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霧崎小春の花影  作者: 椄瀬結


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救いの共犯 三

小春は短刀を解き、妖力の膜を作って肌に纏っていく。

 化け物の中に巡る妖力を見極めていく。小春の反対側では禄士郎が穢れに染まった右腕を容赦なく切り落とした。

 苦悶の声を上げながらも化け物はまだ残っている左腕で禄士郎に襲いかかる。

 振り翳された拳は大鎌で難なく受け止められ、お返しとばかりに脚技を喰らわせた。

 禄士郎の脚技で隙ができたことによって小春の視界に穢れが滲んだ化け物の糸が現れる。


「禄士郎様、糸が見えました!」

「わかった。じゃあ、ここからは手早く終わらせようか」


 そう言った禄士郎は化け物の背後に回り込み、左腕を切り落とす。そしてそのまま力技で床に押し倒した。

 小春もまた禄士郎に抑えつけらている化け物の心臓から糸を引き抜き、穢れを取り除いていく。

 えいの時とは違い、妖力も安定しているおかげで負の感情が入って来ることはなかった。

 だが視界に現れた妖力の色に小春は小さく声を漏らす。

 なぜならヒガンがもたらした効果は穢れの活性と『妖力の覚醒』だったからだ。今、目の前の体にはヒガンの微弱な妖力の青色と化け物が本来持っていた赤色の妖力が混在していた。


 (元々妖力持ちだったのか…!)


 思わず笑みが溢れる。

 自身の妖力を限界まで使う予定ったが応急処置に使える妖力が別であるなら話は別だ。

 小春は手早く化け物の妖力を糸へと紡ぎあげ、傷口を塞いでいく。

 後方で騒いでいた東雲は小春達が行っていることがよく分かっていないようで黙っている。

 傷口を塞ぎながら小春は頭の中で状況を整理していく。

 東雲は佐久間に銃を向けられたことに尻尾切りと言った。そして佐久間は化け物を生んだのは我々だと言い、東雲に経緯を話させることでかの子も納得するだろうと言った。

 恐らく海軍内部でヒガンの売買が行われ、この化け物は海軍が所持していたヒガンを服用していたのだろう。どういうことかそれを知ったかの子に突かれ、今に至った。

 尻尾切り、つまり上官達は東雲を主犯にすることで問題を無理やり終息させようとした。


(ここにあったヒガンの行方や化け物についての調査…確かに中立の桃坂の仕事ではあるのか)


 傷口が完全に塞ぎ終わったところで小春の中で全てが腑に落ちた。

 この任務は白夜軍の仕事であり、桃坂の仕事でもあった。だから小春達が派遣されたわけだ。

 顔を上げると禄士郎が気を失っている元化け物に軍服のジャケット被せながら医療部隊に連絡を取っていた。

 あとは医療部隊に任せらればなんとかなるのだが、問題は東雲の処遇だ。

 どうするんだろう、と振り返って脂汗を流している東雲を見る。

 小春の視線に気づいた東雲は閉じていた口を再び開け、喚き始めた。よく喋る男だ。

 

「わ、私が白夜軍などに捕まるなどそんなことが許さるわけがないだろう!」


 どうにも埒が明かない。意地でも東雲は認めくないらしい。

 こういう時に学校で学んだことが活きてくる。

 小春は東雲の心臓から輪廻の糸を無理やり引き出し、紡いだ短刀の刃をピンと張り詰めた糸に当てる。

 立ちすくむ東雲には何が起きているのかわからないだろう。

 魂を引き抜かれて体は命の危機と感じているはずだ。

 だが糸の視認ができない故に、頭では混乱が起きる。

 これは糸が見えない人間に対し、祓魔師、紬師にしかできない脅しの手段の一つだ。

 東雲の顔は可哀想なくらいに青ざめ、尻餅をついてひたすらに首を横に振り始めた。


「な、何だこれは…?私に何をした!?」

「どうしよっか、小春?彼を助けた今、東雲殿に生かす価値はあるのかな?」


 禄士郎は小春の背後から抱きしめるように近寄り、しなやかな人差し指で短刀の刃に触れる。

 今すぐにでも肩に置いてある禄士郎の手を振り払いところだが小春はなんとか我慢する。


 (禄士郎様は一体心臓に毛が何本生えているんだろう。怖ぇよ)


 山場を超えて緊張が切れた所為か、目の前で命乞いをする東雲や佐久間が知る海軍事情がどうでも良くなってきた。

 確かに小春は桃坂家の紬師になる予定ではあるが、政治事情は禄士郎や響介が担う。小春が好奇心で踏み込んでいい領域でもないのだ。

 だからこそ今の状況に出てくる言葉はどうでもいい、に限る。

 すると小春が答えるまでもなく、東雲は土下座をした。


「分かった!話す!だから殺さないでくれ…!!」

 

 掠れた声で懇願をし始め、丸まった小さな背中がなんとも哀れだった。

 そんな東雲がつまらなかったのか、後ろにいる禄士郎が小春の肩に顎を乗せながらため息をついた。

 呆れた小春が東雲の糸を離した、その一瞬だった。

 一つの銃弾が床に擦り付けていた東雲の頭を貫いた。

 佐久間が構えていた銃の銃口から煙が立ち、床にはゆっくりと血の海が広がっていた。

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