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異世界サークル!(更新凍結)  作者: Namako
03:単位という名の経験値を求めて
8/8

夢と現実と「終了のお知らせ」

「これだから情報関係は嫌なんだよぉっ」

「国語の作文何書けばいいの……」

「油絵終わらねぇ」

「……デッサンがぶれるわ」


 勉強会の日、部室はそれぞれの問題で阿鼻叫喚の図となっていた。

 というか……。


「お前らもかよ!!」

「仕方ないじゃないですか!」

「そうですよ! 一年生が一番きついんですから!!」


 一瞬でもらしくもない幻想を見た俺が間違いだった! 美人と二人っきりで勉強会? んなもんねぇよ現実見ろ!

 レポートに追われているのは皆同じ、一年生のシオやクラゲちゃんも当然、この勉強会に参加していた。しかも皆して「とにかく数を、」というわけなのか、ありったけの未提出レポートを引っさげて、それぞれ苦手分野に悶えながら挑んでいる。無論俺もそうだ。

 しかし先ほど、見慣れないというか、聞きなれない声が聞こえたのだが。


「つか誰!?」

「異世界サークル所属の美術四年生でございまーす!」

「あぁ先輩……って何してんですかぁあああ!?」

「油絵の課題が終わらんて此処でやろうかなーと」


 一年留年した先輩だった。


「新人が入ったっていうから見に来たっていうのもあるんだがねぇ……とりあえず油絵めんどくせぇえええええ!!」

「先輩煩い!! 苗床にするわよ!!」


 あぁまた暴れて……。

 

「あれっ?」


 ふと視線を下ろした先、いま黒光りしているような虫が通り過ぎたような気がしたが。まぁきっと気のせいだろう。

 


「──終わったぁああああ!」

「今月生きたぁああ!!」

 

 そんなこんなで数時間後、俺たちはなんとかレポートという魔物を片付けることに成功した。

 やっと終わった。これでようやくサークル活動やら、趣味やらに時間を使えるようになる。ヌエさんは舞い上がっている先輩と、クラゲちゃんたちをみてため息をついていたが。それはきっと呆れていたのだろう。後々聞いたが、ヌエさんは実はレポートは殆ど終わっていて、残るはデッサンだけだったという。なんという優等生っぷりだ。


「お疲れ様。ご褒美の珈琲よ」

「あ、ありがとうございま……!?」


 ヌエさんにご褒美と手渡されたその缶珈琲は、イエローに黒文字のロング缶。……砂糖水で有名なデロ甘珈琲じゃないか! 何故か百円で学校の自販機で売っているあの! そんな自然に渡さないでくれよヌエさん、条件反射で空けてしまったじゃないか。飲みきるしかない。

 盛大な不意打ちを喰らい、引き攣った笑顔のままそれを飲もうとしたのだが、ある違和感が俺の動きを止めた。

 皆でなんとか片付けたレポートは、とりあえず今はテーブルの上に放り出されたまま。だからよく見えてしまったのだ。


 レポートに書かれた解答の「文字」を、食い漁っている黒光りしている虫が。


「最近のゴキーヌは文字も喰うようになったのか……」

「カガリ君、何を言っているの」

「いやだってあれ……」


 先ほどまで舞い上がっていた三人もヌエさんも、揃ってレポートの文字を見る。現在進行形で必死に埋めてきた回答が消えている。


「……文字喰モジハみの廃花ね。こうやって文字を食べて人を困らせるのよ」


 ヌエさんは淡々とその虫の正体を語るが、こっちはもうそれどころではない。文字を食べるだって? 今まで頑張って退治したあのレポートが、白紙に戻ってしまうじゃないか。

 シオが無言で姿を変えた。それと同じく先輩も、クラゲちゃんも姿を変えて力を使うことにするらしい。……流石の俺でも、無言で力を使う。そして俺は、まるで手馴れているかのように皆の引き金を弾くのだ。


「その廃花殺して良し!!」


 さぁ、戦争だ。



「シオ! そっちに行ったぞ!」


 おのれ廃花め。そんな殺意がだだもれているシオは、剣ではなくスリッパ片手に文字喰みの廃魔へ殴りかかった。だが文字喰みは素早くそれを回避してしまう。というか先ほどから何もいわずに、只文字喰みへ殺気を向け続けているシオが怖い。王子の姿なのに何か違うものへジョブチェンジしている気がする。

 さて文字喰みはどこへいったか。あぁまたテーブルの上で文字を食い漁っている。一番近いのは俺だ、そういうわけで俺は丸めた新聞紙を全力で叩き付ける。


「そぉりゃぁああ!!」


 叩き付けたはずだが、やつはまたもやそれを回避し、羽を広げていた。

 ──不味い、防衛本能による飛翔能力の覚醒だ!


「きゃぁあああああっ」


 後方で人魚の姿になったクラゲちゃんの叫び声が聞こえる。何かあったのだろうか。

 慌てて振り返ると、そこにはもう一体文字喰みがいるじゃないか。お前らはゴキ●リかよ! 見た目は嘘をつかないんだなチクショウ!


「二匹……だと……」


 焦りの声が思わず漏れ出てしまう。あんなにすばしっこいアレを、二匹も潰さなきゃいけない。出来ればすぐに仕留めたい。けど現状はどうだ? 一匹も仕留められずに文字は喰われていくばかりじゃないか!


「後輩共! 今から少しだけやつらの動きを止める! そのうちに仕留めろ!」

「りょ、了解!」

「分かりました!」

「承知」


 姿が変わり、まるで神官のような服装を身に纏った先輩がパチンっと指を鳴らす。そうすると、二匹の文字喰みはピタリと動きを止めた。今だ、今しかない。

 雄たけびを上げながら全力で殴りかかる俺とシオ。

 全てがスローモーションのように見える。

 新聞紙が、スリッパが、それぞれ文字喰みに叩きつけられる。

 潰した。

 潰したな。


「よっしゃぁああああああ!!」


 やつらの死を確認して勝利に舞い上がる俺たち。

 だが、俺たちは忘れていた……。



「喜ぶのはいいけど、文字喰みが食った文字は元には戻らないわよ」



 やり直しという残酷な現実を。

ゲストの先輩、あの人一体誰なんでしょうね

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