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全四話構成です。もともと短編で出していたものを修正しました<(_ _)>
◇
目が覚めて見慣れた自室の天井を見上げ、私はまだぼんやりする頭で懸命に現状認識に努めた。
私の名前はリリア。十歳、平民。
母におつかいを頼まれて出かけたが、考え事をしながらうっかり横道から飛び出して馬車にひかれかけたのが昨日の話。
幸い向こうの速度も遅く、馬車の側面をかすって転んだ程度だったので大きなケガはなかった。
痛かったのはぶつけた膝とお尻くらい。
それなのに翌朝になってもズキズキ頭が痛むのは、別の理由。
そう──前世の記憶を思い出したからというお約束展開のせいである!
自分が転生したことを思い出したのは、もちろん昨日の事故がきっかけだ。
前世の自分は、酔っ払い運転の車にひかれて死んだ。
今世は助かったものの、ぶつかる恐怖にフラッシュバックが起きたのは自然なことなのかもしれない。
というか間違いなくトラウマだ。
(あの運転手許すまじ……! とりあえず五回くらい、車にぶつかって死んじゃう運命の虫に転生してほしいね!)
まあそれはともかくだ。
たしかショックでぼんやりしながら無意識におつかいを済ませて帰宅し、
いつの間にか膝からダラダラ垂れてた血に驚いた母に驚き返し、
やっとケガに気付いて前世知識で反射的に破傷風怖い! と考えたら手から光が出て、
光に当たった膝のケガがすっかり消えたところでキャパオーバーで気絶したんだったかな。
そのまま翌朝まで半日ぐっすり。
でも寝てる間も記憶の整理で脳を酷使していたのか、頭が痛い。イマココ。
とはいえ事故直後よりも脳内は整理されていて、ちょっと考える余裕が出てきた。
この世界は前世やり込んだゲームの世界だ。
ファンタジー要素の強いある恋愛ゲームで、多分、自分ことリリアがヒロインであり主人公。
と思い当たって最初に思い浮かんだのが「リアルで推しに会えるのかも?!」なのは仕方ないと思うんだ。
乙女の本能です!
ちょっとソワソワしたけどすぐに思い直した。
ゲームで楽しむ分にはいいけど、現実だと創作物のストーリーってだいぶ辛かったりするんだもの。
乙女ゲーム『聖光のレガリア』
何十年に一度しか生まれない光の魔力を持つ平民の主人公は、16歳の時に王都の学園に入学することになる。
そこで攻略対象者たちと出会ったり事件を解決したり事故に巻き込まれたり冒険に出てみたり商売をしたりしながら仲良くなっていくストーリーである。
ちょっと要素過多じゃね? という意見と、飽きがなくていい! という意見に評価が真っ二つにわかれた、そこそこ人気のアプリゲームだった。
なお私は☆5付けた派。
とにかく学園編と呼ばれる前半部には、悪役聖女がでてくる。
清楚なビジュアルの聖女が裏では陰湿な悪事を……そして断罪劇によるざまぁ発動! 的なお決まりの展開になるのだが。
──これ冤罪なのである。
いわゆる性悪ヒロインの自作自演でも屑攻略者の演出でもなく、貴族の権力争いの果ての陰謀に巻き込まれただけだったのだ。
本人はいたって清廉潔白。
正しく神のいとし子としての資質を持ち合わせていた。
そんな彼女が断罪され追放された結果──闇落ちして呪いの魔女となり世界を呪い始めるのだ。
こうして後半部の救済編のラスボスが完成する。
『誰も信じてくれなかった。私ももう誰も信じない。慈悲と慈愛の心に返されるのは嘲りと蔑みばかり。こんな世界救いたくない。こんな世界壊れてしまえばいいのよ!!』
呪いの魔女となった元聖女の悲痛な叫びに涙した人は多いだろう。
あそこのムービーは傑作だった。
そこから聖女の声をあてていた声優さんにもハマったのはいい思い出だ。
いやいやそうじゃない。
つまり後編は決戦に向けてのレベル上げが中心になるのだが、なんと一連の流れの中で王都が崩壊するのだ!
(何でよ! 規模が大きすぎるわ! 凶悪さとか強敵さの演出なんだろうけど大雑把すぎない? 王都陥落したら諸外国の餌食なんですけど!?)
と、前世と今世の知識が融合した今なら感じられる。
ゲームはしょせんゲームである。
感情移入できる展開は必須だと思っていた前世では微塵も違和感なかったけど、それが今の現実となるなら話は別だ。
簡単に犠牲にしないでほしい! いやマジで、切実に!
今はまだ色々思い出したばかりで混乱しているけど、リリアとしての記憶をなくしたわけじゃない。
(今の両親も、友達も、王都崩壊に巻き込まれて死んじゃうかもしれない。イヤだ。そんなの絶対イヤだ!)
頭痛と混乱でポロポロ涙を零していると、様子を見に来た母に見つかってまた驚かせてしまった。
「リリア、リリア、どうしたの、どこか痛い? 何か怖いことでもあったの? ケガをして帰ってきたと思えば自分で治して気絶してしまったから、お母さんまだ何もわからないわ。落ち着いたら、どうしてケガをしたのか、泣きたくなったのか教えてちょうだいね。大丈夫よ、今はお母さんがついているからね。お父さんだって呼んだらすぐ帰ってくるわ」
(ちがう、心配させてしまったんだわ)
そっと抱きしめて、必死で子供の自分を守ろうとする母の姿にリリアは目が覚めた気分だった。
今の自分はまだまだ子供で。
そして愛情深い両親のことが大好きで。
それから──ゲーム本編までにはまだ時間があるのだと。
母の胸に抱かれて気が済むまで泣いた後、リリアは慎重に説明した。
接触事故のことは正直に。
泣いた理由は、思い出して怖くなったのだと半分嘘を混ぜて。
ケガを治した光のことはまだよくわからないこと。
頭が痛いのでもう少しだけ休ませてほしいこと。
母は心配そうながらも快諾し、水を置いて部屋を後にしてくれた。
一人ベッドで掛け布にくるまりながら、リリアはこれからを思案する。
まず気になるのは、なぜかゲームよりも早く光属性に目覚めてしまったが、どれくらい影響があるのかということだ。
光属性は希少なため、発見と同時に保護対象になる。
発現間隔が不明かつ能力の特殊性も他と一線を画す聖女とは異なり、常時監視付きの強制保護というわけではないが、間違いなく自由度は下がるはずだ。
(というか聖女の待遇マジでヤダ……これに強制婚約のオマケつきとか、ないわー。しかもその婚約者との交流ってほぼないんだよね)
『王命で無理やり婚約を結ばされ、必要なことだと努力して交流を重ねてきたが……どうしても彼女に愛着を抱くことができないんだ……』
それが努力に疲れ果ててしまった自分に自己嫌悪し苦悩する、聖女の元婚約者こと第二王子様の台詞である。
(いやいやそれで聖女の悪事を知ってこれ幸いと断罪したけど冤罪でしたとか、クソじゃん。苦悩したいの聖女でしょうが。そんなんだから絶望した後が闇落ち一択になるのよ)
ともあれ最大の転換期はやはり断罪からの闇落ちである。
そもそもの断罪劇を起こさないのが一番なのだが……政治的なあれこれに平民であるリリアが首をつっこめるとは思えない。
悪意のある噂とか、そういうのをそらす程度なら出来るかもしれないけど。
自分に出来る範囲で努力はするつもりだけど、一発逆転! とか決定的ななにかが出来るとも思えない。
(ならやっぱり、闇落ち後の魔女を早急に無力化するのが次善の策なのかな。 ゲームの展開とか恋愛のスパイスとか、そういう神様視点でのみ都合のいいあれこれを全部放棄して、私に都合のいい状況に捻じ曲げるしかないわね!)
私はしょせん、他より少しだけ選択肢に恵まれただけの一般人だ。
誰も傷つかず苦しまず全方位ハッピーエンドに導く、なんてカリスマ性は持ち合わせていない。
だからせめて、身の程の中で最大限あがくのだ。
考えすぎて疲れてきたのか、はたまた方針を決めて気が抜けたのか瞼が重くなる。
他にも考えるべきことはあるのだけど10歳の体は色々限界のようだ。
それでも最初に目指すと決めたことだけは、絶対に忘れてはいけない。
(大切な人たちを、守るんだ。主人公とかヒロインとかの役割は関係ない。少しでも多くの人を守れるように──まずは強くなる!)
最後まで読んでくれてありがとうございます(*'▽')
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