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5. Cousin (side Soushi)

従兄の蒼司視点のお話です。


警告:文中に一部差別や偏見を強調する表現がありますが、幼い子供への行き過ぎた親の忠告だとご理解・ご容赦下さい。




「やあ、朱里。実は僕達会うのは初めてじゃないって知ってる?」


お袋には『きっと憶えてないよ』って言ったけど、やっぱり憶えていて欲しかったから、つい本音が出て聞いてしまった。


答えは思ってた通り「ごめんなさい」だった。


しかも、差し出した手を拒む様にお辞儀までされちまったよ。


おまけに朱里の表情は硬い。


そんな顔をすると、無口で無愛想だと評判の悪い叔父さんそっくりじゃないか。


初対面の人間に警戒してる顔だぜ。


ああ、クソっ!


一から始めなきゃダメなのか?


会った覚えのない従兄なんて、赤の他人と同じじゃないか!


それに俺はこの家を出てる人間で、同居してる訳じゃないから接する時間も少ないし。


出なきゃ良かったのか?


だが、爺さん婆さんに加えて、転勤から戻った親父やお袋と一緒に暮らすなんて無理!


あいつらはそんなに干渉してくる訳じゃないし、俺だって悪い遊びをしてる訳でもないけど、やっぱ鬱陶しい。


一緒に暮らしてれば、俺の気持ちも知られるかもしれないし・・・いや、既にお袋にはバレてる?


昨日の電話は何だかカマを掛けられてるみたいだったし、実際バレちまった様な事を漏らしたよな、俺。


だって、他を当たるって・・・誰だよ!他って!


まさか、爺さんの姉さんとか言うババアの一族じゃねぇだろうな?


あそこには俺より年下のガキが居た筈だ。


ヘンな男に会わせる訳にはいかないから、慌ててバイトをキャンセルして駆けつけた。


なのに、冷たいぜ朱里。


俺は一度たりとも忘れた事なんてなかったのに!





朱里と初めて会ったのは、俺が小学校六年の時の夏休み。


忙しい親父とお袋が俺を爺さんと婆さんに預けて、そのまま二人と一緒にアメリカにいる叔母さんの家に遊びに行った時だ。


まだヨチヨチ歩きをし始めたばかりの玄と、幼稚園に通っていた朱里は、最初当然ながら俺の相手など出来ずに、爺さんと婆さんの玩具になっていた。


住んでいた家、と言っても小汚いアパートで狭かった。


俺んちだって広くはないが、一応官舎だったし、これほど狭くはなかった。


もちろん、俺達が泊っていたのはホテルだったが、久し振りに会う孫に夢中の爺さん達は観光そっちのけで毎日叔母さん家に通っていた。


そこで俺はこっそりとアパートを抜け出し、一人で行ってはいけないと言われていた外に出た。


小汚いアパートがある場所は、当然ながら治安が良くない場所で、それなりに小奇麗な恰好をしていた俺は、あっという間に悪ガキ共に囲まれて、全然喋れもしない英語を早口で撒くしたてられて、情けない事に固まる事しか出来なかった。


俺は転勤が多い親父の仕事の関係で、転校が多かったし、女みたいな顔だと虐められる事が少なくなかった。


だから、ケンカの数はこなして来たし、腕に自信もある。


だけど、外国の見知らぬ土地で、俺より身体の大きな奴等に囲まれれば、恐怖だって感じるもんだ。


俺を囲む距離が近づいて『やられる!』と思った瞬間だった。


甲高い声が響いて、俺を囲んでいた奴等が後ろを振り返ったのは。


人垣の隙間から覗くと、そこにはチビの朱里がいた。


朱里が英語で奴等と一言・二言、言葉を交わしていると、俺を囲んでいた奴等は渋々ながら引いて行った。


ホッとした俺は、近づいて来た朱里に「何やってんだよ」と言われてムッとしたが、助けられたのは事実なので「ありがと」と伝えると「言い付けくらい守れよ。みんな心配してるぞ」と怒られた。


言い返してやりたい事は山の様にあったが、非は俺にあるので黙っていると、朱里は俺の顔をジロジロと見てこう言った。


「うん、確かにオマエは女に見えるな。あいつらはさ、ナンパしてたんだよ。オマエを」


その言葉に俺はカッとなった。


小さい頃から母親似の女顔に悩まされ『可愛い』と言われ続け、終いには母親が俺を女装までさせる始末で、俺にとって『女に見える』や『女みたい』と言った言葉は禁句に近い。


助けて貰った相手だが、禁句を口にした事を悔ませてやる!と両手を握りしめた時。


「いいな、オマエは。オレは男にしか見えないっていっつも言われててさ。女なのに」


その言葉に俺の動きは止まった。


こいつも同じ様な事で悩んでるのか?


そう言えば、紹介された時に「従妹の朱里ちゃんよ。蒼司の妹だと思って可愛がってあげてね」とか言われてなかったか?


髪は短いし、いつもTシャツと短パンだし、性別を気にした事はなかったけど、そう言えばコイツは女の子だったよな。


目付きがキツくて眉も凛々しいから、パッと見た感じは確かに男に見えるけど。


「・・・大きくなればそんな事無くなるよ。俺だって小さい頃から『女の子みたい』って言われてたけど、最近じゃ背も伸びて来たし、あんまり言われなくなったからさ」


さっきみたいな事はあるけどね。


俺がそんな慰めと取れるかどうか分からない様な言葉を言うと、朱里はニコッと笑った。


か、可愛い!


ドキッとする程、可愛いじゃないか!


「ありがと!オレも将来には期待してるんだ。だってママが結構美人だろ?娘は母親に似るって言うしさ」


大きくなったら誰もが振り替えるような美人になって、オレをバカにしてたヤツらを見返してやるんだ!


そう高らかに宣言した朱里に、俺はどう突っ込んだらいいのか判らなかったが、取り敢えず心の中で思った『そう上手く行くか?』と言う言葉は吐き出さずにしまっておいた。


代わりに「朱里は今だって可愛いよ」と言ってみたが、奇妙な顔をされて「オマエってゲイなの?」と返された。


その時の俺は、幸か不幸か『ゲイ』が何なのか知らなかった。


なので「いや、多分違うと思うけど」としか答えられなかった。


「そうか?オレを『可愛い』って言うヤツは大抵ゲイなんだよな。パパが『ゲイはエイズの病原体だから近付くな!』って言うから近寄らない様にしてるんだけど」


朱里に近付けないと困る、と焦った俺は「俺は違うよ!絶対違う!」と答えた。


「まあ、いいや。帰ろうぜ」


そう言って手を差し出した朱里の手を握って、俺は叔母さんの家に戻った。


それからは朱里と一緒に遊ぶようにした。


僅か一週間の滞在だったが、朱里と一緒に子供用のアルファベットを使って英語の勉強をしたり、逆に俺が日本語を教えたりして過ごした。


その間、朱里は確かに目つきが悪くて、基本的に表情が乏しいが、時々、ハッとする様な笑顔を見せる。


それが凄く可愛かった。


この笑顔を見たら、男だとか女だとか関係ないんじゃないか?と思わせるくらい、強烈な魅力のある笑顔だった。


俺は、あっさりとその笑顔に魅せられて、朱里の虜になった。


優しくて、言い成りになってくれる便利なお兄ちゃんのポジションを獲得できたと思ってた。


そして別れる時は朱里から「また来いよ」と言って貰えた。


けれど、アメリカにそう頻繁に行ける訳もなく、それでも朱里の笑顔を忘れ難かった俺は、高校か大学で叔母の処に留学しようと考えた。


それで『大学受験の為に』と親を説き伏せて、高校から成島の家に世話になったのだ。


だが、高校では大学受験の準備に追われて留学は成らず、大学でも卒業後が望ましいと言われてしまった。


涙を飲んで、卒業を待っていた俺に齎されたのは、朱里の日本の高校進学の話だった。


大学入学と共に成島の家を出た俺に、定期的に母親から来る電話でその話を聞いた。


家族一同でその話を聞いた時も、それとなく婆さんを唆して叔母さんに電話をするように仕向けたのだ。


その結果がこれだ!






成長した朱里が目の前に居てくれるのは嬉しい!


嬉しいが、この距離感は何だ?


俺は差し出した手を引っ込めて、一から、いや零から関係を構築すべく、頭のいい優しい従兄のお兄さんを演じる事にした。


「編入試験に不安があるって聞いたけど?やっぱり数学かな?」


「はい、お時間があれば見て貰ってもいいですか?」


丁寧語が悲しいが、それでも俺を頼ってくれている事に変わりはないんだと言い聞かせて、俺は朱里に数学を教えた。


問題を解かせると、眉間に皺を寄せるが、ちゃんと出来ている。


これは思い込みかな?と感じた。


朱里の父親は理系の大学教授だと聞いている。


それがプレッシャーなのか?


苦手意識を克服するのには、数をこなして自信を付けさせるしかないかな?


「うん、ちゃんと出来てるじゃないか。これなら大丈夫だよ」


ニッコリ笑って優しい従兄のお兄さんを装う。


「でも・・・」


不安はそう簡単には拭えないか。


「数をこなして問題に慣れる事でしか不安は拭えないのかもしれないね。まだ時間はあるんだから頑張ろう。僕も及ばすながら手伝わせて貰うよ」


よし、今日から一週間はバイトを全てキャンセルして朱里に付きっ切りだ!


そしてホイントアップを狙おう!


「ところで、朱里はロスで恋人とか居なかったの?日本の学校に来る事に反対した奴とか」


会わないでいた十年間にヘンな虫が付いていなかったか、一番気になる事だけは聞いておかなくては。


「いませんよ、そんなもの!大体、言い寄って来るのはゲ・・・変態ばっかりで、わたしはこんなだから・・・」


ああ、『オレ』から『わたし』にいい方は変わっても、状況は十年前と変わってないんだな。


ありがとう!愚かなアメリカ市民達!


君達の目が節穴で助かったよ!


「そうなの?朱里はこんなに可愛いのに」


嬉しさが隠しきれずに口元を緩めながらそう言うと、朱里に奇妙な物を見るような目つきで見られた。


「蒼司さんて・・・もしかしたらゲイなの?」


日本は少ないって聞いてたんだけど・・・と呟きながら言われた言葉に俺は酷いショックを受けた。


十年前と同じ質問をされるとは。


「違うよ。僕は断じてゲイではないし、有り得ないよ」


何より女の子である君が好きなんだから!


そう言いたいけど、今ここでそう言っても警戒心を煽るだけで、素直に聞き入れて貰えない事は判ってる。


「そうなの?」


あまりにもあっさりとした答えに俺は心の中で泣いた。


もしかしたら、この鈍さがフリーでいられた原因なのか?


それは今後の俺にとっても分厚い障壁になりそうだ。


「そうだよ」


俺はニッコリと笑顔を振りまきながら、心の中で決意を新たにした。


朱里のハートをゲットして見せると!






蒼司は和晴の息子ですから、ヘタレてるのも似ているみたいです。

しかし、和晴よりも外面はいい様で、これは環境のなせる技かな?


次は編入試験の様子を


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