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ここはなにかが欠けている

拳で語る人々

作者: 浮月重月
掲載日:2026/09/23

冒険者は別に、道理の通じない荒くれ物の集団という訳ではない。

とは言え会話の流れによっては相手と険悪になる場合だってある。


今回二組の冒険者一行が、依頼をどちらが受注するか口論となり、

だったら代表者をそれぞれ出して腕っぷしで決めようじゃないか、

となり、冒険者組合の裏手にある練習場で模擬戦を行っている。


なにぶん今回の依頼、隣町までの護衛なのだが報酬は高めなので、

こんな機会は逃したくないと下級冒険者同士が争う事になった。

どちらの一行も若手の男ばかり五名で、全員が二つ星の戦闘職。

依頼主にしても、強い冒険者の方が安心して任せられるだろう。


「地平線の向こう側」代表はくすんだ茶髪の手斧使い。

「草原の暴れん坊」代表はやや薄い金髪の小剣使い。

武器を構えているが、どちらも見た目は迫力など感じられない。


「双方、準備はいいな?では、始め!」


練習場にいた指導員が臨時の審判を行い、開始の合図を出した。


同時に相手へ駆け出す手斧使い。小剣使いは盾を構える。

手斧使いは斧ではなく自分の盾を前に出し、相手の盾をはじく。

はじかれた小剣使いはそれに逆らわず横へ跳躍して身を屈めた。


追撃を仕掛けようとした手斧使い、相手の位置を見損ない、

斧は空を切る。そこへすかさず小剣使いが盾で突進をかけた。


盾で横から強打された手斧使いはたたらを踏み、

姿勢を整える前に目前へ小剣が突き付けられる。


「そこまで!この勝負は『草原の暴れん坊』代表の勝利!」


戦闘時間はごくわずか。だが決着はついた。悔しがる手斧使い。

見守っていた残りの「草原の暴れん坊」は歓声をあげる。

「地平線の向こう側」一行は去るかと思いきや、


「いや、一戦やって負けても、俺達が弱いとは限らないだろ!」


等と言い出し始めた。まあ言いたい事は分からないでもない。

五名対五名で戦った場合、結果が逆転する事もあり得なくはない。

だが最初の取り決めは取り決めだ。蒸し返すのは少し違うだろう。

「草原の暴れん坊」一行は冷笑で応じ、こう言い放つ。


「ほーお。もし次やってまた負けたら、今度はどう言い訳を?

 『武器が悪かった』か?『疲れていたから』か?

 それとも『全力でやってなかった』か?

 何を言おうと負けたんだよ、そちらさんはさ。


 みっともないねえ、力も頭も弱い連中って」


言い放った者は言葉を最後まで言い切れなかった。

途中で「地平線の向こう側」一行が殴りかかってきたからだ。

当然「草原の暴れん坊」一行も黙って殴られてはおらず加勢する。

奇しくも五名対五名の戦闘が開始される。


審判をやった指導員は、やれやれとため息をついて放置する。

武器を振り回したりはしていないんだ、死んだりはせんだろうよ。

止めて自分が怪我するのも馬鹿馬鹿しいし、好きにやってろ、と。


殴り合いは全員が疲れ切って気絶するまで続いた。


◆


気絶から目が覚め、ようやく起き上がった「草原の暴れん坊」代表。

顔は腫れ上がっているし身体のあちこちが痛いが、依頼は受けねば。

寝転がっていたいのを我慢しつつ受付へ向かうのだが。


「その依頼は先程別のご一行が受注されましたけど?」


の一言にその場で崩れ落ちる事となる。


殴り殴られ損である。

だいたいまだ依頼主と顔合わせすらしていなかったのだ。

別の誰かに奪われるのは当然の結果だった。

限定商品、たいてい争いの種。

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