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霧崎小春の花影  作者: 椄瀬結


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訓練 六

「え、えっと、霧崎さん、あの…」

「箕原先輩、先に確認したいことがあります」

「え、何かな…?私、何かしちゃいましたか!?」

「いやそうではなくて、私、見ての通り骨折をしていまして足でまといになりかねないですけど、それでもいいんですか?」


 戦闘訓練なら小春は戦える自信がない。悪化して今後任務に支障が出るのも困る。

 そんな小春の意図を汲み取った深琴が大丈夫だよ、と笑顔を浮かべた。

 その瞬間だった。


「訓練内容は組んだペアで三勝すること!時間内に三勝できなかった及び先に二敗した場合、技術開発部隊の実験体になってもらう!大いに励め!」


 かの子の宣言により、可哀想になるくらい顔色が青白くなっている。

 技術開発部隊はバッシキやニシキを開発した科学者集団なのだが、度々実験体として規律を破ったものが罰として贈らされる場所である。

 大発明の代償には頭のネジがどこか取れるらしい。そこから帰ってきた者は皆、口を揃えて二度と行きたくないと話す。

 今回は訓練という名の実験体の選別式だったようだ。


「先輩、今からでもペア解消すれば…」

「ま、待って!秘策があるの!信じて!」


 小春の提案を遮り、先程とは違って深琴の瞳は揺らいでいなかった。

 ハッタリではなさそうだ。


「今から私の妖力を流しますね。もし拒否反応が出たら言ってください」

「はい、分かりました」


 一つ、深呼吸をして深琴は腕輪型のバッシキを起動させて小春の骨折している左手に触れる。

 拒否反応が出るかと身構えていたが、そんなこともなく深琴が流される妖力は柔らかく絹のように優しくて小春の体に良く馴染んだ。

 禄士郎の妖力とは違った感触だった。


「どう?拒否反応出てます?」

「いえ、むしろよく馴染んでます」

「良かった…じゃあそのまま私の妖力を糸状に紡いでみてください。きっと私の妖力だけじゃ強度が足りないから霧崎さんの妖力も織り込んで」


 言われたとおりに小春は深琴の妖力を糸へと形あるものへと変えいく。

 そして紡いだ糸が切れないように自身の妖力を丁寧に織り込む。

 小春の青緑色と深琴の菜花のような黄色が混じりあった糸が出来上がる。


「すごい…紡ぐのが早くてとても丁寧…じゃあ、そのまま骨が折れている部分に固定するように縫ってみてください」

「結構難しいこと言いますね…やったことないです」

「大丈夫、霧崎さんのセンスならできる。私も妖力で補助します!」


 小春は唾を飲み込み、全神経を左腕に集中させる。

 深琴がやらせようとしているのは紬師による応急処置方法だ。

 大前提としてこの方法は難易度が高く、糸を巧妙に扱える紬師じゃないとできない。

 確かに小春は手先の器用さに自負はあったが、応急処置方法となると話は変わってくる。

 目に妖力を込め、体内で巡っている妖力の流れを確認する。

 そこから筋肉の位置、骨の位置、折れている部分を測り、丁寧に糸を動かしてひび割れている部分を縫い合わせていく。

 周りが戦闘を続々と戦闘開始する中で、小春は骨を縫い上げた。


「どうです?気づくことありません?」

「…痛みが緩和されてます。腕の感覚はあるのですがないみたいにも感じます。先輩ってもしかして」

「そう。私、異質持ちなんです」


 異質持ち。妖が見える妖力持ちの人間の中でもごく稀に生まれる人間。

 実態として妖力が常人とは違い、さまざまな効果が備わっている。妖力が毒になったり、洗脳効果があったりと様々だ。

 そして今目の前にいる深琴は恐らく『治癒』効果が備わった異質持ちなのだろう。

 小春は首から通している包帯の結び目を解き、左手を軽く動かす。


「この効果はどれくらい持ちますか?」

「その糸が途切れたり、解けたら効果は無くなります。あ、あと…私の治癒は完全な治癒じゃなくてその時だけのもの、なんですよね…」

「もしかしてこれでまた左腕が負傷したら…」

「その時は一緒に私も謝りますから!土下座もしますから!医療費も払いますぅ!」

「それはやめてください」

 

 小春は左肩を回し、可動域を確認する。

 深琴の実力がわからない以上、自分の身は自分で守らなくてはならない。

 加えて二敗した時点で技術開発部隊への直行便が待っている。

 せめてせっかく勇気を出して誘ってくれた深琴のためにも組んでよかったと思ってもらいたい。


「箕原先輩〜!小春〜!」


 小春の覚悟は遠くから響いた呼び声で簡単に打ち壊される。ほぼ毎日聞いていて今は相手にしたくない声だ。

 しかもその声は頭上から降ってきた。

 それを意味することを先に理解した深琴が軽々と小春の体を抱き上げた。

 そして頭上から振り下ろされたハルバードの刃を間一髪で逃れた。


「霧崎さん大丈夫!?」

「はい、先輩が助けてくれなければ斬られていました。禄士郎様に」


 残念、と呟いてハルバードをおもちゃのように弄んでいる禄士郎を小春は深琴に抱きかかえられながら睨みつける。禄士郎から見たら怖くも何ともないだろう。

 深琴においては顔をまた青くさせ、ひたすら「やばいやばいやばい」と焦りが口から漏れている。

 禄士郎が小春達のために負けに来てくれたなら大手を振って喜んだが、生憎、彼の額には青筋が立っていた。

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