31. Game (side Yoshimi)
バスケの練習試合の相手校の部長である松元佳実視点のお話です。
あたしは都内でも有数のおバカが集まる事で有名な私立の女子校に通う高二のバスケ部員だ。
夏休みが終わって、三年が引退し、部長を任されたのはいいけど、ウチのバスケ部は弱い。
公式戦では既に七連敗中、おバカだからなのか?
いや、頭が良ければ勝てるなら、あの有名私立お嬢学校がウチより連敗しているのはおかしい。
あそこは偏差値だって悪くないんだから。
すると問題はやはり、体力なんだろうか?
いや、チャラいからかもしんないな~
何しろ、部員の(いや、我が校の生徒の)頭の中は、ファッションと化粧と男の事しかないんだから。
今だって・・・
「ぶちょぉ~今度の土曜に練習試合ってマジぃ?あたし、デートがあんだけどぉ」
同じ二年のシューティング・ガードである谷口佳織がチャラい喋り方で文句を言って来る。
デートってオマエ、ヤッてるだけだろ?
「夜にずらしたっていいんだろ?」
昼間くらいは健康的に汗流せよ。
それに
「相手はあのお嬢様達だぞ?」
ウチが唯一勝てる相手なんだぞ?
ここで、夏にペチャンコにされたプライドを回復しときたいじゃないか。
「珍しく、向こうから言い出して来た試合だし、出ろよ」
いつもはウチの方から申し込むんだけどな。
「それなんですけど、部長」
そう言って来たのは一年の阪中。
「どうやら、あっちには秘密兵器があるらしいですよ?何でも、アメリカ帰りのハンサムボーイだとかが居るって聞きました」
ハンサムボーイってオマエ。
「あっちだって女子校だぞ?」
ここまでおバカだとは知らなかった。
「え~!だって、あたしのダチのダチの従姉がそう言ってたって聞いたんだもん」
ダチのダチの従姉って知り合いですらないじゃん。
でも、まあ、向こうから試合を申し込んで来るってコトは、それなりに何らかの自信があるってコトなんだろうな。
十月の初めの土曜日、あたし達はお嬢様学校で有名な私立の進学校に来ていた。
いつ来てもムカつく学校だよな。
この立派な設備は嫌味か?っつーくらい豪華だ。
ウチの学校は私立でも貧乏だから、体育館はボロいのがひとつだけ(つーか、それがアタリマエだろ?)
それなのに、この学校にはなぜか体育館は三つもあるし、その中にも電光掲示の得点板まであるし、ロッカールームにシャワー室まで付いてる。
どれもウチの学校にはない物だ。
スッゲー、ムカつく!
このムカつきは、ゼヒとも勝利で晴らしたいもんだ。
着替えて体育館に入ると、その観客の多さの驚いた。
いつもは観客なんて一人もいないのに。
更に横断幕まで用意されていた。
『朱里様ファイト!』って・・・朱里様ってヤツが噂の秘密兵器なのか?
相手方のチームが入って来ると、黄色い歓声が響き渡る。
女子校パワーってスゲー!(いや、ウチも女子校だけど)
よく見ると、やはり見慣れない選手が一人いた。
背は高い方だが、飛び抜けてってワケでもない。
キャプテンだった三年の佐伯はベンチに座ってる。
え?まだ引退しねぇの?
杉田、気の毒に。
ま、秘密兵器なんつっても、所詮はお嬢様だろ?
へなへなパスにひょろひょろドリブルが精々なんだろう。
と、試合が始まるまで、あたしはタカを括ってた。
ところが!
噂はダテじゃなかった。
あたし達は、ボールに触る事も出来ずに、ポイントを取られた。
あ然とする中、あたし達が手にしていたボールはいつの間にやら新顔に渡り、シュートが決められている。
生意気だぞ!
お嬢様のクセに!
よく見れば、確かにハンサムボーイと言ってもいい様な美形だし、この学校に居るってコトは頭も悪くないんだろうし、金も持ってんだろう。
ちょっとばっかり不公平じゃないか!
第一・第二ピリオドと圧倒的に差を付けられて、一回もシュートが入れられなかったあたし達は、ハーフタイムに谷口がニヤリと笑って漏らした言葉に頷いた。
「ぶっちょぉ~、アレやっちゃってもイイ?」
アレとは、ラフプレーのコトだ。
谷口はチャラいが、それ故にそれなりの場数を踏んでて、度胸がある。
お淑やかでお上品なお嬢様達には有効な攻めだ。
実は、ウチがこの学校より優位に立っているのは、谷口のラフプレーによるところが大きい(卑怯だってのはあたしだって思うけど、勝てば官軍だぜ)
早速、谷口は『朱里様』とか呼ばれてる新顔にぶつかって行った。
案の定、朱里様はボールを落とし、観客からは批難の声が挙がり、ファウルを取られた。
まあ、これでアイツの足止めが出来れば・・・と思ってたんだが・・・
とんでもなかった。
スローインからボールを受け取った朱里様とやらは、谷口にボールをぶつけて来たのだ。
おい!
そこまであからさまに仕返しして来る奴なんて、見た事ねぇよ!
当然、朱里様はファウルを取られてたが、谷口はその後も狙われて、ドリブルしながら体当たりをされたり、ドンドンぶつけられてた。
ファウル四つを喰らった時、さすがに佐伯がタイムアウトを取って注意をしてたみたいだが・・・
それでも、ブロックしようと近づいたり、カットしようと前に出れば、ニヤリと笑って威嚇して来る。
それでビビッちまったあたし達もなんだが、朱里様・・・恐ろしいヤツ。
第四ピリオドはベンチに入ったヤツのお陰で、あたし達も少しは点を稼ぐ事が出来た。
でも、調子に乗った谷口がラフプレーをしちまったら、また出て来たよ・・・朱里様が。
さすがに、ファウル四つ持ちだと、自分からは仕掛けて来なかったが、あたし達の交わし方が上手い。
キレのあるフットワークでキュッキュッとバッシュを鳴らしてスリーポイントまで決めやがった。
チクショウ!敵ながら惚れ惚れする様なプレーだぜ!
当然ながら、あたし達は大差で負けた。
「凄かったっスねぇ~朱里様」
帰り道で、阪中はボーっとしたように呟いた。
「あたしなんかぁ、朱里様にボールぶつけられちゃったぁ」
ドMの谷口は恍惚とした顔をしてる。
こいつは女もイケるクチだったのか。
「今日の観客は朱里様の親衛隊ってヤツらしいですよ」
どこから仕入れてくるのか?阪中の情報は確からしい。
「オイ、阪中。その親衛隊とやらは他校の生徒は入れねェのか?」
あたしはクールなヤツが好きなんだ。
そんでもって、バスケが上手いヤツならサイコーだ。
「あ~!ぶちょぉ~ズルイ!あたしも入りたい!」
こうして、あたし達は阪中のダチのダチの従姉というツテを頼って朱里様の親衛隊に入った。
もちろん、その後も杉田に練習試合の申し込みをするようにせっつく事も忘れなかった。
あたしも女子校に毒されて来たのかな?
いや、でも、まんざらイイもんだぜ、女子校ライフってのも。
こうして朱里様の親衛隊の輪は広がって行くのでした。
しかし、誰も語り手の名前を呼んであげてないな・・・