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霧崎小春の花影  作者: 椄瀬結


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84/98

人と人 四

「さて次に魔女捕縛作戦を指揮している紬師の霧崎那由からの条件を言うぞ」

「は、はいッ」


 猫背になり掛けていた小春の背筋が伸びる。

 普段の訓練として毅然と立ちはだかる師、紬師の那由が目の前に現れた。

 何度も投げ飛ばされ、指導されてきた体はこの声色を覚えているようで腹に力が入る。


「夜の魔女と対峙を許すのは明日の明朝までだ。自分で何とかしたいなら今日中に終わらせろ。今は深夜2時だから十分有余はある」

「でもお母さん、相手は夜の魔女だよ。ここから魔女を探して向かうってなったから夜の戦闘は避けられない」

「不利だって言いたいだろうが、これでも最大の譲歩だ。白夜軍は早急に確実に夜の魔女を捕まえなくちゃならない。なら当然作戦を行うのは日の出と共に行う必要がある。これが呑めないなら今すぐに八虎と透と一緒にイギリスに向かえ」


 那由の言い分は至極真っ当だった。

 ただの見習生に夜の魔女と対峙するだけの時間を与えてもらっている時点でかなり優遇されているのだ。

 これ以上小春から文句を言っても仕方ないどころか、やっぱりイギリスに行けなんて言われかねない。

 那由が母親で今回の作戦の指揮を執っている立場にあるからこそ。

 となれば迷っている暇はない。行動すべく小春は膝に置いていた茶碗を机に置いた。


「全部終わらせて連絡する」

「おう。待ってるからな」

「小春、必ず生きて帰ってきなさい。必ずだからな」

「…任せて、お父さん」


 不安そうに見つめる透に小春は人差し指と中指を立ててVサインを作る。これで透が安心するとは思えないが気休めにはなるだろう、多分。少なくとも両親の後ろにいる八虎は親指を立てて笑っているから大丈夫だ。

 小春はそのまま禄士郎の手を取り、共に部屋を出る。

 急な接触に呆気を取られたのか、禄士郎は戸惑いの声しかあげていない。


「小春、もうちょっと那由さんたちと話したほうが」

「話は終わりました。色んな意味で私には時間がないのでとっとと終わらせましょう」

「え、何、終わらせるって」


 小春は眠っていた部屋のベットに禄士郎を座らせた。

 逃げられないように右足をベットに乗せる。いつの間にかズボンを履かされていたので、肌着が見えることもおみ足が見えることもない。

 そして腕を組み、目を見開いたままの禄士郎を見下ろした。

 

「禄士郎様、異国の少年に言われた『偶像崇拝』をきにしていらっしゃいますね?」

「それは…。それよりもまずは足を下ろそう?ね?」

「嫌です、絶対に逃げられるので。もし私に背を向けるのであれば今後禄士郎様の武器を紡ぐこともありませんし、魔女の元へも一人で向かいます」

「…じゃあ逃げられないね」


 諦めたのか、禄士郎は力なく両手を小さく挙げた。

 小春は息を吐き、右足を下ろす。だが腕は組んだまま、禄士郎の前で仁王立ちした。

 禄士郎のことをゆっくり知っていこう。互いの歩幅をゆっくり合わせていけばいいなんて思っていたが、そうもいってられなくなった。


「今の私に死ぬ可能性があるなら持っていく後悔は少なくしておきたいんです。その一つが貴方です、禄士郎様。なーんで私の言葉じゃなくて、どことも知れない馬の骨の言葉に悩まされているんですか!悩むなら私のことで悩んでください!」

「………へ?」

「確かに私に関することでしょうけどなんでよりによってアイツなんですか!それに今までに見たことないくらい悩むってことは心当たりがあるからじゃないですか!禄士郎様、噓を吐いたり隠したりするのが得意なくせに何で今回はずっと引っかかってるんですか!」

「え、え?ん?ちょっと待って小春、それだと」

「そうですよ、輪廻の糸に禄士郎様との記憶が刻み付けられるくらいに私は貴方のことを想っているんです!本当はゆっくり禄士郎様を知れたらなんて思っていましたけど、私以外の人間にうつつ抜かされるくらいなら全部私に聞かせてください。あなたと共にいられる席をください」


 呼吸が浅い。頬で肉が焼けてしまうくらいには熱い。今なら心臓の鼓動を聞かせてやれるくらいに小春は覚悟が決まっていた。

 透の笑顔を見たとき、小春は死ぬかもしれかもしれない可能性が近くにあることを改めて実感したのだ。

 行き急いでいると言われても反論はできない。死ぬ可能性のほうが低いと言われても理解することはできる。

 だが本当に死んでしまったら禄士郎に想いのありったけを伝えることもできない。

 それこそが大きな後悔になり、禄士郎の幸せさえも願えない化け物になってしまう。

 そんな小春の熱量が伝わったのか、禄士郎は苦しそうに笑った。


「…もう分かったよ。全部話すよ。その上でもう一度言えるか考えてよ」

「何が言いたいんですか」

「話を聞いたうえでもう一度言ってよ。共にいられる席がほしいって」


 部屋に時計の針の音だけが響く。月はまだ夜空に浮かんでいる。

 小春と禄士郎の夜はまだまだ長く続くようだ。


ちなみにレイチェル、異母兄弟の中では一番日本文化に詳しいです。

ですがロヴィンと過ごした時間は短いので異母兄弟の中で一番ロヴィンに冷たいのもレイチェルです。

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