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同窓会は異世界で。  作者: SARTRE6107
第三部回想編後半
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第五十二話

 宴が終わった後、真一と優佳は呼び出したイートンから衝撃的な言葉を聞かされた。

「単刀直入に言おう、お前たちは夫婦になれ」

 真一にとっても、優佳にとっても衝撃的な言葉だった。初めは宴の勢いで言った冗談かと二人は思ったが、宴の最中に優佳に伝え、終わった後に別に呼び出して言った訳だから、冗談であるはずはなかった。

 あまりにもショックの大きい言葉に、真一はこうイートンに反論した。

「いきなり言われても、僕も優佳もまだ一六にもなっていないんですよ?」

「それなら年を越してからでいいだろう。一六なら、もう誰かの伴侶になっていてもおかしくないぞ。お互いに心が通じ、深く愛し合っているのであれば何の問題もないはずだ」

 イートンの言葉に、真一は一八歳にならないと結婚できない事を言おうしたが、令和の日本の理屈をかざしてもおそらく通じないと思い、口をつぐんだ。

「お前は晴れて、我が騎士団の一員となったんだ。その赤いスカーフに相応しい地位や賞賛を十分に受けているぞ」

「でも……」

 真一は一瞬言い淀んだあと、こう続けた。

「僕は、戦いの中で五人の人の命を奪いました。それは騎士団の一員として当然の事をしただけの事ですが、それと僕が、優佳に相応しい人間かどうかは別の問題です」

「自分は彼女の伴侶に相応しい男ではない。と言いたいのか?」

「そうです」

 イートンは真一の言葉を否定しなかった。下手な嘘をつかず、自分が思った事を素直に話しているというのが判っているからだった。

「君は、ユウカの方はどうなんだ?」

 イートンに話を振られた優佳は、何と言いだして良いのか分からず、少し考え込んだやがて気持ちが落ち着いて、自分の気持ちに素直になろうと心に言いきかせると、ゆっくりと口を開いた。

「私は、別に構いません」

「優佳……!」

 真一が漏らすと、優佳は真一の事を見てこう続けた。

「私、この世界で生きてきて判った事があるの、この世界は私たちが住んでいた世界、令和の日本とは全く違う世界。そんな世界で一人で生きる事なんて簡単にできる事じゃない。支え合う人、寄り添う人、愛する人がいないと生きる事なんてできない」

 優佳の言葉に、真一は不思議な心地よさと安らぎを感じた。自分が意地を張って支えてきた重荷が、優佳の言葉によってゆっくりと心から離れて行くような感覚があった。

「真一は、仲間を失ってずっとそれを奪われまいと、強くなって必死に守ろうとしてきた。でもそれをずっと続けたら、何もかもがこの世界によって変えられてしまう。私はそうまでして真一に強くなって欲しくない。私の知らない真一になって欲しくない」 

 優佳の悲鳴にも似た叫びに、真一は愛する者のために自分が何ができるだろうかと、もう一度考えた。

「真一が遠くへ行ってしまったら、真一が知らない人間になってしまったら、私はこの世界で生きて行く自信がない。誰も守ってくれない世界で生きるなんて嫌。真一と一緒に居られない世界なんて、私には生きている意味がない」

 優佳はそこで感情を爆発させて、目元に涙を浮かべた。真一は誰も傷つけられたくない、悲しませたくないという一心で行動してきたのに、最初に自分を認めてくれた相手を疎かにしていた事にようやく気付いた。

「ごめん優佳。俺、周りの事が見えなくなっていた」

 真一は優佳に一言謝ると、そっと彼女の事を抱き寄せた。その姿を見て、イートンはかつてクローマにこうする事が出来ていればと、自分の苦い過去を思い出した。

「俺も騎士団の一員に迎えられた時、俺を愛してくれていた人が一人いたんだ。だが、俺は誰も負けない、皆を守る強い存在になりたいと思って、俺はその人を大切にする事を忘れていた。その人は、俺の傍から離れて行った。俺は一番に守るべき人を深く傷つけてしまったんだ」

 真一と優佳はイートンの顔を見た。イートンの表情は、かつて見たことが無いほど、自分の過去を悔やんでいる顔だった。

「だからこそ、お前には俺と同じ過ちを犯して欲しくないし、自分を愛してくれる人を傷付ける人間になって欲しくない。これはお願いでもあり、騎士団長としての命令でもある」

 その言葉は、真一が初めて耳にした、イートンの人間としての言葉だった。誰も傷つけたくない、悲しい思いをさせたくない。そう思い続けて行動してきた真一がとるべき行動は、もう決まっていた。

「優佳……!」

 真一は目を閉じて、彼女の事を強く抱きしめた。



 冬が過ぎて年を越すと、アクライ国には暖かな春が訪れた。桜の花は無かったが、市立第三中学校の生徒たちが住む村は色とりどりの花が美しく咲き誇り、新しい日々の始まりを伝えていた。令和の日本であれば彼らは卒業して、また新たな人生の一歩を踏み出すのだが、彼らの村では卒業の代わりに、新たな人生の一歩を踏み出す為の準備に追われていた。

「優佳。似合っているし、すごく綺麗だよ」

 美幸が花嫁衣装に身を包んだ優佳を褒めた。今日の為に、クローマが無償で提供してくれた生地を使い、二か月がかりで花嫁衣装を仕立てた美幸にとっては、苦労が報われた瞬間であると同時に、友人の一番の幸せに最高の贈り物が出来た瞬間だった。

「ありがとう」

 優佳は花嫁姿がまだ恥ずかしいのか、ぎこちない様子で答えた。

「しかしまあ、優佳に先を越されるなんて思わなかったな、あたしらの方がもっと極端な形で結ばれると思ったのに」

「極端すぎるからよ、同じ事を多分向こうでもあんたの旦那が言っていると思うわ」

 葉子のぼやきに、ハルエリが続けた。その軽妙なやり取りを耳にして、優佳はだいぶ気分が楽になった。

 同じ頃、新郎の真一もアクライ国騎士団の晴れ着に身を包み終えた所だった。普段は敵味方識別と埃除けの機能しかない、襟の赤いスカーフが、彼のこの世界での社会的地位と役割を果たしているようで、真一は身がしまるような思いだった。

「何で長尾に先を越されたのかなー。一通りやる事はやったんだけれどなー」

 負け惜しみのように元一郎が漏らす。

「お前さ、そう言うがさつでムードのない所が明確な差になって出てくるんだよ」

 雅也が苦言を呈すると、元一郎は「悪い、悪い」と笑いながら謝り、こう続けた。

「まあ、愛の強さに順番は無いからな。すごく似合っているよ、長尾」

「ありがとう」

 真一は少し自信がこもったような言い方で、元一郎に答えた。すると式場の準備が整った事をオリオールがやって来て控室の三人に伝えに来た。

「こっちは準備完了だ。何時でもいいぞ」

「了解、ありがとう」

 真一はそう答えて、部屋の出口へと向かった。部屋を出る途中、オリオールは真一の肩を掴んだ。

「絶対に、彼女を裏切ったり、悲しませるような事はするなよ」

「ああ、判っている」

 真一は一言答えて、外の式場へと足を踏み入れた。

 温かい日差しと美しい春の花々に彩られた村の式場には、市立第三中学校の生徒たちのほか、真一と共に死線を潜り抜けてきたアクライ国騎士団の騎士に、服屋のクローマ、ハルエリの父のナクマトも訪れた。

 新郎新婦の真一と優佳はお互いの手を握り、そのまま婚姻の証人となったイートンの前に立った。

「今日から、二人が共に生きる家族となる。シンイチはユウカを守り、ユウカはシンイチを支える事。出来るな?」

「出来ます」

 真一が答えた。

「私も、大丈夫です」

 優佳も静かに答えた。

「では、二人が家族となった事を認めよう」

 イートンが答えると、真一と優佳はお互いを見つめって誓いの口づけを交わした。その姿に、生徒たちも騎士団の騎士たちも、割れんばかりの拍手と祝福の言葉を掛けた。市立第三中学校が異世界に転移して約一年、彼らは卒業式の代わりに、新しい人生をこの世界で歩み始めたのだった。



 真一は惇哉に、今まで過ごしてきた異世界での出来事を話し終えると、再び自らの剣を手に取った。そして鞘に入った自分の剣を見つめながら、こう続けた。

「俺はその後、四回ほど騎士団の一員として戦い赴いて敵を倒してきた。すべては優佳と仲間を守るために。自慢じゃないが、俺は令和の日本に居るどの自衛隊員よりも人の命を奪っている。向こうに俺のいる場所はない。ここが俺のいる場所で、死ぬ場所だ」

 真一の言葉に、そしてこの世界で生き抜くと決めた覚悟に、惇哉は言い返す事が出来なかった。彼がこの異世界で抱き育んできた物は、間違いなく戦士としての誇りと信念であり、また帰るべき居場所だった。自分は自らを追い込むために自衛隊生徒という道を選んだが、真一は煮え湯しかない世界だけで生き残るための選択を積み重ねて、今の自分になったのだ。ある意味安全圏で三年間を過ごした惇哉の経験では、全てにおいて真一に敵わない気がした。

 同じように優佳も、渚に今までの自分が過ごした事を話し終えた所だった。

「本当に、いろんな事があったんだね」

 渚は長い映画の感想を呟くように、優佳に答えた。

「そう、やがて明日美が生まれて正真正銘の家族になった時、私は家族の一員として真一や仲間を裏切りたくないって改めて心に誓ったの。ここに私がいないと、大切な人が傷ついてしまう。そんな気がするの」

 優佳の言葉に渚はそうだねと頷いた。

 やがて皿の後片付けが終わると、渚と惇哉は真一と優佳の家に泊めてもらう事になった。二人は持ってきた寝袋をリビングに敷いて眠りに着いた。真一と優佳は明日美を手作りのベビーベッドに寝かせて、同じ布団に入った。

「島原さんに、今まで何があったか話したの?」

 真一はベッドの中で、囁くように優佳に訊いた。

「話したよ、いろんな事があった事を。真一は話したの?新田君に」

「俺も話したよ、今となっては思い出になった事を。ここが俺の生きる世界で、帰りを待つ人がいる場所だってね」

「そう」

 優佳が呟くと、真一は彼女を優しく抱きしめた。そうして二人は、久しぶりに優しい気持ちで眠りに着いた。

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