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16. Oral Communication (side Tsumugi)


曽我部紬視点のお話です。





始業式をサボるというチョイ悪な処を見せて下さった朱里様は、教室に張り出してある時間割を書き写してから帰ると仰った。


「夏期講習の時間割も面白かったけど、日本の学校の時間割って面白いよね。毎日違うプログラムで、科目の数が多いし」


そう仰った朱里様に真鍋さんが「へっ?アメリカの学校って毎日同じなの?」と驚いたように訊ねられた。


「うん、毎日二パターンの繰り返しだったし、こんな風にクラス全員が同じ科目を学ぶスタイルじゃなくて、個人が選択した科目を学ぶ形だった。科目ごとに教室が違うから、常に移動してたし、こっちみたいに同じ教室をずっと使うのも新鮮だよ」


高校生になると科目が増えるから、きっとパターンも増えただろうけどね。


「へぇ・・・一々教室を移動するなんて面倒臭そうだな」


そう付け加えられた朱里様のお言葉に、その場にいた人達は真鍋さんと同じ様に感心してしまいました。


「慣れればそうでもないよ。それより休み時間は移動で潰れる方が大変だったな。こっちでは毎回間に十分程あるみたいだけど、向こうじゃ移動の為の五分だけ、二時間目と三時間目の間に十五分のアドバイザリィっていう時間があるけど、ランチタイムは三十分程だし、午前中は五時間授業があるよ」


「随分と違いますのね」


秋山さんも驚いた様な言葉を漏らした。


「うん、まあね・・・それより、OCAってどんな授業?夏期講習には無かったよね?」


朱里様が時間割を書き写し始め、授業の一つに疑問を持たれた様でした。


少し恥ずかしそうにやや小さな声でお尋ねになられました。


無理もありませんわ、表には略語で書かれていますもの。


「ああ、オーラル・コミュニケーションAと言う意味ですわ。英会話主体の授業です。朱里様なら楽にこなせる授業ですわ」


秋山さんがそう説明して差し上げている。


そう、意外な事に、朱里様は夏期講習の英語Ⅰの講習で苦戦していらっしゃった。


何でも、英文は理解出来ても、問題の意味が時々判らない、と仰って。


後は、逆に国語は心配していたよりもスムーズに、数学・理科・情報Aもご同様でしたが、やはり日本史Aには手こずっていらっしゃいました。


ずっと海外にいらしたのですから、無理もありませんわ。


反対に、他の科目の理解力の深さに、その優秀さが窺えて感心させられました。


さすがは朱里様ですわ。


そう回想していると、周りのみなさんがクスクスと笑いながら「まあ、朱里様ったら」と仰っている。


「どうされましたの?」と小さな声で、隣にいらした真田さんにお聞きしたところ、朱里様は秋山さんの説明を聞いて、ホッとしたように小さく呟かれたそうだ。


「なんだ・・・ビックリしちゃった。そうだよね、いくら女子校でも、OCがオーラル・コントラセプティブな訳ないよね」


コントラセプティブって?


首を傾げたわたくしに、真田さんが小さな声で「経口避妊薬の事ですわ」と教えて下さった。


わたくしは顔が赤くなるのを感じました。


そ、それって・・・


「しゅ、朱里様はピ、ピルをお使いなのですか?」


思わず声を上げてお訊ねしてしまいました。


質問状では恋人もボーイフレンドもいらっしゃらないとの事でしたが、アメリカでは常識だと伺ってますし、もしかして・・・


「わたし?ピルは使った事無いよ。別にせ・・・」


わたくしの問いに答えて下さっていた朱里様の口を真鍋さんがパッと押さえてしまわれました。


そして朱里様の耳元でヒソヒソと何かを呟くと手を離されました。


多分・・・恐らく、真鍋さんはわたくし達を気遣って下さったのだと思います。


やはり、朱里様の口から『生理』だなんて聞きたくありませんもの。






二学期が始まって、最初の授業はOCAでした。


「ハイ、ではまず、ミス・岡村に自己紹介をお願いしましょう」


教科担当の国木田先生がそう仰ったので、わたくしは思わず瞳を輝かせた。


朱里様に質問状をお渡しして、色々とお答え頂いたけれど、本当はもっともっとお聞きしたい事があるんですもの。


でも『親衛隊』としては、朱里様にご迷惑をお掛けしてはいけないから、と自粛しておりましたの。


それが、授業であれば色々とお聞き出来ますわ!


国木田先生、ナイス!


朱里様は立ち上がって、お名前と家族構成、今まで育って来た場所について、そして趣味などを、当然ながら流暢な英語で話された。


でも、それらは質問状でお答え頂いた事ばかりで、ちょっと残念。


「ハイ、ありがとう。さすがに発音は素晴らしいですね。それではお待ちかねの質問タイムと参りましょう」


はっきりと申しあげて、クラスの殆どの方の手が上がったと思いますわ。


それも、もの凄い勢いで。


「あらあら、凄い人気ね」


国木田先生は笑いながらそう仰って、一人を指差しました。


羨ましいですわ、永田さん!


『ピアノはもう何年習っていらっしゃるのですか?』


『そろそろ十年になります』


オーケストラ部の永田さんは、朱里様のピアノ歴が気になるご様子。


『日本の高校をどう思われますか?』


『レベルが高いので、追いつく事に必死です。でも、みなさんが親切に色々と教えて下さるのでとても助かっています』


中野さんの質問にそう答えられた朱里様は、にっこりと、まるで王子様の様な優雅な微笑みを浮かべられた。


ああ、ステキ・・・


その後も、わたくしが当てられる事はなかったけれど、お得意な曲や、日本に来て初めて食べた物について、ご家族と離れてお暮らしになるのは寂しくないか、といった質問が続きました。


当然ながら、質問はOCAの時間一杯まで続き、とても有意義な時間でしたわ。







表で一切触れられない朱里の授業風景を裏で・・・

と言う事で、この4章目は表とは違った時間軸で進みます。


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