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22. Scout 2 (side Aya)


バスケ部副部長・杉田綾視点のお話です。






わたしはその時、珍しく昼休みに廊下が騒がしいなぁと思っただけだった。


騒ぎは隣の雪組から聞こえてた、らしい。


余り騒ぎに意識を向けてなかったので詳しく知らなかった。


いかに岡村朱里がバスケット部に入部してくれるか?


今月に入ってからは、その事ばかりを気にしていたから。






アメリカからの帰国子女が一年に編入すると言う噂は、夏休み中にあっという間に広まった。


わたしはそれを聞いた時『いいなぁ生でNBL見た事があるのかなぁ?』ぐらいにしか考えていなかった。


なにしろ、夏の大会で惨敗した直後だったから。


一回戦敗退はこれで・・・わあい、十連敗だあ!(ここんトコ棒読みで宜しく)


最近では『弱小校のプライドを立ち直させるため』に練習試合が申し込まれる始末だ。


もちろん、その務めは立派に果たし、練習試合に於いても連敗は続いている。


『このままでは、卒業していった先輩方に申し訳が立ちませんわ!』と神経質な部長は苦悩しているが、果たしてそうだろうか?


なんてったって、この学校は有名なお嬢様学校だ。


それに進学率が高い事も売りになっている。


だから運動部は概ね弱小なのが当たり前で・・・ああ、一つだけ例外があった。


過去にインハイで優勝経験を持つテニス部だ。


まあ、アレはお嬢様定番のスポーツだから、別枠にしても構わないだろう。


とにかく、我が校の運動部は弱いのがデフォなのである。


私立で金があって設備が揃っているだけにイタイ話だが。


ところが、神経質な部長が『このままではダメよ!』といきり立ち、副部長であるわたしにとんでもない事を命じた。


『話題の編入生を勧誘して来なさい!』と。


いやいや、部長。それは無理ってもんです。


だって、噂の転校生、じゃなくて編入生は、もの凄い人気で、既に親衛隊が出来上がっているとか、その隊員数は高等部生徒の半分を超えていると専らの噂ですよ?


現に、ウチの部員にだって親衛隊員がいるらしいですし。


と、わたしが出来た反論はここまでだった。


『だから何?聞けば編入生は余暇の過ごし方にバスケと答えたそうじゃないの?ここは我が部が勧誘しないでいる事は出来ないわ!』


そんな情報をどこから?


もしかして、部長も編入生の親衛隊に入ってたりしてます?


『と言う訳で、新学期になったら、早速勧誘よ!』


後から聞けば、編入生の親衛隊員の掟に『朱里様に個人的利益に繋がるお願い事をしてはいけない』と言うものがあるらしく、親衛隊員ではないわたしに白羽の矢が立ったらしい。


ガッテム!


流行に乗り遅れるとロクな事がない証明のようなもんだ。






そして、二学期が始まったばかりの始業式の日、わたしはバスケ部の一年で編入生のクラスメイトである佐藤(親衛隊の一人)からメールを受け取った。


『先輩!大変です。テニス部の副部長が朱里様に部活の勧誘に来てます!』


テニス部の副部長と言うと、雪組の後藤涼子。


おのれ!あれだけ強くて部員もたくさんいるのに、これ以上人気と実力のある生徒を引き抜かれてたまるか!


日頃は気にしないように努めているが、テニス部に対する不満と怒りがその時、湧き起こって爆発した。


わたしは唯一の取り柄である脚を生かして廊下と階段を走った!


そして、息を切らして勧誘を行った。


が、しかし、残念な事に『編入したばかり』という理由で、その場での返事は保留になってしまった。


それはテニス部もご同様なので、わたしもあっさり引き下がった。


のだが、その後、全く音沙汰がない。


編入生・岡村朱里はバスケ部に見学に来る様子はないし、入部の可能性に至っては未知数のままだ。


なにやら趣味の一つであるピアノのミニ・コンサートが開かれたらしいが、その素晴らしさに部長は部への勧誘を忘れ去ったらしい。


この学校の授業に追いつくための勉強が大変だとか、親衛隊員でもあるバスケ部員達からは、言い訳の様な理由が次々と入って来る。


でも、わたしは知っているんだぞ!


何でも岡村朱里は体育の授業でのバスケでクラスメート全員を振り切る様な活躍をしたらしいじゃないか!


それほど使える人材なら、わたしだって欲しいぞ!


でもな・・・それだけ運動神経が良いならテニス部も放っておかないか・・・


諦めるべきかな?


ふと、そんな弱気の考えに取り付かれた時、廊下の騒ぎが近付いて来た。


そして我がクラスに響き渡る声。


「す、す、す、杉田さぁ~ん!しゅ、しゅ、朱里様がお呼びよぉ~!」


へ?


その大声に驚いて、ドアの辺りを振り向けば奴がいた。


ま、まさかわたしの思いが彼女に通じたとか?


勢い込んで立ちあがり、思わず机に躓きそうになりながらも、ドア付近に辿り着き、走ってもいないのに息が切れていた。


「だ、大丈夫ですか?」


は、恥ずかし~!


一年に心配されちゃったよ!


「い、いや、平気。ところで何の用かな?もしかしてウチに入部してくれる気になったとか?」


期待に胸を膨らませて訊ねると、視線を逸らされた。


ああ、こりゃダメだ。


部長、すみません。


「その・・・実は今もテニス部の後藤先輩にも申し上げて来たところなんですが、折角お誘い頂きましたけど、わたし、ピアノのレッスンがあるものですから、クラブ活動は無理なんです。申し訳ありません」


ああ、さっきの雪組の騒ぎはコレだったのか?


ま、でも、仕方ないよね。


ピアノのレッスンと言えば部長も納得してくれるかもしれない。


「そのレッスンって土日もあるのかな?」


最後の悪足掻きをしてみよう!


もしかして、練習試合の助っ人くらいはして貰えるかも!


「いえ、平日だけですが」


おお!ラッキー!!


「じゃ、じゃあさ、試合がある時だけでも参加して貰えないかな?ウチの部は人数も少ないし、実は何と言っても弱いんだよ。岡村さんに出て貰えると助かるんだけどなぁ」


可愛くもない上目遣いでお願いをしてみる。


岡村朱里はわたしよりも背が高いので楽に出来る作業だ。


いや、しかし、この時初めてと言っていい程近くで彼女の顔を見たが・・・キレイな顔をしているわ、ホントに。


真っ黒な髪は短いが、前髪は長く、その隙間から覗く目は・・・アレ?よく見ると少し薄い色をしてないか?


「もちろん、無理にとは言わないけど、練習試合でも出て貰えると助かるんだよ。いや、ホントに。ウチは弱くってねぇ」


廃部も近いかもしれないし・・・と小さく呟いた声は、もちろん彼女に聞こえる様に言った。


多分、プライドの高い後藤涼子は彼女が入部しないと言ったら、あっさりとそれを了承した事だろう。


だが、弱小部であるウチは、そんな形振り構ってはいられないのだ!


プライドなんてクソ喰らえ!だ。


部長のヒステリーも怖いが、わたしだってバスケットが好きなんだ!


ヘタだけど。


部員として入部して貰えなくても、試合にだけでも参加して貰えれば・・・試合の観客は増え、部員が増える可能性も高くなるし、そうすれば部費も上がるし、もしかしたら試合に勝つ事だって出来るかもしれない!


我が弱小バスケ部が陽の目を見る事が出来るかも!


「・・・わたしでお役に立てるかどうかは判りませんが・・・日取りの都合が付けば・・・」


参加してくれるのね!


「ありがとう!岡村さん!!」


思わず、彼女の両手を握りしめて上下に振った。


周りで上がった悲鳴は無視だ無視!


わたしは親衛隊員じゃないもんね。


本当は彼女に抱きつきたい処だが、さすがにそこまでするとわたしの命が危ない事ぐらいは判ってる。


今ですら、殺気をビンビンに感じてる。


「じゃあ、試合の日程が決まったら連絡するから!都合が良かったら参加してね!」


立ち去る彼女を大きく手を振って見送ると、彼女は苦笑して会釈を返してくれた。


ああ、なんてイイ子なんだ。


キレイなだけでなく、性格までイイときてる。


今からでも、親衛隊に入っちゃおうかな?


しかし、その後、この話を聞きつけた部長と部員達によってわたしの朱里様親衛隊への入隊は阻まれた。


何故なら、親衛隊員になると試合への参加を頼む事が出来ないそうなのだ。


いつの間にか、我がバスケ部の部員はわたしを除く全員が親衛隊員へと化していた為に。


だが、その見返りとして、親衛隊員が得られる情報は入手する事が出来た。


えへへ、これで連敗記録はストップ出来そうだ。


秋の新人戦が楽しみだなぁ~!


と、思っていたのだが。


合唱部とオーケストラ部が朱里様に文化祭への協力をお願いしたらしい。


ええ~?


新人戦は文化の日に予選が始まるんだよ!


それって文化祭の前日なんだよ!


公式戦ではまた連敗するしかないのか?


こうなったら、練習試合の予定を組まなきゃ!


文化祭の前に何としてでも試合をしてやる!


見てなさいよ!!







プライドを捨てられるか捨てられないかが後藤涼子と杉田綾の違いでした。

やはり朱里様にはスポーツでも活躍の場を残しておかなくては。


次は・・・やっぱ樹視点かな?


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