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作者: yuris

「好きだ」


ぎゅっとうしろから抱きしめられて、低い声で囁かれた甘い言葉。


「うん、わたしも」


ふ、と彼が微笑んだ雰囲気を感じた。


彼は油断していた。

だからわたしは彼が他の()にもそんな台詞を言っていることを知っていた。

けれどわたしはそんなことを問い詰めるほど頭の悪い女じゃない。

彼が離れていかないように、繋いだり離したり、彼が飽きないように動くだけで。

とりあえず一緒にいられるならそれでいいか、なんて。


「千夏は俺のこと、好きじゃない?」

「ばか、好きじゃなかったらもう別れちゃってるでしょう」

「そうだよな」


分かってて訊いてるくせに。

そう心のなかで毒づいた。

そんなこと言わせて、自分が好かれていることを再確認して、なにが楽しいの。

口から出まかせ、なんてあんたみたいな人間が一番よく分かる言葉なんじゃない?


彼みたいな人間は何のことも無く口から言葉を漏らすけれど、わたしは、そんなに馬鹿じゃないから。

口を結んで、黙ってた方が災いを引き起こさないって、知ってるから。


「千夏、」

「なあに?」


彼の甘えたような声が、嫌いだった。

彼がそんな声を出すのは、大抵嘘を吐くときか、わたしにとって良くないことが起こるから。

……なんて、結局そう嘆いたり悲しんだりしているのもわたしで。


つべこべ言ったって、結局いつまでも別れを切り出せずに相手の機嫌を伺っているのは、彼でも誰でもない、わたしだということを知っていた。

でも、知ってたってどうにもならないことだってあるものだと、勝手に自分を丸め込んだ。

たとえ明日隕石が降ってくると知ってもなにもしないのと同じだ。


知ったって、知ったふりをしたって、結局事態が好転するわけじゃない。


「今日は一緒に帰れない」

「そっか」

「ほんとごめん、明日は絶対一緒に帰るから」


“明日は”、ね。

じゃあ、明後日はあの女と帰るんだ。


――なんて口に出すほど、わたしは馬鹿な勇者じゃない。


「千夏、もうすぐ誕生日だよな」

「ん? うん」

「千夏ん()でお祝い、していい?」

「もちろん」


やった、と笑みをこぼす彼。

なんで喜ぶのだろう、わたしの誕生日なのに。

そういうのも計算? と、疑うことが多くなった。

ほかにも誰かに言ってるの? と、不安になることが多くなった。


信じるのが、怖くなった。






――それでも彼と、離れないのは。

それはきっとわたしが彼のことをほんとうに愛しているからで、彼の気持ちに100倍や1000倍などしても足りないくらいわたしが彼に惚れこんでいる証拠なのだと思う。


「ねえ」

「んー?」

「わたしのこと、愛してる?」



ああ、でも、そうか。



「うん。愛してる」



0に100も1000もかけたって、0だものね?

(そう知っても尚、わたしは彼の言葉に溺れてゆく)

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