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霧崎小春の花影  作者: 椄瀬結


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65/75

それぞれの戦場 三

 (だいぶ吹き飛んだけど、これくらい距離を稼げればいいか)


 小さく咳き込んで瓦礫山から禄士郎は起き上がる。

 建設中のビルに叩きつけられたようで真新しい部屋が半壊してしまった。

 禄士郎が叩きつけられたことでできた大穴から銀座が一望できた。

 先程までいた現場から黒煙と炎が立ち上っているのがよく見える。そして禄士郎がいる場所に向かってくる魔女もどきの姿も。


「アタシを馬鹿にする奴はみんな死ね!」

「馬鹿にされたくないならそれ相応の振る舞いをしたら?」


 鉄のように黒く硬くなった手を禄士郎は刀で受け止め、すかさず脇腹に蹴りを入れる。

 そのまま放火魔は壁に叩きつけられるが鋭い眼光は禄士郎を捉えたままだ。

 まるでその言動は幼子そのものだ。見た目の齢で言うなら禄士郎や小春よりも年上のように見えるのに。

 しかも相手は戦いにおいての素人。素人に強力な武器を与えたところで耐えられず、破滅を迎えるだけ。

 今だって放火魔の肌は能力という爆弾に蝕まれ始めている。


「クソが…先輩もお前も、何だよ…!消えてよもう!」


 返す言葉ももったいなくなってきた。

 禄士郎は楽しめると思っていたのに蓋を開けば幼稚で素人。これでは楽しめそうにもない。

 溜め息をつきながら禄士郎は放火魔の右腕を問答無用で切り落とす。

 が、放火魔は悲鳴を上げながらも切り落とされた右腕を掴んでは禄士郎に投げつけた。


「爆発!」

「意味ないよ」


 禄士郎は投げられた右腕を両断し、虚しくも両断された右腕は後方で爆発して終わった。

 起きる爆風と共に禄士郎、今いる部屋の扉に向かって刀を投げる。

 刀は扉に突き刺さり、扉の隙間から赤黒い血が滲み出した。

 目は口ほどのにものを言う。それは視線も一緒だ。


「分家か。しつこいな」


 禄士郎は突き刺さった刀を引き抜き、扉を蹴り飛ばす。

 そこには数人の男がいた。皆、一様に禄士郎を殺すための武器を所持している。

 今までは本邸の近くや一人で過ごしている時に狙われることが多かったがついに任務の最中にまで暗殺の手が伸び始めていたとは。

 任務中に分家の暗殺者が来なかったのは禄士郎が表向き白夜軍の兵士だからという理由があるから。

 兵士を意図的に殺すのは重罪で白夜軍をわざわざ敵に回そうと分家も思わなかったのだろが、もうなりふり構わなくなってきたのか。

 それとも暗殺者を雇うお金が無くなり始めているのか。

 どちらにせよ、放火魔にとどめを刺す前にさっさとこっちを終わらせた方がいいだろう。

 即座に男が持っている銃の銃口を切り落とし、首や手首を効率よく切り落とす。

 何も糸で作った武器に対抗できる武器を持ったところで使い手の能力が低ければ意味がない。その点では放火魔も分家の暗殺者達も同じことが言える。

 そしてとどめを刺そうと振り返るとそこには完全に鉄に蝕まれ、息絶えた放火魔を姫抱きした褐色肌の少年が立っていた。


「爆発」


 一秒とも経たずに放火魔の体は赤く輝き、禄士郎がいた部屋を炎で満たした。

 禄士郎の体は爆撃をくらい、壁に叩きつけれる。

 その衝撃は凄まじく全身の骨が折れたような気がした。視界が眩み、近づいてくる少年を見ることしかできない。


「いやぁ、全身爆弾は凄まじい威力ですね。紀江さんのせいで師匠の計画が潰れるところでした」

「かっ…なんっ…!」

「今はあんまり喋らないほうがいいですよ。間近で爆発を喰らって無事でもないでしょうし」


 この少年はどこから現れたのか。何者なのか。あの放火魔に何をしたのか。

 体は全く動かない。呼吸をするのもやっとの状態だ。


「師匠にはあなたを殺しておいてなんて言われましたけど、そうしちゃうと小春さんが壊れちゃうからあんまり良くないんですよね」

「なっ」

「そろそろ向こうも終わってる時間かな。それでは禄士郎さん、頑張って生きておいてください。じゃないと小春さんが壊れちゃうので」


 少年は割れた窓から飛び降りて行ってしまった。

 追いかけたくても追いかけられない。小春に危険が迫っているのだろうか。


 (ダメだ、くそッ)


 人の体は不便なもので命の危険が訪れるとどうしようもないほど強い眠気が襲ってくる。

 いくら禄士郎でも命の危機に対する生存本のには抗えない。

 禄士郎の意識は静かに幕を下ろした。

ちなみに深琴の父は白夜軍の兵士でしたが、恵の父親は教師、幸奈の父親はどこかの名家の使用人です。本編に出す予定はないのでここで出しておきます。

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