Sheet3:人狼
「わかりました。芦田さんには恩がありますからね。このスマホに賭けて、事件を解決してみせましょう」
エルはスマホを掲げて宣言した。
「ありがとう、エルさん。それじゃ経緯から話しますね」
芦田は説明を始めた。
芦田が隣に借りたテナントは、会社の分室として使っているという。
コロナ禍でリモート勤務の人材を何人か雇用したが、クライアントによっては対面での打ち合わせを希望することも多く、出社した方が都合が良いケースが増えてきた。
しかし、元の事務所(本社)は手狭なため、新たに別室を設けたのだ。
本社とのやり取りは電話とメールが中心。書類などのファイルは、セキュリティ上の理由からメール添付を原則禁止し、Googleストレージなどで共有している。
今回のトラブルは、その共有していたエクセルファイルのマクロが消えてしまったことに端を発している。
容疑(?)がかかっているのは、以下の三人だ。
・鈴木英治:ファイルのアップロード担当(新人)
業務報告用のマクロ有効ブックをGoogleドライブにアップロード。「自分は何も変更していない」と主張。社内に鈴木が二人いるため、下の名前で呼ばれている。
・尾藤いさ子:ファイルの編集担当(中途採用)
アップロードされたファイルを開いて編集。「最初からマクロなんて入ってなかった」と証言。ただしマクロについては詳しくなく、存在の有無を把握していたかは怪しい。
・椎名克平:ファイルの管理責任者(中堅)
エクセルのマクロやVBAに比較的精通し、重要な業務ロジックがマクロで組まれていることを知っている。週次でバックアップを取っているが、今回は直近のバックアップがなかった。「Googleドライブに上げるときは必ずマクロ有効形式(.xlsm)で保存するよう指導していた」と主張。
「誰かが嘘をついてる感じだな。人狼ゲームみたいだ」薔薇筆が呟く。
「嘘というより、本人が消した自覚がないのかもしれません」エルは芦田に向き直る。「当時のやり取り、メールか何か残っていませんか?」
「メーリングリストの送信履歴ならあります」
芦田は足元の大きな鞄からノートPCを取り出し、画面を見せた。
まずは英治の送信メール。
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お疲れ様です、鈴木(英)てす。
先ほど業務報告用エクセルファイルのほうアップロードいたしました。
<共有リンクURL>
自分の作業分は記入済みです。
よろしくお願いしむす。
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「こんなものでは何も分からないと思いますが……」芦田が言う。
「さっき社内規定でメールへのファイル添付やスマホでの送受信は禁止とおっしゃっていましたが?」エルが尋ねる。
「ええ、セキュリティ上の理由で。私も詳しくはないのですが、知人に言われて決めました」芦田は少し困ったように答える。
「たぶん彼はスマホかタブレットからメールを送っています」エルは続ける。「トラブルとは直接関係なさそうですが」
「エル、なんでそんなこと分かるんだ?……この打ち間違えか?」アキラが尋ねる。
「うん、これはフリック入力特有のタイプミスだね」
「まあ、確かにトラブルとは直接関係なさそうですが、社則を守らないことやメールの誤字に無頓着な性格からして、やらかしてそうな雰囲気はありますね」薔薇筆は英治が一番怪しいと見ている。
「他の方のメールも見せてもらえますか?」
エルの検証は続く。




