兵士であること、戦士であること 四
そういうこともあるか。小春は納得しながらまた妹達を見る。
あまり期待はできないが妹達にアーベンやウルシュのことを聞くのも手だろう。
小春は二人から距離空け、尚且つ腰を低くする。
まずどこから話そうか。深琴との関係からか、それとも白夜軍の見習生と言うことから話すべきか。
悩めば悩むほど小春の眉間には皺が寄っていく。
「小春さん、そんなに警戒しなくてもこの子達は何もしないわよ?」
「いや…そう、だと思うんですけど…その、どこからどう話せばいいかと…」
「だったらこっちに来なさいな。ごめんなさいね、二人とも。あの子は深琴さんの後輩なの。悪い子では無いんだけどすごく不器用で」
「だ…やかましいですよ」
いつもなら黙れなどと言ってしまうが今回は幼子の前だ。小春は一度言葉を呑み込み、口に出してもいい言葉に置き換えた。
そのまま腰を低くしたまま、小春は口を開いた。
「初めまして、私は白夜軍見習生の霧崎小春です。私のことは霧崎と呼んでください。それから千子さんの言う通り、私は深琴先輩の後輩…えっと知り合いです」
「あの霧崎さん…お姉ちゃんはどこにいるか知ってますか?すぐ帰ってくるって言ったのに」
喉に言葉が詰まる。どう答えるべきか。
嵐丸の手によって白夜軍で保護されるが魔女もどきであることに変わりはない。
頼れる相手である深琴がいない今、無闇に二人を不安にさせるのは得策ではないだろう。
それは一連の流れを見ていた千子も同意見らしい。小春を見る瞳がそう言っているようだった。
「現在白夜軍で保護しています。その先輩が出かけた先で大規模事故がありましたので。お姉さんは大丈夫です。少し時間はかかりますがちゃんと会えます」
「そう、なんだ…」
「ですから先輩に会うためにもこの館から出なくてはなりません。えっと、その、名前は…」
「私は箕原恵。この子は幸奈、です。ほら幸奈も挨拶して」
恵は後ろに隠れていた幸奈を促し、挨拶をさせた。
挨拶といっても小さな声で幸奈です、と言われただけだが。
だが今はそれで十分だ。そして小春も小さく頭を下げて話を続けた。
「この館の構造、いやあの門から外に出ることはできますか?」
「できるけど私たちにはできない。だって私たちは魔女じゃないから」
「つまり魔女じゃないと外の世界に行けないのですか?」
「アーベンさんはそう言ってた、です」
アーベンはここを裏口世界と言い、魔女だけが訪れることができると言った。それは本当でつけ加えるならこの世界に連れてこられた人間は自分の力で帰ることはできない。
それは小春も例外ではないはずだ。だからこの部屋に鍵を掛けて閉じ込める必要もないと判断されたのだろう。
大人しくアーベンの指示に従い、助けを待つのもありだが…。
(そもそも助けがくる保証がない。禄士郎様達を信じていないと言うわけじゃないけど、やれることはやっておきたいし…手ぶらでも帰れないよなぁ、これ)
脳裏にかの子と響介のあの素敵な笑みが浮かぶ。
命大事がモットーの小春だが魔女にいいようにされて帰った方が怖い。
小春は千子を胸ポケットに入れ、二人から背を向けた。
「え、小春さん!?私をポケットに入れてどうするの!?」
「館の探索です。この部屋に千子さんを残して行動はできません。ポケットにいてもらう方が守りやすいですし」
「待って待って!だったらあの子達も連れていきましょうよ!ここにあの子達だけでは危ないわよ!」
千子の言う通りではあるがあまりにも小春の負担が大きい。
探索が終わり次第、二人を回収して逃げようと考えていたが探索している間に殺されていたなんてことが起きれば目覚めも悪い。
振り返るとまた不安げに揺れる瞳が小春を捉えていた。
小春は眉間の皺を無理やり伸ばす。
「命の保障はできません。ここで待つ方が安全です」
「…一緒に行ったらお姉ちゃんに会えますか?」
「私は命の保障はできないと言いました。それを覆す気はありません。それでも私と行きたいのであれば止めません」
幼子に酷な選択を与えていることは自覚している。
深琴のような強さも優しさも持ち合わせていない。これも小春は自覚している。
小春が与えた選択肢に千子は異を唱えると思われたが、当の本人は苦々しい表情で黙って二人を見つめている。
恵は下唇を噛み、震える手で幸奈の手を握った。
「やっぱりこのままじゃだめなんだ…」
「めぐねえね?」
「幸奈、今度は私達でお姉ちゃんを迎えに行こう」
「でもねえねはここで待っててって言ったよ?」
「そうだけど…でもいつまでも私達、お姉ちゃんに守ってもらうままじゃだめなんだよ。私達もねえねのように強くならなくちゃ」
「う、うん…?じゃあ、ねえねを迎えに行くの?幸奈も一緒に行くの?」
幸奈は恵の言葉の意味がいまいち分かっていないようだ。
だが恵の覚悟は伝わったようで分からないながらも恵の手を握り返して深く頷いた。
容姿は深琴に似ていないと思ったが性格は深琴とよく似ている。特に覚悟を決めた時の瞳なんか。
(将来有望だな、これは)
そんな二人とは反対に胸ポケットから見守っていた千子の顔はどうにも浮かない。
千子なら二人がどういう選択を選んでも浮かない顔しなさそうだが。
丁度いいと小春は小さく咳払いをして千子に小声で呼びかけた。




