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転生ヒロインは闇落ち聖女を救いたい  作者: そらのたまご


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02


 リリアは目の前にそびえたつ講堂を見上げて、ごくりと唾を飲んだ。


 今日は王立学園の入学式。

 ついにゲーム本編が開始する日だ。


 リリアは記憶を取り戻したあの日から今日まで、そりゃもうめちゃくちゃ頑張った。

 光属性の強化に全ての余力をつぎ込むほどには頑張った。


 だって平民に、貴族が通う学園レベルの勉強やら礼儀作法やらを習えるコネも金もない。

 あるのは体力と根性くらいのものだ。


 色々考えてみたが実際に出来ることが限られていたので、その出来ることである能力強化に費やしてみた。

 お陰でリリアの能力レベルは入学前にして82ある。

 前世の記憶によるとラスボス魔女を打ち倒せる最低レベルは55らしいが、それは検証マニアが何十回とトライして3回に1回勝てるラインなんだとか。


(いやいや3回に2回死んでるじゃん。現実は生き返ってやり直しなんてできないから!)

 

 そんなわけで、まずは対等に戦える公式レベルの70を目指した。

 到達した後も安全マージンの確保のため、同時進行で最速で無力化する方法を模索しながらレベルを上げ続けた結果が82なら、なかなかいい感じではないかしら。

 攻略対象者たちの助けもなく一人でここまで上げたのだから、けっこう頑張ったと思う!


 そうして先月、ゲーム内容をなぞる形で光属性を周囲に公開して保護された。

 ぶっちゃけ光属性のことを公表するタイミングは、かなり迷った。

 でも自由に特訓したい気持ちを優先し、両親など親しいごく一部の人にだけは光属性のことを伝えて、他には秘密にしてきた。


 ゲームのシナリオをなぞったのは、大型馬車の事故をきっかけに能力に目覚め、被害者を助けるといった内容だったからだ。

 ここを無視するのは違う。

 私がやりたかったことと真逆になる。

 助けるために力を蓄えているのに放置していては本末転倒だ。

 だからその日をタイムリミットとして、リリアは猛特訓してきた。


(……もともと少ないお淑やかさがますます目減りしている気がするのは気のせいだと信じているわ。ええ、私トシゴロノオトメよ!)


 なおゲーム知識とレベル上げに意識を向けすぎたせいか、前世のプライベートの部分はもうほぼ思い出せない。

 前世でウン年間磨いたはずの女子力はいずこへ?

 アドバンテージが活かせない悲しみに涙がこぼれそうになったのも気のせいということにしている。

 自覚あるじゃん、とかってツッコミはお断りします!


 なんだか色んなものを犠牲にした気がしなくもないが、とにかく大抵の困りごとは力づくで解決するだけの基礎能力は育てた。

 学園入学後も鍛錬は続けるつもりなので、魔女が現れても何とかなると信じるしかない。


(まずは目の前の入学式に挑み、聖女様と王子様の実物を確認しなくちゃ!)


 指定された席に着き、司会のたぶん先生の声を聞き流し、学院長の挨拶で半分意識を飛ばし、気が付けば在校生代表こと第二王子の挨拶が始まろうとしていた。


 ゲームのメイン攻略対象で第二王子のアルベルトは、大衆的な『童話の王子様』って感じの、金髪碧眼の線の細い美男子だ。

 キリっとしているのに笑顔は柔らかく、所作の端々からロイヤルオーラがにじみ出ている。


(はー、これが上流階級ってやつかー。庶民とは別世界だわ)


 画面越しに何度も見たイケメンを観察し、すぐに異変に気付いた。


 王子様は一人ではなかった。

 舞台のサイドに側近や係員が控えていることとは、当然ながら別の話だ。

 彼のすぐ後ろに、赤い髪に派手な飾りをつけた女生徒が付き従っているのだ。

 聖女の証である首飾りをつけているので、彼女も聖女なんだろうけど……ゲームで見た闇落ち聖女とは別人だ。


(え、どういうこと?! 聖女が別人とか想定外なんだけど?!)


「新入生の諸君、入学おめでとう。今この時より君たちは歴史ある当校の生徒である。先達の誉れを汚さぬよう、礼節を持ってたゆまぬ努力に励んでくれ。そして困った時は我々上級性がその手助けとなろう」


 堂々と演説する姿はさすが王族、と見ほれるほど威風堂々としており、そこここで感嘆の息が漏れた。

 半分パニックに陥るリリアなど、その他大勢の生徒の中の一人でしかない。


 この場の主役は王子と聖女と、


「だからこそ今ここで、私はある者の怠慢を指摘しなくてはならない──聖女セラフィナ! 今よりそなたを断罪する!!」


 ──もう一人の聖女。


 名指しされて静かに最前列から立ち上がったのは、薄い青の瞳と銀の髪を持つ美少女だった。

 その身の色合いは全体的に薄く、装飾品の類は聖女の首飾りを除いて一切付けていないのに、気品と華やかさをまとっている。

 最前列ならば、特権階級の新入生。


(彼女が闇落ち聖女セラフィナだわ! ……え、王子なんて言った? 断罪……今から?! まだ入学式なのに何で?!?!)


 リリアは半分パニックを超えて完全パニックへ進化した。

 なお誰にも影響はない模様。

 周囲の困惑を置き去りに王子たちの断罪劇が始まった。


「聖女セラフィナよ。そなたは以前より、自身が筆頭聖女の地位にあることを笠に着て権威を振りかざし、職務を周囲に押し付け、己は怠惰に過ごしているとの噂があったが──ついにここにいる次席聖女より告発があった。そなたの怠慢は事実であると。聖女の職務を何だと思っているのか! そのような者に筆頭を名乗らせるわけにはいかぬ。セラフィナよ、早急に筆頭聖女の座を返上するように!」


(筆頭聖女ってナニ? つまり聖女いっぱいいるってこと? いやでも闇落ち聖女はセラフィナよね?? あれぇ????)


 リリアは混乱した。

 会場は騒然とした。

 王子と次席聖女とやらは勝ち誇った。

 筆頭聖女セラフィナは──落ち着いて問いかけた。


「アルベルト殿下。わたくしが職務を放棄した事実はございません。ユーズ──そちらの次席聖女以外の証言は確認されておりますでしょうか。そもそも筆頭聖女であり、殿下の婚約者であるわたくしには護衛と監視が付けられております。異変があればすぐに教会および王家へ報告が入るので、そちらの情報も簡単に確認できるはずですが……どのような調査をされたのか、浅薄なわたくしに教えて頂けますでしょうか」


 どこまでも穏やかで優しさすら感じる声音なのに、離れた位置で聞いてるだけでもめちゃくちゃ怖かった。

 リリアは最初にセラフィナの表情が見えなくてよかった、と思った。

 真顔でも睨んでても、いっそ笑ってたとしてもきっと怖い。

 実際に正面にいた王子たちは真っ青になっていた。


「わたくしの行動は常に複数人体制で把握されておりますので、護衛騎士と結託することも不可能です。このことは周知の事実であり、婚約者である殿下は調べずとも知っていて当然だと思っておりましたが、わたくしの勘違いでしたでしょうか。聖女としての職務に加え、王族教育でいっぱいいっぱいな若輩者のわたくしでは、殿下の深慮遠謀な行いを察することが出来ず不甲斐ないですわ」


 講堂内は、立て板に水とばかりに滑らかに皮肉を浴びせる少女の独壇場だった。

 儚げな風貌なのに迫力が半端ない。

 しどろもどろな王子の説明を片っ端から一蹴していく様子に、全生徒と教師の気持ちが重なった。

 怒らせたら駄目な人だ、と。


(やっばい、この世界の闇落ち聖女めちゃくちゃメンタル強いじゃん)


 呆然と成り行きを見ていたリリアは、周囲とは微妙に異なる冷や汗を浮かべた。


 この人が闇落ちした場合ホントに勝てるんかな、が本音だ。

 能力的には準備万端にしてきたつもりだが、それ以外の部分が全く追い付けない気がする。

 清廉潔白さは極めて薄く、どうにも鋭い切れ味の刀を持っており、必要とあればそれを抜いて振り下ろすことに躊躇いがないタイプに見える。


 簡単に言うと敵にしたくないタイプ。

 ゲーム展開的には敵になる地獄。


 完全にセラフィナやり込められて萎れながら退出していくアルベルト王子の後姿を眺めた後、リリアは無力さに打ちひしがれながら天を仰がずにいられなかった。

最後まで読んでくれてありがとうございます(*'▽')

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