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同窓会は異世界で。  作者: SARTRE6107
第三部回想編後半
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第三十八話

 ハルエリは父と共に店を開けると、父に許可を貰って自分と雅也が作る分のパンの素材を用意してもらい、雅也が来るのを待った。そこまでは良かったのだが、具体的な時間帯を指定していなかった事に気づき、準備は良くても手持無沙汰な待ち時間を持て余す事になってしまった。可能なら昼時のお客が殺到する時間はさけて欲しかったし、可能ならお互いの作ったパンを自分達や父親ではなく、パンを買いに来た客に試食してもらって優劣をつけてもらいたいと思っていたが、事はそう簡単に運んではくれない様子だった。

「ハルエリ、待っている暇があったら、これから焼き上がるパンを並べるのを手伝え」

 待ち構えていた父が、ハルエリに声を掛けた。

「はい」

 ハルエリは父親の言葉に素直に従った。父親であり仕事のボスである以上、逆らう事は出来なかった。

 父親が焼き上がったパンを窯から取り出すと、ハルエリは平べったいパンを一枚ずつの棚にまず並べ、さらにその後三枚、五枚重ねのパンを紐で結んだ。数枚をまとめるのは、家族客やまとめ買いをする客のため物だった。そうして最初に焼き上がったパンを並べ終えると、真一たち四人がやって来た。

「こんにちは」

 声を掛けたのは優佳だった。ハルエリは初めて会話をした相手が来店した事に、少し喜びを覚えた。

「いらっしゃい。よく来たわね」

 意外な人物が現れた事に、ハルエリは用意していた挑発的なトーンを引っ込めて、いつもの接客と同じように答えた。だが四人の中に雅也の顔を確認すると、トーンを用意していた挑発的な物に切り替えた。

「ずいぶんと同伴者が多いようね」

「同伴者じゃないよ、みんな他の予定があるんだ」

「どんな?」

 ハルエリが疑り深い表情を作って雅也に訊くと、真一が横から口を出した。

「俺は騎士団の兵営に向かうのだけれど、この辺りの道に詳しくなくて、差し支えなければ、教えて欲しいんだ」

 真一は村での決意に満ちた表情とは変わって、地元の同世代に道を聞く少年の表情に戻って訊いた。ハルエリは騎士団の兵営に行きたいと言った真一に意外そうに見るとこう続けた。

「それなら、この道をまっすぐ行って、突き当たって左をまっすぐ。そうすれば右側に兵舎があるわ」

「ありがとう」

 真一は静かに答えた。

「それじゃ、あんたの腕前をみせなさいよ。大口を叩いたんだから、それなりの事はちゃんとしなさいよ」

 真一の言葉を受け取ったハルエリは雅也に向かって啖呵を切った。やれやれといった感じで雅也は頷いた。

「それじゃあ、俺は自分の約束を果たすよ。長尾と柴田さんはまた後で」

 雅也の言葉のあと、真一と優佳は「じゃあ」と言って店先から離れた。唯一何の予定もなしに街に来てしまった美幸は取り残されたようになってしまった。

「あんたはどうするの?」

 取り残された美幸を見て、ハルエリが訊いた。

「私はちょっと、この辺をうろついてきます」

 美幸はそう言い捨てて、店先を離れて先に行った真一と優佳の後を追った。

 美幸が二人に追いつくとき、街行く人々の噂話が耳に入ってきた。この国で一番の富豪であるジロム・バルガスが新たな夫人を迎え入れ、相手は親子ほど年が離れた若い女であるという事。息子のユーリの心情はさぞ複雑だろうという事、昨日誰かが食糧や日用品を大量に買い占めたせいで、街に入る品物が減っている事など。SNSやマスコミが存在しない世界でも、ネガティブな印象を持った情報はあっという間に拡散するのだと思うと、美幸は心細くなった。

「お待たせ」

 美幸が声を掛けると二人は振り返った。また心が悲しくなって泣き出したい気分になってしまった。

「佐渡さんも、一緒に来る?」

 優佳が提案した。だが関係のない自分が真一と優佳の後について行っても、あらぬ誤解を生じさせるかもしれないと美幸は思った。

「途中まで」

 美幸が答えると、二人は彼女を連れて歩き出した。この街で、この異世界で何の目的も意志も持たずに生きているのは自分かもしれないと美幸は思ってしまい、気を紛らわす為に細い路地の様子を見る事にした。路地には比較的小規模な商店が立ち並び、ハルエリのいたパン屋のほか、豆類を売る店、陶器の皿やコップを売る店などがあった。たとえ異世界の物であっても、人々の生活に根付いたものが並んでいる光景を眺めていると、美幸は少しだけ気分が落ち着いたような感覚になった。

 すると、少し離れた所に薄紅色の布や、藍色の服を売る店がある事に気づいた。美幸は気になって中を覗くと、そこはどこからか仕入れた布を使って、服や布製品を作る店らしかった。

「どうかしたの?」

 背後で立ち止まった美幸に気づいた優佳が声を掛けた。優佳に映る美幸の瞳からは、先程の悲しみが消えていた。

「私、ちょっと用事が出来た。だからお構いなく」

 美幸が答えると、優佳は再び真一と共に歩き出した。残った美幸は鮮やかな布製品で彩られた店内に足を踏み入れた。布製品のお店らしい、布と染料が放つ独特の香りに、美幸は久しぶりの安心感を覚えた。並べられた色とりどりの製品を見ると、使われている布そのものは鮮やかな物だったが、全て単色だった。

「いらっしゃいませ」

 店の奥から女の声がしたので目を向けると、店主らしい落ち着いた佇まいの女が現れた。女はこの辺りの出身ではないのだろうか、白い肌に亜麻色の髪、グレーの瞳を持っていた。

「いえ、あまりにも鮮やかな色合いの服が並んでいたので」

 美幸は世間知らずな地元の娘の振りをして、女店主に答えた。

「そう。この服に使われている生地は交易によってもたらされたものなの、珍しいものだろうから見て行って頂戴」

 女店主は柔らかな声で美幸に語り掛けた。すると美幸は店主の目を見て「あの」と声を掛けた。

「ちょっとお話をしてもよろしいですか?私、こういう関係の物が好きで、将来はそういう仕事に就きたいと思っていた人間なんです」

 女店主は意外そうな表情をした後、「どうぞ?」と答えた。



 美幸と別れた真一と優佳は、ハルエリの指示通り細い路地を突きあたって左に曲がり、商業地区の喧騒から離れた道を並んで歩いた。周囲に住宅などはあったが、仕事に出かけている人が多いのか周囲は静まり返っていた。静かな住宅街を特に語る事もなく歩くのは、何でもない時の学校帰りのようだと真一は思った。

「何か、学校帰りの道みたいだね」

 不意に優佳が漏らした。同じことを考えていた真一ははっとして優佳を見た。振り向かれた優佳も、思わず真一を見た。

「俺も同じことを考えていたよ」

「奇遇だね」

 優佳は真一の言葉に微笑んだ。

 それから程なくして、真一と優佳は騎士団の兵舎にたどり着いた。騎士団の兵舎というからには、要塞のように威圧的な外観の場所を想像していたのだが、日干し煉瓦を重ねて作った塀に囲まれ、その奥に建物があるという想像以上に威圧感の少ない施設で、真一は地元から少し離れた場所に所在する陸上自衛隊の駐屯地に似ているという感想を抱いた。

 入り口に入ると、番兵らしい初老の男性が暇そうに椅子に座っていた。腰に剣を差してはいたが、槍などを持っていないせいで威圧的な印象は無かった。

「何か用かい?」

 二人より先に、番兵の初老男性が声を掛けた。

「騎士団長に会いに来たんです」

 真一が最初に口を開いた。

「イートン騎士団長に?なんの用事でだい?」

 番兵の初老男性はさらに訊き返した。真一は「昨日騎士団長にここへ来いと言われた」事を話そうかと思ったが、その事がセミリタイアしたであろうこの番兵に伝わっているか不安になった。

「私たち、昨日助けてくれたお礼を言いに来たんです」

 躊躇していた真一の傍で、優佳がここに来た理由を話した。積極的に前に出る優佳の姿を見て、真一は自分を情けないと思った。

「助けてもらったのか?昨日」

 番兵の初老男性は訝った眼差しを二人に送りながら、何かを思い出そうとしている様子だった。

「はい、昨日荷物を届けてくれた時に」

 優佳か続けると、番兵の初老男性は何かを思い出したのか、ああ!と小さく漏らした。

「ディグルの一件の関係者か、入りなさい。イートン騎士団長なら中におられるはずだ」

 番兵の初老男性は椅子から立ち上がって、二人に中へ入るように促した。

「ありがとうございます」

 真一は一礼して、騎士団の本拠地へと足を踏み入れた。


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