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14. Chairman (side Chika)


クラス委員長・秋山知夏視点のお話です。






幼稚舎からの持ち上がりが十二年も続いている女子校だなんて、変化がなくて詰まらない。


一学年は三クラスから四クラス程度で、クラス替えをしたところで大体は顔見知りになってしまうし、家との繋がりでそれ以上の知識も入って来る。


初等部や中等部から入って来た人もいるけれど、所詮は同じ世界の人達。


お家柄の背景や今後を考えれば、個人の感情など無視して、上辺だけを取り繕う事ばかりになる。


退屈だけど、安全で安心出来る場所でもある。


そこへ帰国子女編入のニュース。


同じクラスの曽我部さんは、編入試験を受けに来たその人を見て、親衛隊を作ると言い出す程に入れ揚げている。


どれ程の美形なのかしら?


好奇心が疼くのは当然で、噂の彼女が参加すると言う夏期講習初日、職員室をうろついていたら、担任の平沢先生に見つかり、編入生を手伝うように指示された。


あの時の担任のニヤニヤした笑い方。


わたくしの考えを見透かされた様だった。


先生、そんな顔はあまり生徒に見せない方が宜しいですわよ。


折角、取り繕っていらっしゃる『若くてハンサムな好青年』が台無しですわ。






クラスへの通路を、反対側から回り込んで足早に歩いていると、案の定、大量の教科書を抱えた背の高い私服姿の方が一人歩いて来るのが見えた。


「岡村さん?」


声を掛けると立ち止まってわたくしに視線を向けて来る。


なるほど、これは一見少年のようにも見える凛々しい方だわ。


他の女子が騒ぐのも判るかも。


「私、一年月組のクラス委員をしてます、秋山です。宜しければクラスまでご案内いたしますね?それも、持つのをお手伝いします」


「ありがとうございます」


手を貸すと申し出ると、そう言って微笑んでくれた。


これは・・・天然が入っているのかしら?


もの凄い威力がある笑顔だわ。


思わずわたくしもクラッと来てしまいそうなくらい。


凛々しい少年から、可愛らしさへのギャップにやられそう。


教科書を半分持って差し上げて、月組のクラスまでの道すがら、お話をする。


「一年の夏季講習に参加する人は少ないんです。まだそれほど受験に深刻ではないから。だから一クラス分、三十人程しか参加していないんですけど、今回は参加出来なかった人達は残念がると思います」


「どうしてですか?」


まあ・・・全然ご自分を理解なさっていらっしゃらないのね。


思わず、クスクスと笑いながら答えて差し上げた。


「岡村さんは編入試験にお見えになられた時から全校生徒の注目の的でしてよ」


岡村さんはその言葉に、眉間に皺を寄せて難しい顔をされた。


「部活や補習で登校していた人達の間で噂になっていたんです。とても素敵な人が編入して来るらしいって」


そう伝えても、まだ首を傾げていらっしゃる。


「覚悟なさった方が宜しいですよ」


ご忠告は差し上げましたわ。






夏期講習の教室に入る時、悲鳴の洗礼を受けた岡村さんは、もの凄く驚いていらしたけど、わたくしが促すと席に就かれて、真剣に講習を受けていらした。


そうね、教室に入るのがかなり遅れたから、曽我部さんが動き出すのは休み時間かしら?


そう思っていたら、案の定、早速一時間目が終わった休み時間に、曽我部さんがやって来て『親衛隊』の話を持ち出した。


「はあ」と唖然とした返事しか返していない岡村さんは、よく理解していない様子。


「心配されなくても大丈夫ですわ。親衛隊が出来れば、岡村さんに過激な事をする人は親衛隊の人達が追い払ってくれますから」


一応、そうご助言申し上げたけれど、果たしてどこまでご理解して頂けたのか?


他の受講者達は、曽我部さんの発言が受け入れられた事に満足したのか?


それとも、熱心に教科書を読んで予習している岡村さんの邪魔をする事を避けたのか?


その後の休み時間は大人しいものだった。






そして、四時間目が終わって昼休みに入った時、わたくしは岡村さんに声を掛けた。


「宜しければ、今日のお昼をご一緒しませんか?色々とお教えいたしますわ」


その時、曽我部さんに視線を送って頷くと、彼女は心得た様で、他の月組の人達を誘って付いて来た。


「この方達は岡村さんの『親衛隊』のメンバーで同じ月組の方々です。ご一緒して差し上げて?」


月組の教室まで付いて来る彼女達に気付いた岡村さんに、そうお伝えすると、岡村さんは複雑な表情をして黙っていた。


『親衛隊』などと言い出した人達と一緒というのが不愉快だったのだろうか?


でも、これから岡村さんがこの学校で過ごしていかれるのなら、彼女達の存在は何より岡村さんの為になると思うのだけれど。


そして、月組の教室に着いて皆さんと席について落ち着くと、わたくしは岡村さんにこれまでの経緯について簡単にご説明申し上げた。


わたくしの話を聞いて唖然としている岡村さんに、他の方達が次々と質問を投げかける。


無理もない、まだお名前しか判っていないのだから。


でも、当然ながら、まだ全てを理解する事が難しいらしく、茫然としている岡村さんが、矢継ぎ早な質問全てに答えられる筈もなく、それを察した曽我部さんが『質問状に纏める』と言う事で一旦は治まった。


さすがは曽我部さんですわ。


岡村さんも、収集を付けて下さった曽我部さんに感謝の言葉を伝えると、曽我部さんは顔を赤くされていた。


ふふっ、やはり岡村さんの笑顔は威力がありますわね。


曽我部さんの反応に、戸惑った岡村さんは、助けを求めるようにわたくしの方をご覧になった。


でも、これからはこう言った事に慣れて頂かなくては。


「そう言えばまだ申し上げておりませんでしたね。ようこそ、我が校へ、一年月組一同、あなたを歓迎致しますわ、朱里様」


わたくしはそう言って彼女を励ましたつもりだったのだが。


岡村さん・・・朱里様にとっては中々素直に受け入れ難い事であった様だ。






それでも、次の日、朱里様は登校するなり、挨拶された人の名前が判らないから、と言って、わたくしにこっそりと親衛隊の人達の名前を聞かれた。


確かに、朱里様はまだ正式に編入生として紹介されていないので、このクラスに居る人達の名前すらまだよくご存じない。


わたくしは夏期講習の教室での名前入りの座席表を作って差し上げたら、朱里様は又しても、あの悩殺する様な可愛らしい笑顔で「ありがとう、秋山さん」と仰る。


「どういたしまして。でも、親衛隊の人達の事は下の名前で呼んであげると喜ぶと思いますわ」


つい、こちらも笑顔でそう申し上げると、「もしかして・・・秋山さんもそう思っていらっしゃる?」と聞かれた。


そうですわね・・・別にどちらでも構いませんけど。


「どちらでも朱里様が呼び易い方で構いませんわ。わたくしは皆様からは『委員長』とよく呼ばれますから、そちらでも結構ですし、苗字でも、下の名前でも」


ああ、でも、そう言えば、わたくしはフルネームで名乗っておりませんでしたわ。


「そうそう、ちなみに下の名前は知夏と申しますの」


そう申し上げると朱里様は引き攣った様な笑顔をなさっていらしたけど、朱里様がわたくしと話している間、同じ教室に居る方々から、差すような視線が向けられている事をお気付きではないのかしら?


そして会話の内容について耳を澄ませているから、教室内がし~んとするほど静かである事を。


みなさん、朱里様の言動に注目されているのが、これほど判り易いと言うのに、肝心の彼女は少しも気づいていない。


そんな、よく言えば大らか、悪く言えば鈍い処も朱里様の魅力の一つになるのでしょうね。






曽我部さんに質問状をお渡しする時も、他のクラスの方達が神経を研ぎ澄ませて覗っていた事にも気付かれないから、桜組の白石さんが突然口を挟んで来た時も驚いていらしたし。


でも、白石さんに質問状を勿体ぶって渡した曽我部さんは、ちょっとばかり意地悪でいらっしゃいましたわね。


朱里様が、少しだけ嫌そうなお顔をなさっていたのに気づかれなかったのかしら?


質問状と交換に『親衛隊』に入る事に、夏期講習の参加者全員が賛同した事を、朱里様は呆れていらっしゃったけど、わたくしだって彼女の情報は知りたいですわ。


曽我部さんや白石さんの様に、熱烈な思いを抱いている訳ではなくても、朱里様は可愛い方だと思うし、傍に居られれば、これからの高校生活が楽しい物になるかもしれませんでしょう?


クラス委員だなんて、雑用ばかりで面白味がないと、常々思っておりましたけれど、朱里様の傍に居ても、彼女にご助言申し上げているからなのだと、周りのみなさまから下手な嫉妬を受けなくて済むのですから、ありがたい事なのかもしれませんわね。


本当に、これからも朱里様には色々と教えて差し上げなければなりませんわ。


日本の女子校生活について、ね。







面白がっているのは、腹黒担任と同様ですが、委員長の場合は朱里の力になってくれてもいます。

もちろん、それなりの好意を持っているからでしょうけど、他の親衛隊の方々とはちっと違ったスタンスでいるみたい。


次は聡美ちゃん視点かな?

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