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霧崎小春の花影  作者: 椄瀬結


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兵士であること、戦士であること 三


銀座の路地の一角にあった何の変哲もない扉を通ると、見知らぬ館が視界に映る。

 どうやらここがアーベン達の住処らしい。

 館の外は田園が広がり、夕暮れの中で吹く風が草花を揺らす。

 だが人が一切見当たらない。まったく小春が知らない場所のような。


「ここは裏口世界。私たち魔女だけが訪れることができる世界なの」

「どうりでテメェが見つけられなかったわけか」

「私の事嫌いって分かるけど、乱暴な言葉達だわ。せめてテメェはやめてくださる?」

「は?」


 振り返ったアーベンは頬を膨らませて小春の言葉遣いに文句を零す。

 この魔女は本当に自分が嫌われている自覚があるのだろうか。

 どうにもこの砂糖菓子のような甘ったるい態度と考え方に虫唾が走ってしまう。

 するとウルシュも振り返り、小春に向かって首を振った。


「師匠は一度言ったらずっと言ってきますよ。なので自分のためにもテメェはやめたほうがいいかと」

「なら『お前』。それ以外は無理」


 即決だった。アーベンの名前を呼ぶ気もなければ敬語を使う気もない。

 『お前』が小春の中での譲歩だ。

 それを聞いたアーベンはそれでも不服そうだったがお互いにおれないことを悟ったようで、それでいいわ、とため息をついた。


 (さっきから何なんだ、この魔女は)


 アーベンから視線を外し、館の中を見渡す。

 廊下は長く、大理石でできた床を歩くたびに小春の靴の踵が鳴る。館内は広いのに物寂しく生活感がない。

 ここに深琴も訪れたのだろうか。


「今から霧崎さんに案内する部屋は元々深琴さんが使っていた部屋です。今は妹さん達が深琴さんの帰りを待っています」

「は…?待っている?」

「勘違いしないでください。深琴さん達は望んでここに来ました。妹さん達は人質にしてませんよ。ただ深琴さんが白夜軍に保護された今、妹さん達はあなたを大人しくさせる人質になりましたけどね」


 得体がしれないのは魔女だけではなかった。

 このウルシュという少年は賢く、そしてどこまで何を知り、何を考えているのか分からない。

 小春と深琴が知り合いだと知っていての発言なのか、一般市民を守る白夜軍兵士に対しての脅しなのか。

 ウルシュの無表情や仕草から何も感じられない。ただ仕事をしている、そんな風にも見える。

 そして小春はあることを思い出した。さっきまで戦い、腹を割った深琴の腕に腕輪型ニシキが着けられていたことを。


「ここに深琴先輩が住んでいたなら私のニシキを壊す必要なかったのではないでしょうか、ウルシュさん。先輩の着けていたニシキは軍から支給されたものでしたけど」

「あー、それもそうでしたね。でも深琴さんがここに来たのは師匠の()()()()()()()()でしたから。だから追尾機能だけ外しました。あなたと違って深琴さんは外部に連絡を取る気は全くなかったみたいですし」

「随分、徹底してますね。ニシキ、高いんですよ」

「壊したこと怒ってるんですか?霧崎さんも師匠とお友達になるんでしたら弁償しますよ。師匠のお友達になる気あります?」

「………無理」

「じゃあ、弁償は無しで」


 それだけ言うとウルシュは鞄から千子が詰められた瓶を小春に渡し、目の前の部屋の扉を開けた。入れということなのだろう。

 小春が部屋に入ると扉は閉まられてしまった。だが、鍵を掛けられた音はしなかった。

 瓶を抱えながら慎重に扉に近づき、ドアノブを捻ってみる。やはり鍵はかかってない。魔術が掛けられている感じもしない。逃げると思われていないのか。

 安全を確認した小春は机に瓶を置き、蓋を開けて瓶から千子を慎重に取り出した。


「小春さぁん!」

「千子さん、事情の説明を願います。何がどうなってこうなったんですか?」

「私だってちゃんとわかってないのよぉ…だって昨日、あの少年が現れて私をこの姿に変えたんだから!それからここに連れてこられて」

「…ウルシュはどこまで私のこと知ってるんだ。とりあえず今はここら脱出をしないと」


 ガタン。部屋に物音が響く。

 振り返るとそこには少女が二人、怯えながら小春を見ていた。

 小さな体を寄せ合い、揺らめく瞳がそこにはあった。

 そんな二人を見た小春は頬を掻きながら視線を逸らす。何を隠そう、小春は子供が苦手だ。

 どうにも接し方が分からず、距離の測り方が分からない。

 なつのようなはっきりと話したり、意思を示す子供ならまだマシだがこうして怯えられ、警戒している子供は特に苦手だった。

 しかも今は特殊な状況で相手は深琴の妹達。深琴の面影は薄いがウルシュの話からすれば彼女達が妹で間違いないはずだ。

 こちら側が一方的に知っているとなれば余計に彼女達は怯えるだろう。

 どうしたものか。小春は顎に手を当てて小さく唸る。


「小春さん、大丈夫よ。囚われていた間、彼女達に助けてもらってたの。おーい!恵ちゃん!幸奈ちゃん!」

「え、先生!?」

「先生!」


 二人に向かって千子が大きく手を振り、声を張る。

 瞬く間に二人から怯えの色が消え、小春を無視して千子の近くに駆け寄った。


 (ん?囚われていた間?)


 千子の話では昨日からこの館で囚われていたと言った。

 そして案内されたこの部屋に深琴達が生活していた。

 妹達と面識があったなら深琴とも会っていてもおかしくはない。


「千子さん、深琴先輩とは会いましたか?」

「いいえ!この子達とは偶然見つけてもらったの。だから深琴さんには会ってないわ」


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