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霧崎小春の花影  作者: 椄瀬結


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第十七幕 それぞれの戦場

一週間ぶりに見た深琴の姿はいつもと違って落ち着きがあった。いつもなら動きや挙動に小動物のような庇護欲や弱々しさがあったのに。

 半壊している喫茶店の中で知らない女と佇んでいる姿は哀愁を纏った大人の女性のようだった。

 隣にいる嵐丸の顔を見ると目を見開き、今にも泣きそうな顔をしていた。


「嵐丸先輩、あの方は…」

「ああ、深琴で間違いない。信じたくなかったが地下で見つけたリストの中に彼女の妹達の名前があった。詳しいことは省くが被害者の証言を吾妻中尉に確認したところ、深琴の外見と一致する証言が複数あった」

「だとしてもなんで深琴先輩が…!」


 熱が上がっていく小春と嵐丸の後ろで禄士郎が大きく手を鳴らした。

 耳元間近で鳴らされた音に小春と嵐丸の会話が途切れ、手を鳴らした禄士郎の顔を見上げる。

 そこには苦笑いが浮かんでおり、今にもため息を吐きそうな雰囲気があった。


「二人とも落ち着きましょうよ。ここでどうこう考えるより本人に聞けばいいんですし」

「そうは言うが君ぃ…隣にいる魔女もどきがいる限り話を聞くなんて出来なさそうだぞ。ほら見たまえ、火花を散らしているんだが」

「まあ、隣にいる魔女もどきがこの現状を作ったって考えても問題ないでしょうね」


 決めつけるのは早計だろうが、深琴の隣にいる女の返り血が付いた服と顔を見るとそう考えてもおかしくはない。対して隣にいる深琴は服が綺麗なままだ。

 すると禄士郎はパチンと指を鳴らし、燃え上がる現場には似合わない笑顔を浮かべた。


「深琴先輩から事情を聞くには分断させた方がいい。なら返り血の女は俺が引き受けます」

「返…深琴を僕に任せて、君たちコンビでもう一人の魔女もどきを相手すると言うことかい?」

「いいや、相手をするのは俺だけです。現場指揮官である嵐丸先輩から俺たち二人とも離れるのはまずいでしょう」

「ちょっと待ってください、禄士郎様。何を言っているんですか」


 禄士郎の発言に小春は顔を上げて、眉を顰めた。

 何故コンビを組んでいるのか、小春はなんのために禄士郎のそばにいるのかを覆す発言をしたんだ。

 小春の言いたいことを察したのか、禄士郎は気まずそうに笑った。


「小春ほどの精度じゃないけど実は俺も武器を紡げるんだよ」


 そう言った禄士郎は心臓から糸を引き抜き、鍔のない刀を紡いだ。

 小春は石で殴られたような感覚に襲われた。

 確かに禄士郎は器用で容量もいい。だから武器を紡げるって改めて言われてもどこか納得してしまう。

 だが小春と出会う前から武器を紡げるのなら、小春が禄士郎のパートナーでいる意味は何だ?

 一歩一歩、歩み寄れば禄士郎の隣でなくても何か力になれる。ただ貰うだけの存在で終わるなんてことはなくなる。どこかでそう思っていた。

 

「なんでそれを今まで言わなかったんですか…?」

「普段、あまりこれを使うことはないから必要ないと思って」


 すると会話を聞いていた嵐丸が頭を抱えてため息を盛大に吐いた。

 嵐丸が小春の顔を見て、言ってやろうかと言わんばかりに禄士郎に向かって指をさす。

 どうやら嵐丸には小春の中で渦巻く衝撃が分かるらしい。

 だが今の禄士郎に言っても伝わらないだろう。加えて今、考えるべき相手は深琴だ。

 小春は小さく首を振り、嵐丸の顔を見直した。


「…まあ、これは君たちのことだから僕が出る幕ではないか。じゃあ禄士郎くん、彼女を深琴から引き離してくれ」

「了解しました」

「小春くん、戦闘準備を。深琴とは対話を試みるがあの子は以前と一緒だとは限らないからね」

「かしこまりました」

「それじゃあ、任務を開始しよう!」


 小春は嵐丸の掛け声と共に体に妖力の膜を纏う。

 そして禄士郎は刀を持ったまま、店へと歩みを進め、店からは深琴と女が出てくる。

 両者は距離を空けて向かい合う形となった。小春の肝の温度は急降下で冷えていく。


「たくさん人を殺した放火魔のはどちらでしょうかぁー?」


 毒でも飲んだかのように小春の腹が痛くなってきた。

 小春の隣では嵐丸が額に汗を浮かべており、顔色が悪くなっている。

 固い握手をしたかったがそんな雰囲気でもないので大人しく禄士郎の背中を見守ることに徹するしかない。

 小春はバッシキを起動させて、もしものために備えて心臓に手を当てた。


「はいはーい!アタシアタシ!すごいでしょ!」

「大変お馬鹿で助かりまぁーす!お縄につく気はありますかぁー!」

「殺す!!死ねあほんだらぁ!!」


 胃袋を石臼で挽かれているようだった。おかげで背中を伝う汗が止まらない。

 嵐丸はもう突けば死んでしまいそうなほど顔が引き攣っている。

 だが火蓋を切ってしまったなら鎮火することはできない。

 放火魔の魔女は火花を撒き散らしながら禄士郎に向かって走り出した。

 禄士郎もあえて煽るようなことを言ったのだろう。そう思いたい。何はともあれ深琴と放火魔の魔女を切り離す第一段階が達成された。

 そして放火魔の魔女は走りながら鉄棒を拾い、禄士郎に向かって振りかざす。

 禄士郎は刀で鉄棒を受け止めるが、


「おっきい爆発!」


 放火魔の魔女が弾けるように叫ぶと鉄棒は熱を持ち、強烈な爆撃となった。

 禄士郎は後方へと大きく吹き飛ばされ、建設中の高層ビルに叩きつけられる。

 放火魔の魔女もまた禄士郎を確実に殺すために自身が爆撃で起こす爆風で高層ビルへと移動して行ってしまった。

 追いかけようと足を踏み出すが、嵐丸に腕を掴まれて阻まれてしまった。


「ダメだ!彼を追いかけるな!」

「ですが私は禄士郎様の従者です!」

「今の君は白夜軍の兵士だ!任務が最優先事項、深琴の捕縛に専念したまえ!」


 小春は下唇を噛み締め、乱れた呼吸を整える。

 嵐丸の言うことは正しい。小春は禄士郎の従者ではあるが白夜軍の制服を着ている間は白夜軍の兵士だ。

 そして禄士郎は一人でも戦えると言うことを先ほど小春に証明してみせた。


 (私が行くだけ無駄、か)


 ならば今は目の前にいる大好きな深琴を助けることに専念しよう。小春にできることはそれのみだ。

 心臓から糸を引き抜き、短刀を紡ぎ上げる。隣では嵐丸もバッシキを起動させ、クロスボウを紡いでいる。


「二人はどうしてここにいるの?」

「それは深琴が一番分かっているだろう?一緒に僕達と来てくれないか?」

「無理だよ」


 一刀両断だった。深琴は黒曜石のような黒く染まった薙刀を構えて言い放つ。

 深琴は祓魔師で武器を紡げない。

 だが今はその手に薙刀が握られている。それだけの能力を一週間の間で手に入れたということ。


「魔女と契約したんですか、先輩…?」


 小春の問いかけに深琴は顔を歪めて視線を逸らした。

 どうしてだろうか、いつもの深琴なら誤魔化そうとしたり困ったように笑ったりするのに今の深琴は仮面が剥がれたように全てが顔に出ている。

 否、これが本来の深琴なのだろう。

 石母田貴美子もそうだった。誤魔化すこともせず、怒りをそのままに小春達にぶつけてきた。


「そうです。私の幸せのために」

「契約したら命を削るんですよ!」

「私の幸せは一人で完結することじゃない。お願いします、私のことは忘れて」

「妹達のために自分の犠牲がいるってかい?」


 嵐丸の言葉に深琴の瞳孔が小さく揺れ開いた。

 リストに深琴の妹達が記載されていたと言っていた。

 深琴の家族の事情は知らない。だがあのオークションで商品として売られていたとなれば深琴が世の中を見る目も変わってしまう。

 小春に守りたい人がいるように深琴にも守りたい人がいる。

 そのために深琴は魔女と契約することを選んだ。それだけのこと。

 だがその一手が悪手であり、許されるものではない。


「家族を守るために悪魔に魂を売ったんだね。どうしてそうなる前に僕に相談してくれなかったんだい?」

「…できるわけないよ」

「何故?」

「だって私、嵐丸君のことが嫌いだから」


 刹那、深琴は嵐丸に向かって薙刀を振り下ろす。

 間一髪で嵐丸は避け、小春もまた距離を空ける。まるでもう話す余地などないと言うように。

 だが深琴の拒絶を嵐丸が許さなかった。


「僕がそんな言葉で揺れるわけがないだろう!」

「こんな時にまでふざけないでよ!腹が立つ!そういうところが私は嫌いなんだよ!」

「いいや大真面目だね!もう遠慮なしに君に言ってやるとも!」

「もうさっさと死んでよ!私のために!」

「残念!僕は君のために生きるさ!」


 口喧嘩をしながら器用に互いの刃を交えている。

 おかげで小春の入る余地がない。何を見せられているのだろうか。

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