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霧崎小春の花影  作者: 椄瀬結


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56/75

第十五幕 過ぎれば毒

深琴にメッセージをどう送ろうかと悩み、一週間が経った。

 贈り物を渡したあの日から文字を打ち込んでは消してを繰り返していた。

 そして今も禄士郎との集合場所で一人、小春はホログラム画面を睨んでいる。


 (多分、私は何かやらかしたと思う…んだけど何をやらかしたかわからねぇ…)


 出てくるのは呻き声と薄っぺらい謝罪文。しかも原因が分からないため、謝罪文とも呼べない内容。

 小春はため息を吐き、ホログラムの画面を閉じる。

 街ゆく人々は人間関係に一喜一憂している小春のことなど見向きもせず、それぞれの目的地へと歩みを進めていく。

 腕時計を見ながら走る商社員、男の腕に胸を当てる赤い唇の娼婦、娼婦の思惑に鼻の下を伸ばす丸メガネの男。

 さすが銀座である。見渡す限り、似たような男女が歩いている。小春には不釣り合いな場所だ。

 何故、そんな銀座の街中で禄士郎を待っているのか。

 無論、任務である。今すぐ帰らせてほしい。


(匂いで鼻がもげそう)


 すれ違う人から漂う異国の香水の濃い匂いと自動車が巻き起こす砂煙の匂いに鼻を抑えたくなるが、それはこの銀座で生きる人々に失礼に値する。

 そう思っている小春は禄士郎がさっさと来ることを祈るしかできなかった。


「小春!おはよう!」


 呼びかけられた声を方角を見ると女性の視線を奪いながら駆けてくる禄士郎がいた。

 今日も元気に視線泥棒をしている。小春はますます帰りたくなった。


「おはようございます、禄士郎様」

「すごく帰りたい顔してる。そんなに嫌わなくてもいいんじゃない?」

「はて、何のことでしょうか」


 禄士郎と合流もしたとこで小春達は目的地に向かって歩き出す。

 当初、人通りも多い銀座なら香山の送迎でもいいんじゃないかと禄士郎から提案されたが謹んで断った。

 禄士郎ならともかく、ただの紬師見習生で一般家庭の娘が執事の送迎で現場に到着すれば銀座で巡回している警察官に見られて何を言われるか。

 そんな強い心臓を小春は持ち合わせていない。

 だから銀座の街中で禄士郎の到着を待っていたが、まさかの香山の送迎なしで来た。


「銀座の百貨店に美味しいパフェが食べられる店があるらしいから、帰りに小春と行こうと思ったんだけどなぁ」

「…」

「パフェ、美味しいらしいよ?季節の果物をたくさん使ってるんだって」

「……時間があればでお願いします」

「わかった!じゃあさっさと任務終わらせよう!」


 季節の果物を使ったパフェに小春は敵わなかった。禄士郎に弱いところを狙い撃ちされてしまった。


 (悔しい…食べたい…)


 眉を顰めながら禄士郎の後ろを歩く。

 そんな小春に気づいたのか、禄士郎は歩幅を小春と合わせて隣に並び歩き始めた。

 小春は禄士郎の行動に思わず立ち止まり、思考が止まった。

 凉斗が常識の皮を被ったバケモノと揶揄していたが、その皮も剥がれるのも時間の問題かもしれない。


「禄士郎様、確認させて下さい。私の隣に来る理由、何かありましたか?」

「え?隣で話したいから」

「…ではもう一点。従者は主人の後ろを歩くというのはご存知でしょうか?」

「知ってるよ。でも隣を歩けば小春を守りやすいし、会話もしやすい。何より小春の顔が見える!ね、一石三鳥でしょ?」


 すれ違った女性達が禄士郎の言葉に口角を上げて去っていく。

 あらあらだとか、若いわねえだとか、遠くから薄く聞こえる。勘弁してくれ、そんなんじゃないんだこれは。

 ここに響介や香山が居なくてよかった。いたら小春と禄士郎はお叱りという名の長い長い話を聞かされていたかもしれない。


「あのですね、禄士郎様…まだ時代は禄士郎様の考えに追いついていなくてですね…」

「じゃあ聞くけど、隣で歩くことと主人が前を歩くこと、小春が俺を守るにはどっちが安全性が高い?」


 正論の豪速球が飛んできた。

 世間の常識的を考えれば従者が主人の前を歩くなど有り得ない。それこそ桃坂禄士郎の品位を疑われてしまう。

 だが禄士郎の言い分も間違いではない。戦闘においては、の話になるが。

 もしも際に禄士郎が隣にいればすぐに盾になることができる。そのために小春がいるのだ。

 常識と戦闘における効率を天秤にかけた末、小春は喉の奥で擦り潰したような声が滲み出てしまった。


「………どな゙り゙でず」

「うんうん、俺も同じ考えだよ。じゃあ改めて現場にいこっか!」


 この眩しい笑顔が非常に憎い。

 小春はせめての反抗として睨むが、禄士郎にとっては可愛いものらしい。眩しさの度合いが増した。

 禄士郎の眩しさに目を焼かれながら現場へと再び歩みを進める。

 今回、指定された現場は銀座の雑居ビルにある地下オークション会場。

 地下から穢れが澱んでおり、近隣のビルへ浸蝕を始めているという通報が入ったからだ。

 穢れを野放しにすれば一般人の糸に絡みついてしまう。それは未然に阻止せねばならない。

 そして本来これは見習生ではなく、白夜軍所属兵士が対処に派遣されるのだが魔女もどきによる暴動が増えているせいで小春達が初動捜査に回されてしまっている。

 あくまでこれから行うのは本格的な調査を行う前の『初動捜査』だが、禄士郎がいるとなると話は変わってくる。


 (まだ穢れだけの状態だといいんだけど)


 穢れが澱んでいる状態であれば解くだけでほとんどは解決する。そうすればのちに訪れる白夜軍兵士が結果書を書くだけで終わる。

 解くのも紬師の役目なので小春と先に現場に赴いている先輩紬師と協力すれば任務は無事終了だ。

 だが穢れが力を増し、化け物化していれば禄士郎が喜んで大鎌を振り回すだろう。


 (戦闘は避けたいなぁ…)


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