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霧崎小春の花影  作者: 椄瀬結


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訓練 三

「さて本題なんだけど、魔女事件について桃坂家も動いていることは兄さんから聞いているよね?」


 小春は静かに頷く。

 桃坂家は政界において陸軍、海軍、白夜軍に次ぐ中立派として第四の勢力の位置付けにいる。

 政界や軍内部の勢力争いに加担することはないが国内における問題やテロが起きた場合、桃坂家は必ず事態沈静に動くことになっていた。

 今回の魔女事件は国の崩壊を招きかねない事態として桃坂家も調査を行っている。

 だがあくまでも中立の立場であるため、表沙汰に白夜軍と協力してと言うわけにはいかなかった。協力関係になることが魔女事件の早期解決になるが、それを揚げ足に桃坂家の地位を引き摺り落とそうとする者も多い。

 だから苦肉の策としてまだ若く見習いの立場にいる禄士郎を軍学校に入学させ、学生ながらも白夜軍の直属させることにした。

 これもまた桃坂家の当主である響介とかの子の判断である。

 それを踏まえて禄士郎と小春は同期のたちの中でも魔女事件については詳しかったし、授業よりも調査に向かわなくていけなかった。


「魔女と契約するだけで誰もが魔術を扱うことができ、ただの人間が兵器になることができる。でも本来、魔術も妖術も契約するだけで扱えるものじゃない。何年、何十年かけて身につけて磨いていくものだ。そういうのすっ飛ばして糸を代償し簡単に扱えるようにするって言うのは中々に残酷だよね」

「糸が次の生へと向かえなくなった場合、どうなるのでしょうか」

「境での魔女の最後を見ただろう?『消える』。ただそれだけだよ。まあ、妖の言い伝えでは黄泉の国の神達の手によって何百年という時をかけながら新しい輪廻の糸として紡がれる、とか何とか」


 鼻で笑うわけでもなく、同情のような感情もなく、禄士郎はただ淡々と話す。


「で、最初の契約者が起こした事件から日本で永住権を得た魔女を手当たり次第、調べたらしいけど的は外れ続けているんだって。だから兄さんは密入国者じゃないかって調査を開始らしい」

「ですが捕縛した契約者から聞き出した方が早いのでは?」

「確かにその方が手っ取り早いんだけど、捕縛した契約者は捕縛後に魔女のことを分からないだとか、知らないとか言って話にならないんだよね」

「言い逃れでしょうか?」

「いいや、本当に知らない状態だったよ。徹底的に調べたけど魔女の記憶は綺麗さっぱり『無くなってた』みたい」


 無くなってたみたい。裏返せばそれは記憶があったと言うこと。

 つまり何かが条件で魔女に関する記憶が契約者から消えたということになる。


「無くなる条件は契約者の輪廻の糸に妖力が触れること。魔女も俺たちのことをよく見ているよ」


 祓魔師と紬師は必ず戦闘の際に妖力の膜を纏う。

 つまり魔女の情報を聞き出すには妖力の鎧を取り外して輪廻の糸に触れて捕縛しなければならない。

 だがそれはあまりにも危険な行為であると言える。

 妖力の膜がなければ紬師が相手の輪廻の糸に触れたとき、情念が流れてくる危険性が高くなる。

 えいの時はあの程度で収まったから良かったが、もしえいの負の感情が強ければ最悪の場合、小春はあの世界から抜け出せなかっただろう。


「契約者から魔女の情報を聞き出すのは難しいかも知れませんね」

「できるとするなら祓魔師であり紬師であり、強靭な心を持った人じゃないと無理だね。そんな英雄がいれば魔女事件だってこんなに長引くこともなかったんだけどねぇ」

「私の母であっても難しいと思います。それに魔女の目的がわからないのでどこに潜伏し、いつ現れるのかも不明です」


 小春は最後のクッキーを咀嚼しながらスカートの上に落ちた食べカスを払う。

 愉快犯なのか、この国の何かを狙っているのか。

 ただ分かる事があるとしたら、魔女はこの世界を恨んだ人に手を差し伸ばしているということ。

 急激に発展を続けている日本は実際のところ、帝都しか時代に追いついていない。

 同じ日本であるのに帝都から離れると時代が巻き戻ったように発展の格差がついている。

 だからか、帝都では犯罪数が少ないのに対して地方は圧倒的に多く、不満や嘆願の声も大きい。

 魔女がその綻びを狙っているのであれば哀しいかな、的確と言える。


「まあ、筺辺大佐はこの事件をきっかけに()()()の土台を作る気なんだと思う」

「…何も聞かなかったフリでいいですか、それ」

「ふふっ、俺も小春と兄さん以外に話す気はないよ。それに意外とこれに兄さんが乗り気だから、小春としても避けられないと思うよ」


 小春は黙って眉間に手を当てた。

 妖や化け物と命をかけた争いに加えて人間からも命を狙われるとなると胃が痛くなる。

 平穏な人生は難しくても毎日がトラブルというのは胃も頭も痛くなる。

 刹那、風船が割れたような大きな破裂音が裏庭に鳴り響く。

 

「あらら、術式がかき消された」


 実際に風船が割れたわけではなく、割れたのは禄士郎が張っていた遮音術の結界だった。

 この破裂音は元々結界内にいた術者達に侵入者を伝えるために鳴るため、外にいる人間には聞こえない。

 はずなのだが。


「桃坂、術の精度が低い。私は結界に踏み込んでもいないぞ」

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