拳で語る人々
冒険者は別に、道理の通じない荒くれ物の集団という訳ではない。
とは言え会話の流れによっては相手と険悪になる場合だってある。
今回二組の冒険者一行が、依頼をどちらが受注するか口論となり、
だったら代表者をそれぞれ出して腕っぷしで決めようじゃないか、
となり、冒険者組合の裏手にある練習場で模擬戦を行っている。
なにぶん今回の依頼、隣町までの護衛なのだが報酬は高めなので、
こんな機会は逃したくないと下級冒険者同士が争う事になった。
どちらの一行も若手の男ばかり五名で、全員が二つ星の戦闘職。
依頼主にしても、強い冒険者の方が安心して任せられるだろう。
「地平線の向こう側」代表はくすんだ茶髪の手斧使い。
「草原の暴れん坊」代表はやや薄い金髪の小剣使い。
武器を構えているが、どちらも見た目は迫力など感じられない。
「双方、準備はいいな?では、始め!」
練習場にいた指導員が臨時の審判を行い、開始の合図を出した。
同時に相手へ駆け出す手斧使い。小剣使いは盾を構える。
手斧使いは斧ではなく自分の盾を前に出し、相手の盾をはじく。
はじかれた小剣使いはそれに逆らわず横へ跳躍して身を屈めた。
追撃を仕掛けようとした手斧使い、相手の位置を見損ない、
斧は空を切る。そこへすかさず小剣使いが盾で突進をかけた。
盾で横から強打された手斧使いはたたらを踏み、
姿勢を整える前に目前へ小剣が突き付けられる。
「そこまで!この勝負は『草原の暴れん坊』代表の勝利!」
戦闘時間はごくわずか。だが決着はついた。悔しがる手斧使い。
見守っていた残りの「草原の暴れん坊」は歓声をあげる。
「地平線の向こう側」一行は去るかと思いきや、
「いや、一戦やって負けても、俺達が弱いとは限らないだろ!」
等と言い出し始めた。まあ言いたい事は分からないでもない。
五名対五名で戦った場合、結果が逆転する事もあり得なくはない。
だが最初の取り決めは取り決めだ。蒸し返すのは少し違うだろう。
「草原の暴れん坊」一行は冷笑で応じ、こう言い放つ。
「ほーお。もし次やってまた負けたら、今度はどう言い訳を?
『武器が悪かった』か?『疲れていたから』か?
それとも『全力でやってなかった』か?
何を言おうと負けたんだよ、そちらさんはさ。
みっともないねえ、力も頭も弱い連中って」
言い放った者は言葉を最後まで言い切れなかった。
途中で「地平線の向こう側」一行が殴りかかってきたからだ。
当然「草原の暴れん坊」一行も黙って殴られてはおらず加勢する。
奇しくも五名対五名の戦闘が開始される。
審判をやった指導員は、やれやれとため息をついて放置する。
武器を振り回したりはしていないんだ、死んだりはせんだろうよ。
止めて自分が怪我するのも馬鹿馬鹿しいし、好きにやってろ、と。
殴り合いは全員が疲れ切って気絶するまで続いた。
◆
気絶から目が覚め、ようやく起き上がった「草原の暴れん坊」代表。
顔は腫れ上がっているし身体のあちこちが痛いが、依頼は受けねば。
寝転がっていたいのを我慢しつつ受付へ向かうのだが。
「その依頼は先程別のご一行が受注されましたけど?」
の一言にその場で崩れ落ちる事となる。
殴り殴られ損である。
だいたいまだ依頼主と顔合わせすらしていなかったのだ。
別の誰かに奪われるのは当然の結果だった。
限定商品、たいてい争いの種。




