17. Mathmatics (side Satomi)
真鍋聡美視点のお話です。
「つ、疲れた・・・」
朱里は机に頬杖をついて、頭をガックリと落している。
「お疲れさん」
あたしはポンポンと朱里の肩を叩いて労った。
一限目のOCAは凄かった。
国木田のおばちゃんが、朱里に自己紹介をするように言った後、みんなに質問をさせたら、もの凄い勢いで手が挙がってた。
気の毒に、朱里は立ちっぱなしで、質問に答えていた。
一限目中、ずっと、英語で。
正直に言おう!
あたしには、朱里が何を聞かれてどう答えたのか?サッパリでした。
さすがは帰国子女だよな。
英語ペラペラ。
そんでもって、時々ニコッとプリンス・スマイルのサービスまでしてた。
嫌がってた割には、サービス精神旺盛なんだよな、朱里は。
「次、なんだっけ?」
あたしは、斜め前の委員長に聞いた。
「数学ですわ」
あ~平沢ちゃんの数学ね。
あたし、次の時間は寝てようかな?
さっきのOCAだって、もう少しで舟を漕ぐとこだったもんね。
「昨日、宿題を忘れた人は今日中に提出してくださいね」
平沢ちゃんは教室に入ってくるなり、そう言った。
ゲゲゲッ!
夏休みの宿題なんてやってねぇー!
確か・・・ガサゴソと机の中を漁れば・・・出てきた!
数学の宿題のテキスト!
見事に手付かずだぁ!
あはははは・・・どうしよう?
テキストを手に呆然としていると、隣の朱里がコッソリ話し掛けて来た。
「ねぇ、宿題って?」
あたしは手に持ったテキストを軽く振った。
「ん~?コレのこと。夏休み中に勉強しろって出るんだよ。宿題が」
あ~?アメリカじゃ出ないのかな?
そー言えば、向こうじゃ九月に進級だっけ?
こっちでも春休みには宿題は出ないもんなぁ。
「へぇ・・・見せて貰ってもいい?」
あたしは朱里にねだられて、数学のテキストを渡した。
パラパラと中身を見た朱里は、ビックリしてた。
「コレ・・・何にも書いてないけど・・・」
ピンポ~ン!
「だって、やってないも~ん!よかったらやってみてよ」
なんてね!
あたしは冗談でそう言ってみたんだけど、朱里は真剣な顔をして解き始めた。
ええ?ウソっ!
まっじでぇ?
思わず、教卓の平沢ちゃんを見てしまったけど、平沢ちゃんは黒板に向かって一生懸命書き込んでいるので気づいてないみたい。
おお、ラッキー!かも。
「出来たよ」
後五分で授業が終了する時、机に突っ伏して半分以上寝ていたあたしは、朱里がそう囁いてテキストを返してくれた。
はやっ!
目を覚ましてよく見れば、確かに解答欄は全て埋まっていた。
「サンキュ!」
この調子で、他の教科もやってもらっちゃおうかな?
と、不届きな事を考えたのがいけなかったのか?
あたしが持っていたテキストは、取り上げられた。
あたしの後ろにいつの間にか立っていた、平沢ちゃんに。
あっちゃぁ!
朱里が解いたテキストをじっくりと見た平沢ちゃんは、にっこりと笑った。
「大変結構ですね。おそらく、殆ど正解していると思いますよ。岡村さん」
バレバレっすか!
「宿題はご自分でしましょうね、真鍋さん」
「はぁ~い」
あたしは平沢ちゃんから、一週間以内に夏休みの宿題であるテキストの再提出を命じられた。
爽やか好青年のフリをしてるクセに、陰険なコトをするヤツだ。
「自業自得と言うものではありませんこと?」
新たに平沢ちゃんから渡されたまっさらなテキストと睨めっこをしているあたしに、委員長は冷たい。
「ごめん・・・わたしの所為かな?」
朱里はすまなさそうな顔をしてる。
「いんや、委員長の言う通り、あたしの自業自得ってヤツだから。気にしないどいて」
そうだ、世の中、そんなに甘かない。
「それよか、スゴイね朱里。あんな短時間で宿題のテキストを全問正解とは!」
あたしは朱里に向かってニカッと歯を剥き出しにして笑った。
これは、あたしが自分を励ます為の笑顔だ。
ヘコたれるな!あたし!
ってカンジで。
「そうですわね。朱里様は確か数学が苦手だと仰ってませんでした?とてもそうは思えませんけど?」
委員長は朱里が解いた宿題のテキストを見て、そう言ったけど、確かに。
「ええ?全然ダメだよ。日本とステイツの勉強では数学が一番差があるって聞いてるし、わたしは苦手だから一番時間をかけて勉強してるんだよ」
うはっ、苦手なモンを一番勉強するって・・・朱里ってば真面目なんだな。
「じゃあ、あたしと一緒に勉強しようぜ!このテキストで!」
一度、解いた問題なんだから、簡単な筈だよな。
よっしゃあ!
貴重な頭脳をゲットしたぜ!
これで、これからのあたしの高校生活は、勉強も実り豊かになりそうだ。
他力本願な聡美ちゃんのお話でした。
次は体育かな?