当主継承編 父と息子
少し前の火翠宮にて。
そこには、皇帝の姿があり、神守山へと向かおうとする悠美に声をかける。
「調子はどうだ?」
皇帝に声をかけられた悠美は、右手を胸に当て、頭を下げ「皇帝陛下にご挨拶申し上げます」と言う。
そんな悠美に「誰もいないんだ。堅苦しいのはよせ」と言う。
皇帝にそう言われ「……はい」と何処か曖昧に返事をする悠美。
そんな悠美を不思議に思った皇帝は「どうした?」と尋ねる。
「……九年前の例の件。父上が地星が関わっていた事を隠したのは、神力者だからだと思っていました。」
「ですが、とある人にその事を話したら、父上は、私のために地星が関わっていた事を隠したのではと言われました」
悠美の言葉に少し、目を見開き驚く皇帝。
そんな皇帝に悠美は聞く。
「……地星の事を隠した本当の理由を、教えてください。このまま、父上の事を疑って当主になるのは嫌です」
そう真っ直ぐ、皇帝の目を見て言う悠美。
皇帝も真っ直ぐ悠美を見返し、ゆっくりと口を開く。
「……あの時、本当は地星が関わっていた事は、発表するつもりだった。だが、これから悠美は地星だけではなく、他の神力者と関わっていく。そんな中、地星が関わっていたと知れば、周りの者は色々と言いたい放題言うだろう」
「初めは本当に隠して良いものかと悩んだ。国民に嘘をついているようで、それに、皇后に申し訳なかったし、皇后を裏切るのも同然の事だからな」
「だが、最近の悠美を見てると、他の神力者と年相応に関わり、思うところはあるだろうが、地星の者とも関わっているのを見ると、この選択は間違いではなかったのだろうと思ったんだ」
「それにきっと、皇后なら隠すだろうと思ってな」
皇帝の言葉を聞き、悠美は「確かに、母上も同じ選択をしたと思います」と少し笑みを浮かべる。
そんな悠美に皇帝は「すまない」と謝罪する。
「本当の事を話すつもりはなかったが、その事でお前を苦しめるつもりもなかった。初めから、本当の事を話しておけば良かった」
そう申し訳なさそうにする皇帝に、悠美は「いえ……あの頃の私に話してもきっと、納得していなかったと思います。色んな人と出会った今だから、その考えを受け入れる事ができたのだと」と返す。
そんな悠美に「……そうか。」と微笑む皇帝。
二人のやりとりを、そばで静かに見守っていた心温と、仁柊も安心したような笑みを浮かべる。
「それでは父上。私はそろそろ神守山へと向かいます」
そう言う悠美に「私も共に行くぞ」と言う皇帝。
そんな皇帝に「え? 一緒に行くのですか……?」と何処か嫌そうな表情を浮かべる。
「何故、ちょっと嫌そうなんだ」
「……いえ、別に。」
「今の流れ的に、一緒に行く流れだったであろう」
そう言う皇帝に「それとこれとでは、また別の話です」と悠美は返す。
そんな悠美に皇帝は「まぁ、お前が拒否したところで、現皇帝とその家の神力者は一緒に行く事は決まっているがな」と笑う。
皇帝の話を聞いた悠美は「……そんな大事な事、早く仰ってくださいよ」と呆れた表情を浮かべると「早く行きますよ、父上」と急いで歩く。
その後を皇帝は「待て、悠美。もう少し年寄りを労ってくれ……!」と追う。
そんな二人の後を、心温と仁柊は呆れた表情を浮かべついて行く。
◇
「あ、悠美来たみたいだね」
千季の言葉に、泉凪たちは入口の方に目をやる。
そこには、皇帝と一緒にいる悠美の姿があり、心大は「陛下と一緒にいらっしゃったんですね」と言う。
「そうみたいだね」
「最終座学には、現皇帝陛下とその家の神力者は、一緒に行く事が慣わしだと聞いたよ」
文月の言葉に「そうなんだ」と答える泉凪に心大。
「そんな事より、陛下がいらっしゃったって事は、いよいよ始まるよ。最終座学」
千季の言葉に、泉凪たちには緊張が走る。
その時、大神官、藍良が「只今より、最終座学を行います。神力者様、従者の皆様方は各家の場所にお集まりください」と言う。
泉凪たちは、皇帝がやって来るまで、一緒に座っていたが、本番では各家ごとに座る場所が決まっており、泉凪たちは自身の家の場所へと行く。
「泉凪、おはよう」
月花家の場所へと座ろうとした時、月花家の隣の場所に座る火翠家の方から、そう声がした。
見てみるとそこには、悠美がおり泉凪を見ては笑みを浮かべていた。
そんな悠美に泉凪も「おはよう、悠美」と返す。
「いよいよだな」
「そうだね。お互い、神力者は一人だけだから緊張するね」
火翠家も、月花家同様、神力者は悠美だけだ。
悠美は頷くと「私と泉凪ならきっと大丈夫だ」と笑う。
そんな悠美につられるように、泉凪も「そうだね」と笑う。




