お願いだからフッてくれ!
「ふひひ、お、おでと付き合ってください」
「ひいっ!」
放課後の教室。
忘れ物を取りに戻って来た一人の女子高生が、涙目で窓際に追い詰められていた。
彼女に迫るのはクラスメイトの男子生徒、加賀谷 俊介。高校生男子としては標準的な背の高さだが小太りで、気持ち悪い目つきと話し方が特徴的。それに加えて清潔感どころか不清潔感を感じさせる程の身嗜みにより、女子から蛇蝎のごとく嫌われている。
「い、いや……来ないで……」
加賀谷は歩みを止めているのに、その女子はまるで飛び出して逃げるのではと思えるくらいに背中を窓に押し付けている。
告白の結果が明らかに否定的な彼女の様子に対し、加賀谷は残念に思うことは無かった。
「いい……すごくいい……」
むしろその表情は恍惚としており、それがまた気持ち悪さを倍増させていた。
「激しい怯えの中に潜む強烈な蔑みの感情がボクちんの胸に響き渡りゅう!」
「ひいい!」
両腕で自身の身体を抱き、クネクネと快楽を堪能する加賀谷の姿がトラウマレベルの気色悪さであったのか、その女子はついに教室から脱出すべく窓に手をかけようとした。
その時。
「あ~! 遅いと思ったらやっぱり捕まってた!」
「佐奈から離れなさい!」
「ああ、佐奈まで変態の毒牙に……」
佐奈と呼ばれた怯え女子の友人達が助けに来た。
女子達は教室に突入すると加賀谷を大きく迂回するように佐奈の元へと辿り着き、窓際を沿うように移動しながら彼女を加賀谷から引き離した。
「うわああああん!キモかったよおおおお!」
「よしよし、だから一緒に行こうって言ったのに」
「そうそう。変質者はいつだって一人の時を狙ってるんだから」
「早く捕まれば良いのに」
「もっと!もっと詰って!そういうのもっと頂戴!」
「「「「キモ!」」」」
女子達に変質者扱いされているにも関わらず大喜び。
つまり加賀谷はそういう特異な性癖の持ち主だったのだ。
「やっぱり警察を呼ぼうよ」
「佐奈を襲ったんだから現行犯逮捕よね」
「ちょっ、それは違う!」
とはいえ警察のお世話になることはよろしくないようで、少しだけ焦った様子だった。
「拙者は付き合って欲しいとお願いしただけでござる。それは高校生なら普通のことでござる」
そうなのだ。
加賀谷は女子を襲った訳ではなく、単に『付き合って欲しい』と告白しただけのこと。
たとえそれが断られると分かっていての行為だったとしても、激しく拒否されたいが故の奇行だったとしても、単なる告白の範囲の行為しかしていない。
強引に迫ることも、ストーキングもしていない。
警察を呼ぼうが、先生に告げ口をしようが、取り合ってはくれないだろう。
「うっわ。鳥肌立ってきた。その気持ち悪い話し方止めてくれない?」
「それもう言葉の暴力よね」
おで、ボクちん、拙者。
一人称が定まらないのは、気持ち悪く思ってくれそうな話し方を雑に織り交ぜているから。女子から合法的に詰られるための手段の一つである。
「ああっ!いいっ!さいっこう!もっと!もっと!」
「うえええ、最悪」
「こいつに何を言っても無駄よ。さっさと行こ」
「そだね。無視一択」
「放置プレイはぁはぁ」
教室に一人取り残された加賀谷は、しばらく余韻に浸っていた。
「ふぅ、気持ち良かった。しかし思ったのとは少し違ったな」
今回加賀谷が狙った佐奈と呼ばれた少女は気が弱い小動物系の性格であるため、告白したら盛大に怖がって拒絶してくるに違いない。それは真っ向からの罵倒とは違い新たな方向性の快感を与えてくれるものだと期待していたのだが、全力で喜んでいるように見えて実際は物足りなかったらしい。
「まさか彼女が小動物系のフリをした猛獣だったとは。あの怯えた感じは大分演技が混ざってたっぽいな。だから快感が薄かったんだろう」
思わぬ形でクラスメイトの本性に気付いてしまい、それはそれで扱いに困るなと苦笑する。黙ってろよと後で釘を刺されることがあるかもしれないが、別に言いふらすつもりなど全く無い。
「秘密を盾に脅して詰らせても、本気じゃなきゃ気持ち良くないからなぁ」
ゆえに加賀谷は彼女に対して今後何かアクションを起こすことは全く無いだろう。
それよりももっと大事なことがあるのだから。
「これで残るは一人」
加賀谷はとある席に視線を向けた。
クラスメイトの女子に一人ずつ告白し、その度にキモがられて快感を得る。
女子にとっては最低最悪なその狙いが、ついに終わりを迎えようとしていたのだ。
「美味しいものは最後にとっておくタイプなんだよね」
加賀谷が最後に残したのは、休み時間にいつも本を読んでいる眼鏡をかけた委員長っぽい女子生徒。
谷本 茉莉。
「谷本さんは頭も良いし、本を沢山読んでるし、語彙力が高いはず。今まで聞いたことの無いフレーズで罵倒してくれるに違いない」
想像するだけで顔のにやけが止まらない。
今の彼の姿を女子達に見せれば、望む反応を見せてくれたに違いない。
ーーーーーーーー
「谷本さん、気を付けた方が良いよ」
「そうそう。あいつ絶対に狙ってるから」
「一人にだけはならないようにね」
翌日、クラスの女子が谷本を心配して声をかけていた。
加賀谷がクラスの女子全員にアプローチしていることは当然バレていて、となると最後の一人になった彼女が狙われていることなど容易に想像がつくからだ。
「ありがとう。気を付けるわ」
谷本は心配してくれる女子達に柔らかな笑顔でお礼を告げた。
しかし全く怯えていない様子に女子達は更に心配を募らせてしまう。
「何かあったらすぐに私達や先生を呼ぶのよ」
「いっそのこと警察呼んじゃえ」
「多分、谷本さんが想像している以上にヤバいから、本当に気を付けて」
彼女達の気遣いに谷本は少し困り顔だが無下には出来ない。
「本当にありがとう。困ったらすぐに連絡するわ。でも大丈夫よ。私はいつも放課後はすぐに帰るし、休み時間もこうしてここで本を読んでいるから一人になることなんてまず無いわ。彼は校内で一人の時しか話しかけて来ないんでしょ」
ゆえに校内では絶対に一人にならないこと。
そうすればキモい告白など絶対にされないし、そもそも近づいても来ない。
それが加賀谷から身を守る最も効果的な自衛手段だった。
「でもいつまでもそうとは限らないよ」
「そうそう。痺れを切らして校内縛り止めて下校中に襲ってくるかも」
「う~ん。それだとストーカー的な感じになっちゃうから無いと思うけど……それにもしそうだったとしても私は自転車通学だから逃げるわ。なんなら防犯スプレー使っても良いし」
そこまで対策を考えているのなら、と女子達は少しは安心したようだ。
彼女にもう一度だけ念を押して、自分の席に戻って行った。
彼女達は何も分かっていなかった。
谷本は確かに対策を考えていた。
だがそれは加賀谷に対する対策ではなく、彼女を心配するクラスメイト達を安心させるための対策であったことに。
その日の放課後、谷本は一人で教室に残っていた。
クラスメイト達がしつこく心配してくれたにも関わらず。
自席に座って本を読んでいると、彼女を狙った加賀谷が何処からともなく出現し、声をかけてくる。
「た、たた、谷本ざん、少し良いかな?」
気持ち悪く聞こえるようにわざとたどたどしく話しかけてきた。
「はい、何でしょうか」
谷本は立ち上がり、そんな加賀谷に向かって真正面から向かい合った。
「?」
他の女子とは違い、気持ち悪がる様子も怯える様子も逃げるそぶりも見せない。
そのことに加賀谷は違和感を覚えたが、ひとまずいつも通り告白してみることにした。
「おお、おでと、付き合ってください」
加賀谷が何故こんな性癖に目覚めてしまったのか。
それは彼にとって人生最初の告白が原因だった。
『俺とつっつっきあっっっ』
『ぷっ、ダッサ』
あまりにも緊張して告白の台詞を噛んでしまったら、なんとその女子が加賀谷のことを嘲笑して来たのだ。
そこで加賀谷は気落ちするのではなく、不思議な感覚に襲われた。
それが何なのかしばらくは分からなかったけれど、その女子の蔑むような視線と台詞を思い出す度に心臓が踊り体中に電流が走ったかのような感覚に襲われる。
その感覚があまりにも衝撃的で天にも昇りそうな程に心地良く、もう一度味わいたいと願うようになった。
それが彼の目覚めである。
そしてその目覚めによる犠牲者は数多く、この日もまたカウントが一つ増えるだけのはずだったのだが。
「はい。いいですよ」
「…………え?」
なんと谷本は加賀谷の告白を受け入れたではないか。
「え?あれ?え?」
谷本は柔らかな笑顔のままで真っすぐと加賀谷を見つめている。
ネガティブな雰囲気など微塵も感じられない。
絶対にキモがられる告白が何故か成功してしまった。
あまりにも予想外の展開に加賀谷は困惑する。
「ええと、本気?」
「はい」
「……………………」
困った。
別に加賀谷は谷本と付き合いたいわけではなく、むしろ拒絶されたいのだ。
このままでは彼の目的を果たせない。
彼にとって大事なのは女子と付き合うことではなく、蔑まれることなのだから。
「ちょっとタイム! 来週!来週まで待って!」
「良いですけど?」
告白が成功したのに何故待つ必要があるのか。
そんな疑問を抱きそうなはずなのに、谷本は理由を問い質そうとしなかった。
「(来週までにもっと気持ち悪い男になるんだ!)」
そして史上最高の罵倒をされるのだと加賀谷は気合を入れた。
しかし気合を入れた所で短期間で何が出来るのだろうか。
加賀谷が導き出した結論は、ある食べ物だった。
「ポテチポテチポテチポテチポテチポテチポテーーーーッツィ!」
朝昼晩におやつにと、大量にポテチを食べまくる。
すると一体何が起きるのか。
「うし! 肌が荒れて来た!」
肌が脂でギトギトになり、顔にはいくつもの吹き出物。
これまで以上に肉付きが良くなったようにも見える。
「やっぱりポテチは大正義!」
体はこれで良いとして、態度もまた改めようと努力した。
「ぐへへ。ふひひ。にひひ」
どう笑えばもっと気持ち悪くなるかを徹底的に追求し、鏡の前で練習を繰り返す。
ここで大事なのは、やらしい視線を向けないこと。
もし向けたならばこれまで以上に気持ち悪がられはするが、性的に襲おうとしていると判断されて通報される可能性があるからだ。ゆえにあくまでも見た目の気持ち悪さだけで嫌われようと努力していた。
「よし、いける。これならいける。こんな男に告白されて気持ち悪がらない女など存在しない!」
たった一週間で風貌が格段に気持ち悪くなり、道ですれ違う女性が嫌悪感を隠そうともせずに距離を取ろうとする。それだけでポテチ三袋はいける加賀谷であった。
そしてやってきた運命の時。
放課後に再び残ってくれた谷本に対し、加賀谷は再び告白した。
「お、おでとぉ、づきあっでぐだざい」
言葉遣いを今まで以上にねっちょりとした感じに変化させる徹底ぶり。
これなら絶対に罵倒されるという確信があった。
「はい、喜んで」
「なんでぇええええええええ!?」
しかし谷本の答えは変わらなかった。
それどころか柔らかい笑みを浮かべて嬉しそうでは無いか。
「おかしいだろ!?」
「何がですか?」
「だって……もっと……ほら……こう……あるだろ!?」
「何がですか?」
「ぐああああ!」
訳が分からない展開に頭を抱えてしまう。
また一週間待ってもらうべきだろうか。
だがこれ以上何をすれば気持ち悪がってもらえるのだろうか。
谷本の気持ちが知りたい。
そうでなければ、このまま一人で何をやったとしても彼女に気持ち悪がられる気がしない。
そう考えた加賀谷は疑問に思ったことを素直に聞いてみることにした。
「ど、どうして俺なんかの告白を受ける気になってるんだ?」
「私メンクイなので」
「なんでぇええええええええ!?」
それならば猶更加賀谷はありえないだろう。
小太りで肌が荒れていて清潔感が皆無な加賀谷のメンがイケてるなんてことはなく、むしろ汚メンと呼ぶべきものだろう。
「どうして……どうして……」
「これからよろしくお願いしますね。加賀谷君」
「うう……違う……違うんだ……俺は……俺は……」
自分から告白しておいて、オッケーだったらフッてしまう。
流石にそんな最低なことは出来ないらしく、かといって彼女が出来たら他の女子に告白してフラれる快感も味わえなくなる。
このままでは加賀谷はもう最高の恥辱を味わえなくなってしまう。
絶望する加賀谷だが、彼に訪れた試練はそれだけではなかった。
「じゃあ早速今日から走りましょうか」
「え?」
気付けば谷本の笑顔の質が変化していた。
見た目は変わらないのに、有無を言わせぬプレッシャーを発していたのだ。
「た、谷本さん?」
「それと間食も禁止です。朝晩のメニューは私が考えますのでご両親にお願いしてください。お昼は私がお弁当を作ってきますのでそれを食べること」
やったね、彼女の手作り弁当だよ。
なんて喜ぶべき話なのに、加賀谷の背中には冷や汗が流れてしまう。
「毎日の肌の手入れも忘れずに。これから一緒に化粧品を買いに行きましょう。さぼらないように毎晩動画で手入れするシーンを必ず私に見せてください」
「谷本さーん、あの、一体何を言って……?」
加賀谷の困惑に対し、谷本はこれまでで一番の深い笑みを向けて答えた。
「言ったじゃないですか。私、メンクイだって。加賀谷君はちゃんとしていればかなり良い感じなので、彼女としてちょうきょ……管理します」
「!?!?!?!?」
手を出してはいけない人物に告白してしまったのだとようやく気付いた加賀谷であった。
ーーーーーーーー
「嘘、あれが加賀谷!?」
「ありえないありえないありえないありえない!」
「絶対に別人でしょ!」
若さゆえの代謝の良さ。
それが一月もかからずに加賀谷の姿を激変させた理由の一つである。
肌はまだ少しかさついてはいるけれど瑞々しさを取り戻し、吹き出物なんて完全に消え去っている。
小太りだった体型も標準まで痩せている。
表情も自然であり爽やかさすら感じられる。
服装や髪の手入れも抜群で清潔感を漂わせ、そして何よりも変わったのは話し方だった。
「加賀谷君、おはよう」
「おはよう谷本さん」
「昨日は途中から反応なかったけど寝落ち?」
「ああ、気付いたら朝だったよ。話している途中だったのに悪かったな」
「ううん、気にしないで。むしろ夜更かしは体に悪いから眠かったら言ってね」
「今度からはそうする」
あまりにも普通の会話だが、この普通の会話をこれまでしてこなかったのが加賀谷という人物だった。
だが谷本による調教の結果、加賀谷は普通の高校生としての在り方を取り戻したのである。
「アレをこんなにしちゃうなんて、谷本さんどうやったの!?」
「それより良くアレがイケメンだなんて気付いたね!?」
「くぅ~最初からこの姿で告ってくれたらなぁ……」
羨ましくはあるけれど、最低最悪の状況を己の力で覆してイケメンをゲットしたと考えると、女性陣は嫉妬することも出来なかった。最高に気持ち悪い加賀谷に戻すからイケメンにしてみせろと言われたら誰もがノーセンキューと言いたくなるほどに、当時の加賀谷のことは想像するだけで吐き気がするほどに嫌だったから。
だが昔は昔。
今、目の前には至高の宝がある。
そう考えると図々しくも自分のモノにしたくなる強欲な女子も中にはいる。
「あ、あの、加賀谷君」
教室で二人が話している所に声をかけてきたのは、谷本の直前に告白された佐奈と呼ばれた女子だった。
当時の怯えて泣いていた表情とはうってかわり、頬を染めて乙女している。
「大丈夫? こんな短期間でそんな姿になるなんて大変だったでしょ。谷本さんが無茶言ってない?」
加賀谷を心配することで己の好感度を上昇させながら、同時に谷本を下げようとする姑息なやり方だった。しかもその意図がバレないように、あくまでも自然な問いかけに聞こえるように言葉を選んでいる。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。むしろ前の方が無茶してたから」
「え?」
「好きな言葉は貰えなくなったけど、こっちの方が自然体だから楽なんだ」
加賀谷は気持ち悪い存在を作るために無茶をしていた。毎日ポテチを食べ続けていたように、キャパ以上にご飯を食べたり、身体を動かすことが好きなのになるべくしなかったり、好きな風呂に入らない日があったりと、己の普段の生活を壊していた。
それを止めたのだから、むしろ心も体も健康的になっていた。
いや、心に関しては最大の快楽であった罵倒が得られなくなり落ち込んではいるのだが。
そしてそれこそが佐奈にとって加賀谷を奪い取るための突破口の一つだった。
「で、でも加賀谷君辛そうだよ。前はあんなに活き活きしてたのに」
そこで佐奈は谷本の方をチラっと見た。
暗に彼女が加賀谷の心に負担をかけているのだと言わんばかりに。
ここで加賀谷が乗ってくれれば、自分なら罵倒してあげられると告げて心を引き寄せる。
罵倒されて喜ぶような男という点は気持ち悪いが、佐奈は谷本以上にメンクイであり中身などどうでも良いタイプなので強引にでも奪い取りたかった。
だがそれは谷本が許さない。
「そうね。そろそろご褒美をあげても良いかしら」
谷本は穏やかな笑みを浮かべると加賀谷を正面から真っすぐ見た。
そしてそのまま腕を組んで目を細める。
「薄汚い豚野郎」
「ブヒいいいいいいいいあfへpひtぱぴおえhぱfじゃjふぁ」
たった一言。
その一言だけで加賀谷が白目を剥き涎を垂らして歓喜に打ち震えていた。
大きな反応を示したのは、しばらくの間、侮辱がお預けだったからという理由もあるだろう。
だがそれよりなによりも強烈だったのが、谷本の侮辱の質の高さ。
侮辱を浴びすぎて、それがどれだけ本気の侮辱なのかを肌感覚で分かるようにすらなっていた加賀谷が大狂乱する程の本気で深い侮辱。
態度から、視線から、ほんの僅かなセリフの強弱から、何もかもが加賀谷にとって最高レベルの侮辱として成立していた。
メンクイだからこそ、汚らわしい頃の加賀谷について、谷本は内心で本気で嫌だったのだろう。そして今も侮辱を求める内面やその反応が嫌で嫌でたまらない。その想いをドストレートにぶつけて来たのだ。
加賀谷が大喜びするのも当然だった。
「もう一回!もう一回お願いブヒいいい!」
「ふふ、どうしようかしら」
「そこをなんとか!」
「もっと良い男になったら考えてあげるわ」
「がんばりゅうううう!」
残念ながら加賀谷の調教は完成に近づいていた。
あるいは、今日この時に完成してしまったのかもしれない。
「くっ……」
佐奈が入り込む隙など全く無くなってしまっていた。
佐奈はクラスメイト達に背を向けているのを良いことに、感情を隠さず歯を食いしばって悔しそうにしている。
その悔しさは単に加賀谷を奪えなかったからだけでは無い。
佐奈の横取り狙いを逆用して、二人の関係をより強固にされてしまったから。
谷本の方が上手だと格付けされてしまったから。
「じゃあ次は私服のセンスを磨きましょう」
「おう!」
このまま恥辱の言葉から距離を取らせることで、やがて加賀谷はその喜びを忘れる時が来るのだろう。そしてその時こそ、谷本が理想の男性をゲットしたことになるに違いない。
その時果たして加賀谷が幸せなのかどうか、それは誰にも分からない。




