当主継承編 当主継承
「──次期当主様方のご入場です」
継承式が始まり、藍良の言葉を合図に会場内に泉凪ら次期当主が入ってくる。
先ほどまでの、控えでの年相応な雰囲気から一変し、落ち着きがあり、皆、次期当主らしい大人びた面持ちをしている。
泉凪らは、皇帝、各当主らの前に立つと、各家の当主から代々受け継ぐ、当主の証の刀を進呈される。
月花当主は居ないので、皇帝から泉凪に刀が進呈される。
「……刀、無事だったんですね」
月花家の刀は、月花の郷が滅びた際に、一度行方不明になったが、しばらくして発見された。
少し傷はあったものの、無事に見つかり、皇宮へと保管されてあったのだ。
泉凪の言葉に皇帝は頷くと「おめでとう」と祝う。
泉凪は嬉しそうな、覚悟を決めたような表情を浮かべ頷き、刀を受け取る。
今ここで、新しい当主らが誕生した。
その瞬間、会場内は拍手に包まれ、新しい当主らを祝福する。
「当主就任、おめでとう。」
皇帝は新しい当主らに、祝福の言葉を贈る。
「これから先、何百年と生きて行く中で、その思い出だけで一生を生きていけるほど、嬉しい事もあれば、あの時ああしてれば良かったと何百年も後悔し続ける事もある」
「そんないい事も悪い事も、生きて行く上で必ず役に立つ」
「だから、沢山後悔し、沢山良い思い出を作れ」
「立派な当主になろうとしなくても良いし、完璧な当主にならなくても良い。だが、国民にとって良い当主になれ」
皇帝は「私みたいにな」と笑みを浮かべる。
そんな皇帝に呆れた表情を浮かべる、前当主らと、皇帝の後ろで頭を抱える仁柊。
それから、巫女が新しい当主の誕生を祝い、各郷の安泰を祈るための舞を披露し、無事に、継承式は終わりを迎えた。
◇
「泉凪! 花流しだよ!」
継承式を終えた泉凪らは、神守山へとやって来ており、座学が無事終了した事と、新たな当主を祝うため、花流しと言うものを行う。
その名の通り、花の形をした水に触れると溶けて無くなる紙を、神守の山に流れる川に流す。
その時に願い事を唱えると叶うと言われているのだ。
神官らが花流しの用意をしているのを見た心大は、嬉しそうに隣を歩く泉凪の袖を引く。
花流しには、共に座学を行ってきた他の神力者たちも参加する。
「おや、心大。それに泉凪さん」
先に花流しへとやってきていた若菜が、泉凪と心大に気づくなり、そう声をかけてき、手には紙でできた薄緑色の花を持っていた。
そんな若菜に心大は「若菜兄さん!」と駆け寄る心大。
「もう、流すの?」
花流しは、願い事が決まったものから流す事になっており、既に手に花を持つ若菜に心大はそう問いかける。
そんな心大の言葉に、若菜は「えぇ」と頷く。
「願い事、何にしたの?」
「地星家副当主として、地星家と心大の事をしっかりと支えられますようにと、お願いしました」
晃は、約束通り岩を割れず、当主になれなかったので地下牢へと、王位継承権が行われるその日まで入れられることとなった。
そして、地星家の中で、一番順位が高かった若菜が、地星家の副当主となったのだ。
若菜の願い事を聞き「若菜兄さん……!」と感動している心大。
そんな二人を見た泉凪は、少しホッとする。
あれから、晃を本当に地下牢へとやったのは正しい判断だったのか、そして、心大や若菜からすれば大切な家族を地下牢にやり、傷つけてしまったのではないかと心配していた。
晃が地下牢に送られたその日、心大は泉凪に『兄さんのことは気にしないで。泉凪は下手したら兄さんのせいで死んでいたかもしれないんだが、当然の報いだよ』と言ってくれ、少し心が軽くなっていたが、やはり気になっていた泉凪。
だが、いつもと変わらなく見える心大と若菜を見、考えすぎだったかなと思う。
「泉凪は、何お願いするか決めた?」
心大の問いかけに、泉凪は「んー……」と考えると「特にないんだよね。願い事」と困り笑いを浮かべる。
「ないの?」
心大に聞かれ、再度考えると「ないなぁ……」と答える泉凪に、心大は「些細な事でも良いんだよ!」と言い、その言葉を聞いた若菜は「……例えば、会いたい人に会えますようにとか、大切な人とずっと一緒にいられますように、とか?」と提案する。
「ずっと一緒に……」
泉凪はそう呟いた時、背後から「泉凪!」と言う声がし、泉凪はハッとした表情を浮かべる。
振り返ると、悠美と千季がおり、泉凪らの方へと歩いてくる。
「悠美さんと千季さんはどんな願い事するんでしょうか……って、泉凪? どうしたの?」
何故か泉凪は腕で顔を覆い「……いや。何でもない」と答える。
心なしか顔が赤いように見える。
そんな泉凪を不思議そうに見つめる心大。
(どうして、悠美の事が思い浮かんだんだろ……)
先ほどの若菜の言葉を聞き、何故か突如、頭に悠美が浮かんだ泉凪。
その理由がわからずに、困惑する。
「泉凪はどうしたんだろう?」
泉凪を見て不思議そうにする心大。
そんな心大の隣で若菜は「どうしたんでしょうね」とはふふと笑みを浮かべるのだった。




