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才色兼備で文武両道のはずが、気づけば悪役令嬢の席に座っていました  作者: 渚月(なづき)
第2章

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第18話 最後の証人

セレナの書簡が届いた翌日、わたしはカイとヴェルナーに連絡を取り、告発の段取りを詰めた。


場所は王都のヴァイス商会本店。商会の理事会という正式な場で、ドルーク家の不正を告発する。


証拠資料の提出と、セレナの証言。すべてを一度に出す。


ヴェルナーが理事会の招集を手配し、カイとわたしは証拠資料の最終確認に入った。


資料は三部構成にした。第一部が貸付記録──父への高利の融資がドルーク家の当主の出資先であること。


第二部が売却記録──領地の競売が操作されていたこと。第三部が人事の繋がり──売却を管理した役人がドルーク家の推薦であること。


事実を、順番に、淡々と並べる。感情は入れない。


証拠が語る。それがわたしの方法だ。


感情は入れない。証拠が語る。


それがわたしの方法だ。前世の報告書作成の経験がここで生きる。


結論を先に示し、根拠を順番に提示し、反論を想定して先回りする。構成力は前世で叩き込まれたものだ。


資料は三部構成にした。第一部が貸付記録──父への高利の融資がドルーク家の当主の出資先であること。


第二部が売却記録──領地の競売が操作されていたこと。第三部が人事の繋がり──売却を管理した役人がドルーク家の推薦であること。


事実を、順番に、淡々と並べる。感情は入れない。


証拠が語る。それがわたしの方法だ。


出発の前夜、マルタの宿で最後の夜を過ごした。


「また王都かい。忙しいね」


「今度が、最後の勝負です」


マルタは鍋を火からおろしながら、わたしを見た。


「勝てるのかい」


「分かりません。でも、やります」


マルタは頷き、いつもより少しだけ多めにスープをよそってくれた。


「食べな。腹が減っては戦はできないよ」


その夜、マルタが旅支度の革鞄に、干し肉と保存パンを詰めてくれていた。中に小さな紙片が入っていた。


『負けるな。帰っておいで』


マルタの字は大きくて、少し歪んでいる。だけど今まで見たどんな文字より、力強かった。


紙片を胸ポケットにしまった。お守りのように。


マルタの字は大きくて、少し歪んでいる。だけど今まで見たどんな文字より、力強かった。



王都。ヴァイス商会本店。理事会の間。


長いテーブルの周りに、商会の理事たちが着席している。グレイル監査部長、ヴェルナー、そして各支所の代表。


そして──ドルーク家のセレナが、出資者代理として席についていた。表情は読めない。穏やかな仮面の下に、何を秘めているのか。


カイがわたしの隣に座った。机の下で、小さく頷いてくれた。


その一つの頷きが、どれほど心強かったか。一人ではない。


ここまで来られたのは、わたし一人の力ではない。品書きを書いた夜からずっと、誰かがそばにいてくれた。


品書きを書いた夜からずっと、誰かがそばにいてくれた。マルタが毛布を出してくれた夜。


カイが冷たい布を渡してくれた朝。ヴェルナーが手を差し伸べてくれた小部屋。


セレナが勇気を出してくれた庭。すべての瞬間が、この席に座るわたしを作っている。


深く息を吸った。ここがゴールではない。


ここは、新しい始まりの場所だ。没落貴族の令嬢が、自分の力で正義を通す。


それは物語のようだけれど、わたしにとっては現実だ。一歩ずつ積み上げてきた現実。品書きから始まった、長い長い道のりの、一つの頂上。


ヴェルナーが口を開いた。


「本日は、商会の運営に関わる重大な案件について報告がある。リンデ支所のレティシア・グランヴェールに発言を許可したい」


わたしの本名が、理事たちの間にざわめきを起こした。グランヴェール──没落貴族の名前を知っている者もいるだろう。


立ち上がった。足が震えていないことを確認する。深く息を吸う。


「ご出席の皆様。わたしはレティシア・グランヴェールと申します。本日は、ドルーク家の当主アルベルト・ドルーク氏による、不正行為についてご報告申し上げます」


室内が静まり返った。


わたしは資料を配り、一つずつ説明していった。貸付の構造。


競売の操作。人事の繋がり。すべて事実を並べ、推測には「推測である」と明記した。


理事たちの顔が、説明が進むにつれて変わっていく。驚き、困惑、そして──怒り。


商会の出資者が、その立場を利用して私的な収奪を行っていた。商会の信用に関わる問題だ。


報告の最後に、わたしは言った。


声は震えていなかった。最初の一言を発するまでは不安だったが、話し始めると落ち着いた。


事実を並べる。推測には「推測である」と明記する。前世で学んだ報告の技術が、ここで生きている。


最初の一言を発するまでは不安だったが、話し始めると落ち着いた。理事たちの目を一人ずつ見ながら、事実を並べていく。


前世の企画プレゼンを思い出す。相手の反応を見ながら、話す速度と声のトーンを調節する。


「以上が証拠資料です。そして──本件について、ドルーク家の内部を知る方からの証言があります」


全員の視線がセレナに向いた。


セレナは数秒、目を閉じていた。それから静かに立ち上がった。


「わたしはセレナ・ドルーク。叔父アルベルトの姪です。──レティシアさんの報告は、すべて事実です」


室内がどよめいた。


「叔父はグランヴェール家の領地を手に入れるために、意図的に借金を膨らませ、競売を操作しました。わたしはそれを叔父自身の口から聞いています。「小さな家を潰すなど造作もない」と」


セレナの声は震えていなかった。だが、握りしめた手の甲が白くなっていた。


理事たちの間で激しい議論が始まった。グレイルが詳細な質問を投げ、ヴェルナーが補足する。カイはわたしの隣で、静かに状況を見守っていた。


二時間に及ぶ議論の末、理事会は決議を出した。


ドルーク家の当主アルベルト・ドルークに対する出資契約の停止と、正式な調査の開始。そして、グランヴェール家の旧領地の売却に関する法的措置の検討。


淡々とした決議だった。だが、その一語一語が、わたしの中で静かに響いていた。


派手な勝利ではない。拍手も歓声もない。


ただ、正しい手続きによって、正しい結論が出された。それだけ。だけどそれが、わたしが最も望んでいた形だった。


それだけ。だけどそれが、わたしが最も望んでいた形だった。


派手なざまあでも、劇的な逆転でもない。淡々と、事実が事実として認められた。それが一番、強い。


理事会が終わった後、廊下でセレナとすれ違った。セレナの目は赤く、泣いた跡があった。


だが表情は毅然としていた。わたしは立ち止まり、軽く頭を下げた。


セレナも頭を下げた。言葉は交わさなかった。


だけど、あの一瞬の視線の交差に、すべてが込められていた。「やり遂げたね」と、「あなたも」と。


──やっと、ここまで来た。

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