!!


 どう考えても無理です。ゲームでは気にしてませんでしたが、現実でこれは無理です。

 現実でこんなバラバラの好みを実行したら、間違いなく学園生活終わります。それぞれ全く違う場所で接するならまだ道はありますが、同じ校舎内でこんなにコロコロ性格を変えていたら、完全に多重人格です。情緒不安定です。

 むしろ特定の男子の前でキャラを変える女として、女子から嫌われること間違いなしです。総スカンされる事でしょう。ゲームの逆ハールートで、ヒロインはどうしていたのでしょうか?


 実行する前に気付いたのが幸いでした。と言うか、実行のしようもない気がします。少なくともまともな神経をしていたら、実行はしないでしょう。逆ハーレムを舐めていました。あれは人間性と他の人間関係を捨てる事が出来る、そんな覚悟のある者だけが辿り着く事の出来る世界なのですね。


 という理由で逆ハーレムルートを諦めた訳です。


 逆ハーレムが無理なら、初めから個別ルートに進めばいいじゃない。と思いますでしょう。

 これもそう簡単にはいかないわけです。


 個別ルートなら人格破綻しなくても大丈夫だから簡単だとお思いでしょう?

 ここでまず問題になるのが誰ルートに進むかなわけですが、実は自分の好みだけでは決められないんです。上で説明した通り、各攻略対象には好みのタイプがいます。

 …自分がその通りの人間になれるのか。考えてみてください。


 はい!!これまた無理です!!!


 人によっては出来る好みもあります。ですが自分からかけ離れたタイプは無理です。黒宮君の清楚でお淑やかで内気な女の子なんて、実行しても絶対にボロが出ます。最悪、ボロを出す前にストレスで胃がやられそうです。

 緑川先輩のツンデレも羞恥心を抑えられる自信がありません。


 健気とか明るいとか活発とか落ち着いてる等々、どうにかなりそうだと思うでしょう。私もある程度なら出来ると思うんですよ。

 でも、問題は好みのタイプだけではないんです。


 このゲーム、夢色スクールライフは攻略にヒロインのステータスが大きく関わるゲームです。イベントの発生条件や好感度の上昇には、ヒロインのステータスが条件値を満たさなければなりません。


 例を一つ上げましょう。白鳥先輩に注目されるにはテストで常に五位以内に入らなければいけません。


 はい!!!当然無理です!!!!


 ステータス。そうステータスが問題なのです。

 ゲームのスタート時、ヒロインのステータスは当然オール平凡でした。今の私はその状態です。

 ゲームでプレイしている際には問題ありませんでした。何故ならゲームでは行動選択をするだけでステータスが上がっていたのですから。ヒロインの疲労度に注意しながら、ボタン一つで思うままのヒロインに育成出来たのです。

 でも現実でそれが可能でしょうか?可能なわけがありません。そんな簡単に学力や運動神経が上がるわけがないのです。もしそうなら誰も苦労しません。

 現実にはヒロイン(わたし)を育成するコントローラーは存在しないのですから。



 自慢になりませんが、私は王山学園に外部入学出来ただけでも奇跡なのです。完璧主義の白鳥先輩なんてどう考えても無理です。文系学力・理系学力・運動神経・芸術・料理・センス、全ステータスパーフェクトとか正気とは思えません。死ぬ気で努力しても条件を満たせる可能性が絶望的な上に、イベントや普段の行動もこなすなんて不可能です。

 白鳥先輩のような完璧主義者ではなくても、他の攻略対象たちの条件も難ありです。何かしら高いステータスが要求されます。

 桃山君の求める運動神経ステータスなんて、運動部で全国狙うレベルです。そんな運動神経手に入るなら、運動部でエースになって別の人生歩みます。

 赤井君は白鳥先輩ほどではないですが、全体的にバランスよく高いステータスが必要ですし、基本的にどの攻略対象も高い学力が条件に入っています。名門校ですから当然なのかもしれません。


 そもそも学力や運動神経、芸術など学校の成績で測れるものはいいです。

 黄島先生の条件で一番高いのは料理なのですが、料理のステータスってどうやって条件値に達しているか判断すればいいのでしょうか?現実にステータス確認画面は存在しないのです。

 黄島先生のイベントで、お弁当を渡すものがあるのですが、人生にやる気を持てない捨て鉢な先生の心を開くレベルの味って何でしょう?と言いますか、それって本当にどんな味ですか?どんな修行を積めば到達できるのでしょうか?そんな味が出せるなら、やっぱり別の人生を歩みます。


 どのステータスにしても、極める事が出来るなら人生そのものが変わる事でしょう。そんなレベルのステータスが必要なのです。とてもじゃありませんが無理です。努力するにしても、並行して普段の生活をこなしつつ他の攻略条件を満たすなんてどんな超人ですか!?

 下手に目指したら学園生活を棒に振ることになりそうです。私は女友達とのワイワイした女子高生ライフだって過ごしたいのです。巴ちゃんと遊ぶ時間は手放せません。




 結論を言います。攻略は無理です。


 どんなに攻略方法を知っていたとしても、それを実行できるかは別問題です。

 どんなに好みのタイプを理解していても、別の人間にはなれません。

 どんなに攻略条件を分かっていても、努力だけではどうにもならない事があります。


 ………何なんでしょうね?この状況??

 どうやったら誰と付き合えるのか完璧に熟知しているのに、手の出せないこの状況。上げて落とされた気分です。転生ヒロインってもっと良いものだと思っていました(泣)


 全部知ってるんです。全部覚えてるんです。全部分かっているんです。それなのに……………。




 まぁ、泣き言を言っていても仕方ありません。気持ちを切り替えましょう。恋愛だけが青春ではありませんし、攻略対象だけが男の子というわけではないのですから。それに攻略対象とだって、ゲームのシナリオに沿わなくても普通に仲良くなることは出来るでしょうし。無理せず自由な学園生活を送る事にします。

 むしろそれこそ私に似合った分相応な学園生活です。


 それに恋人になれなくても、ゲームシナリオには無かった普段のみんなの姿を堪能する事が出来ますしね。初対面イベントの時の白鳥先輩と緑川先輩のみたいな(萌)

 特にクラスメートの赤井君と紫田君は見放題です。恋愛要素はありませんが、クラスメートとしてなら仲良くなれました。


 そう言えば話は変わりますが、つい最近、完璧に記憶していると思っていたゲーム知識にちょっと記憶違いが発覚しました。教室で赤井君が雑誌を見ていたのですが、熱心に見ていたページに載っていたのは小さな女の子に人気なキャラクターもののグッズだったのです。首を傾げる私に赤井君は笑顔でこう言いました。

「妹が好きかなって思ってさ」

「へぇ~。妹さん思いですね」

 その時の私は平然と笑顔で返しましたが、内心では疑問符を飛ばしていました。

 私の記憶では赤井君の家族構成は、お兄さんが一人の二人兄弟だったのです。完璧に暗記していたつもりだったので、ちょっとショックでした。

 しかも後日同じような事があったのです。記憶違いは一つではありませんでした。


 放課後、何気なく入ったゲームセンターで黒宮君を見かけました。クレーンゲームで必死になって可愛いぬいぐるみを取ろうとしている姿にキュンとしました。意外な姿です。いつも一緒の赤井君と八神君がいなく、一人でいるのも意外でした。ただ、傍から見た限り全くセンスがありませんでした。如何にも慣れていない様子です。

 あまりにセンスがなく、百円玉を消費していく姿に黙っておれず声をかけたのです。赤井君と仲良くなったおかげで、黒宮君とも普通に話せるようになりました。…多少警戒されますが。

 よく経緯は分かりませんが、赤井君たちと以前一緒に来た時、自分だけが取れなかったから一人でリベンジに来たとの事です。キュンキュンしました。代わりにやってあげるわけにもいかないので、アドバイスをしてあげました。実はけっこう得意なんです。アドバイスの甲斐あって可愛い犬のぬいぐるみをゲット出来ました。ただ、そのぬいぐるみはどうするつもりなのでしょう?私の視線に気付いた黒宮君がこう言ったのです。

「妹にやるから…」

「…へぇ~。妹さん思いですね」

 私の記憶では黒宮君は一人っ子でした。またしても妹です。どうも家族構成の記憶が覚え間違いしているらしいです。ファンとしては地味に凹みます。


 まぁ、いいでしょう。そもそも前世の記憶をどうこう言っても仕方ありません。それに知らない事がある方が、新鮮で楽しそうです。


 そう言えば、分相応な学園生活を送ると言いましたが、二か月過ごして分かったことがあります。実は初対面の顔合わせイベントのように、攻略条件と関係ないメインシナリオのイベントは勝手にフラグが発生するようです。ゲームの時も回避できない強制イベントがありました。軸になるストーリーがあるのですから当然と言えば当然です。四月の校外学習イベントは強制で発生しました。ゲーム通りクジで赤井君と紫田君、巴ちゃんと同じ班になったのです。他の女子に睨まれましたが、楽しかったです。


 ルート分岐に関係ない強制イベントは体験できるわけです。分相応とか言いましたが、ヒロインとしてそれくらいの特権は許されるでしょう。

 他にどんなイベントがあったでしょうか?たしかルートに関係なく絶対に発生するイベントは、基本的に学校行事ものですね。攻略対象と班や係が一緒になるようになっています。そうそう体育祭にもありました。ヒロインが怪我をして、その時一番好感度の高い攻略対象にお姫様抱っこされるというイベントです。これは強制発生でした。誰とも仲良くならないバッドエンドルートでも発生しました。あの時は同じクラスの赤井君か紫田君がランダムで相手役でした。お姫様抱っこですかぁ……。



 ……………。




 いっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!


 ちょっと待ってください!お姫様抱っこ!?いやいやいやいや!!!


 ゲームでプレイしてる時にはキュンキュンしました。女の子の憧れですから!!でもちょっと待ってください!!ゲームじゃないんです。現実なんです。


 体育祭でお姫様抱っこです。

 クラスメートの男子とお姫様抱っこです。

 全校生徒の目の前でお姫様抱っこです。

 これから卒業まで過ごす同級生の目の前でお姫様抱っこです。


 ありえません。あってはいけません。ないです。なしです。

 次の日からどんな顔して登校すればいいんですか?クラスメートと、どう接すれと!?


 え?これは強制なんでしょうか?強制で発生しちゃうのでしょうか?


 どうしましょう!?恋愛ルートを諦めたというのに、まさかの新しい問題が生まれました!!

 せっかく分相応な平和な学園生活を送ると決めたのに……。回避は出来るのでしょうか!?ヒロインの特権とか思っていた数分前の自分を穴に埋めたいです。



 まさかこんな事になるなんて…。入学時に逆ハーレムに思いをはせた私が、強制フラグの回避に頭を悩ませる事になるとは、誰が想像できたでしょうか?


 目下の試練は体育祭のお姫様抱っこ回避です。


 乙女ゲームってもっとふわふわしているものだと思っていました。

 ヒロインってもっといいものじゃないんですか?

 転生ってもっと楽しいものだと思っていました。



 






 転生ヒロインは難易度が鬼でした。



 

 もし実際にヒロインに転生したら…を考えた結果こうなりました。ヒロイン役を高校入学していきなりやれって言われた場合、相当なスペックが求められることでしょう。

 つたない文章ですが、見逃してください。

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― 新着の感想 ―
改めて読んで見て・・・ この『夢色スクールライフ』という乙女ゲーム、かなり難易度の高いやり込みゲームだったのでは? 現実となって、最終的に無理ゲーと諦めた彩葉ちゃんは英断だったと思いますw 後は如何に…
[一言] 結局直はモブか、あの性格はモブでも仕方ないね
[良い点] 目からウロコと言いますか・・・ そうだよ、そりゃこうなるよwww 性格がバラバラのイケメン全員から愛される女ってなんだwww 大女優かっ!ってツッコミたくなりますよねw それこそ世界の法…
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