9. Visitant (side Kazuharu Hina Haruka Soushi)
今回は順番に四人の視点で、
伯父さん・ママ・お祖母ちゃん・蒼司の順です。
side Kazuharu
「え?岡村が来る?」
俺は葵からその話を聞いて驚いた。
だって、てっきりアイツは成島の両親と顔を合わせたくなくて挨拶にも来なかったんじゃなかったのか?
今までこの家の敷居を跨いだ事があったかなアイツは?
「ええ、朱里ちゃんがメールをしたらしいんだけど・・・」
葵も突然の話に戸惑っている様だ。
「今更、挨拶ってのもヘンだよなぁ」
朱里ちゃんからのメールねぇ・・・
「オマエ、朱里ちゃんに何したんだ?」
考えられる事と言ったら、お義母さんと葵が朱里ちゃんと一緒に行った買い物だろうか?
随分と弾けてたからなぁ。
葵は俺から視線を外して「別に何も・・・少し買い過ぎたかしらとは思ったけど・・・」と呟いた。
然もありなん。
しかし、それくらいでわざわざロスから飛行機に乗って来るか?
アイツの考えてる事は、昔も今も俺にはよく判らん。
そして、葵とお義母さんのはしゃぎ様も。
そんなに娘がイイのかね?
何れは嫁に行っちまう存在だぞ。
お義父さんをよく見てれば、如何に虚しい存在であるか判ろうってモンだろうに。
俺は妹を嫁に出した時に、似たような感覚を味わって以来、娘なんて欲しくない!と思ったもんだ。
女はまた違う感覚を持ってんのかな?
ま、何れにせよ、面白い見世物には違いない。
岡村は緋菜ちゃんとの結婚を反対されてから、一度もこの家に来た事はない筈だし、何年か前に成島の両親がロスまで会いに行ったらしいが、その時も岡村と顔を合わせたかどうかは聞かされてない。
お義父さんやお義母さんがどう反応するのか見てみたいし、岡村がどんな態度を取るのかも興味深い。
本音を言えば『オマエも婿イビリされてみろ!』ってトコか。
いやぁ、楽しみだな!
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side Hina
「来た」
メールをチェックしていたパパがそう呟いた。
思ってたよりも遅かったわ。
お陰で折角の夏休みが半分近くも過ぎちゃった。
まぁ、それだけ朱里が成島の家に上手く馴染んだって事なんだろうけど。
「チケットは三枚取れるけど、どうする?」
パパの問いに、あたしはもちろん頷いた。
「一緒に行くわよ。当然でしょ」
さて、日本に行くのは何年振りになるのかしら?
空港に着いた時、迎えに来ていた朱里の顔を見て、ちょっとだけ『やっぱり一人で日本に来させるのはまだ早かったのかしら?』と後悔した。
あの朱里があんなに泣きそうな顔をするなんて。
ホームシックには縁がない子だろうと思ってたのに。
それでも、パパとの話を聞いているうちに、やっぱりそんな事は杞憂だったと安堵した。
朱里はまだ日本の高校に通いたいと思っている様だし、成島の父や母とも上手く行っている様だ。
やっぱり、気にしてるのはお金の事なのね。
周りの子供達に合わせて、お小遣いをあげていなかった事が、こんなに弊害を生むとは思わなかったわ。
日本とアメリカの文化っていうか習慣っていうか、やり方の違いに戸惑うのは判るけど、その違いを受け入れられないと、この国で暮らしていくのは難しいと思う。
あたしだって、アメリカのやり方に慣れるまで時間が掛かったし、今でも戸惑う事はあるもの。
まだ若いから柔軟性があって、環境に馴染みやすいと考えがちだけど、若いからこそ、どうしてそうなったのか?その背景を理解する事が難しい時もあると思うの。
でも、朱里は日本で生まれたし、あたし達の生まれ育った国の事を理解して欲しいと思うのは、親のエゴなのかな?
パパも、事前に成島の家の事を朱里に話しておけばよかったと思うのに、妙な処で頑固な人だから。
あたしの実家がお金持ちだって事がそんなに気に入らないのかしら?
妻の実家が気に入らないって、ある意味とっても失礼よね!
じぃっと、恨みを込めてパパを睨めば、さすがに気づいたみたいで「なんだ?」と聞いて来る。
「いいえ、別に」
それでも、娘の為に気に入らない妻の実家に頭を下げに行くパパは偉いとも思う。
一人で行って誤魔化すんじゃなく、あたしと玄まで連れて。
子供達の前で父親が頭を下げるって勇気がいる事だと思うのよ。
「ご無沙汰しております。今回の娘がお世話になる件につきましても、本来なら事前に私がご挨拶に伺うべきでしたが、この様に遅れてしまい、大変申し訳ありません」
ホラ、やっぱり朱里も玄もびっくりしてる。
ああ、なんだかとっても晴れがましい気分だわ。
思いっ切り自慢したい!
これがあたしが選んだ人なんですって!
パパはやっぱり世界一素敵よ!
「岡村、お前も人の親になって成長したんだな~」
お義兄さんがパパを茶化すのも相変わらずなのね。
成長しない人だわ。
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side Haruka
今までこの家を避けているのがミエミエだった緋菜の旦那が、いきなり家にやって来て頭を下げたのには驚いた。
そりゃあ、緋菜と結婚した時は、あたし達の態度も良くなかったけど、この男の態度も褒められた物じゃなかったわ。
葵の旦那とは違って、あたし達に誠意のカケラも見せる気配がなかったもの。
『反対されようがどうしようが俺は勝手にさせて貰う』みたいな態度で。
それがどうよ、この差は。
「この度は、朱里の為に色々と手配して頂けたようですが、学校に関する費用につきましては、私共の方で支払わせていただきますので」
まあ、こう言う処は相変わらず可愛げがなくて、変わってないみたいだけど。
緋菜も一人前に「お母様もお姉様も朱里を甘やかさないで下さい!この子はあたしが厳しく躾けて育ててきた娘なんですから!」なんて言い出すし。
嬉しさ半分、寂しさ半分、と言った処かしらね。
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side Soushi
朱里のお父さんか・・・相変わらず怖そうな人だな。
十年前にも一度だけ挨拶をした事があったけど、ホントに無口で無愛想だった。
でも、そんな人でも娘の為には海を越えて頭を下げに来るんだな。
朱里のタイプって叔父さんみたいな人なのか?
ゲゲゲ、それじゃ、丸っきり俺と真逆じゃん!
あ~あ、お袋からの電話で、今日叔父さん一家が来る事を聞いて、顔を出したのはマズかったかな?
お袋はチラチラと俺を見ては笑ってるし、朱里も何だか『お前はどうしてここにいる?』って顔をしてるぞ。
しかし、危惧していた、朱里がこの家を出ていく事は避けられそうだ。
叔父さんに感謝!
それとなく朱里に出ていくつもりだったのかと聞けば、慌てた様に「まさか、そこまでは・・・」なんて答える。
ふ~ん・・・そこまでではなくても何かしらは考えてた訳ね。
やっぱり心配してた通りだった訳か。
今回は叔父さんが来て事なきを得たけど、朱里がこの家を出て行ったり、学校を辞めてロスに帰りたい、なんて思わせないようにしないとなぁ。
俺自身との関係もだけど、朱里が今、せめて高校の三年間ぐらいは日本に居て貰いたいもんなぁ。
上手い事、学校に馴染んでくれよ、朱里。
俺の為にも。
パパ来襲のお話ですが、出てくる人が多いので其々の視点を描いてみました(そうしたら長くなった)
パパの気持ちとしては朱里に話した通りですのでカットしました。