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霧崎小春の花影  作者: 椄瀬結


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兵士であること、戦士であること 五


「千子さん、状況は境の時とは異なります。ここには灼司や凉斗はいません。あの時のように我儘を言えばここに置いていきます」

「…ええ、大人しくここに収まっているわ。私の気のせいかもしれないけど…小春さん、境で会った時より変わったわね」

「それは悪い意味ですか?」


 すると千子は小春を見上げて苦笑を零した。


「両方よ。悪い意味も良い意味も含んでいるわ。より兵士らしくなったけど、ただの兵士じゃなくて…そうね、『戦士』って感じ」

「二つとも結局戦う者じゃないですか。どう違うんですか?」

「んー、説明が難しいわね。私が思うに背負う物が違うって感じ」


 そして千子は柔らかく笑い、小春を見上げた。

 小人となり、瞳も物理的に縮小してもその力強さは健在していた。


「だから貴女はもっと本を読んで、たくさんの人と関わり合い、会話をしなさいな。そうすれば私の言いたいことも分かるってものよ」

「…」

「もちろん、子供もね。子供は面白いわよ〜、見ているものがまるで違うんだから」

「痛いとこ突かないでください。それでも大人ですか」

「大人だから言うのぉ〜」


 話していると忘れがちになってしまうが千子は二十三歳で婚約者がいる。小春よりもよっぽど大人で人生の酸いも甘いも先に経験している。

 態度や言動は褒められたものではないかもしれないが、小春にとって目標にすべき大人の一人だ。

 だからこそ、この状況から一刻も早く逃げ出さないといけない。

 小春は頭を切り替え、わざとらしく咳払いをした。ここにいる守るべき人たちの注目を集めるためだ。


「第一に三人は私の言うことを必ず守ってください。逃げろと言ったら逃げる。来るなと言ったら近づかない。走れと言ったら走る。いいですね?」


 三人はそれぞれ真剣な顔で頷いた。

 呑気に会話をしているがここは敵の拠点の中。これから探索するとはいえど何があるか分からない。

 何かあった時、この中で真っ先に盾になるべきなのは小春だ。

 だからこそ無駄死にや全滅なんてことは起きてほしくはない。

 恵と幸奈、千子、それぞれに会わなくちゃいけない大切な人がいるのだから。


 (背負う物、ねぇ…)


 小春は自身で背負っているものを理解しているとは言えない。

 死なないように。大切な人達を守る。ただそれだけでしかないと言うのに。

 それならよっぽど禄士郎が背負っている物が大きい。

 到底、小春には背負えないものだ。


「それでは行きましょう」


 小春は扉を慎重に開け、開けた隙間から周りの様子を確認する。

 そこには一切の静寂しかなかった。田園に囲まれた館なのに鳥の鳴き声すら聞こえない。

 そこから小春達は部屋を出て一つ一つ、部屋を探索していく。

 当然のことだが小春達よりもこの館で暮らしていた恵達の方が詳しい。

 部屋に入る度に丁寧に部屋の説明をしてくれる。二人も暇な時は館の探索をしていたようだ。

 探索を初めて三十分程経ち、四人の腹にいた虫が鳴き声を上げた。静寂の館にはよく響く。


「そういえば昼餉時だったわね。ねえ、台所に行きましょうよ」


 千子の提案に小春達は素直に賛成を唱えた。

 小春に関してはここに来るまでに深琴と戦っていたので休息を取りたかった。

 台所は地下にあるようで恵達の案内で地下へ続く階段を下りる。


「恵さん、あの魔女が今何をしてるのか知っていますか?」

「え?アーベン?今はヴァルプルギスの準備してるはず。あ、してるはずです。」


 恵は敬語には慣れていないようだ。無理もない。

 それよりも八虎と共に魔女の事を調べておいて良かったと小春は心底思う。

 アーベンが言っていたパーティとはこの事だろう。

 翻訳した内容にはヴァルプルギスについても書かれていた。

 行うにしては季節外れであり、何より行う目的が分からない。


 (まあ、あのお花畑の頭なら目的なんてないのかもしれないけど)


 パーティというからには恐らく他の魔女もどきもやってくるのだろう。

 ただそれだけでも充分危険だ。これから行われるヴァルプルギスは言い換えてしまえばテロ集団の集会だ。

 魔女もどきの襲撃が激化している今、そんな集会に白夜軍の軍服を着た小春が飛び込むのは死にに行くようなもの。

 何としてでもここから逃げ出し、かの子に報告すべきだ。


「めぐねえね、果物しかないよ!」

「もしかしたらパーティの為に果物しかないのかも。いつもなら握り飯とかあるのに」


 冷蔵庫を開けたり、戸棚を開けて恵達が食べ物を探すが出てくるのは林檎などの果物やクッキー缶だけだった。

 恵達は腹が減って我慢ができないのか、林檎に齧ろうとした。

 だが小春はそれを止め、戸棚から出てきたナイフで皮を切り落として三人分に切り分けた。

 三人分と言っても一人は小人なので欠片で充分だった。

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