当主継承編 時がくれば
綺麗な薄紫色の花を咲かせた、月光花に囲まれるように、石碑が立ってあり、その前には手を合わせる皇帝陛下の姿があった。
その石碑には〝月花家の墓〟と掘られており、皇帝は手を合わせ終えると、石碑を見上げ「今日はお前が毎年楽しみにしていた、秋月夜の会だぞ」と笑いかける。
「初めて一緒に秋月夜の会に行った時からもう、何百年も経ったんだな。そりゃ、私も歳をとるはずだ」
懐かしそうに、優しい声音で話す皇帝。
そして、笑いながらそう言ったかと思えば、眉を八の字にし「私は立派に皇帝をやれているだろうか? 立派に父をやれているだろうか?」と問いかける。
「お前が隣にいた時は、私が間違っていれば、叱ってもらえたのに。今は、お前に叱ってもらえないから、合っているのか間違っているのか、私一人ではわからぬ」
「お前なら、立派に皇帝も父親も勤めるんだろうな」
皇帝はそう言ったかと思えば、笑みを浮かべるが、何処か寂しそうな、悲しそうな表情で「美月、お前がいなくなってからずっと、毎日が寂しいよ」と石碑を見て呟く。
近くで、話を聞いていた仁柊は、下を向き目を瞑る。
「……さて。そろそろ帰るとしようか」
皇帝はそう言って立ち上がり、近くに控えている仁柊の事を呼ぶ。
「もう、よろしいのですか?」
「あぁ、また命日の日に来るからな。今日は挨拶しに来ただけだ」
皇帝はそう言うと、皇宮に戻るため、近くで待たせている馬の元へ向かおうとする。
その時。
「これはこれは、皇帝陛下ではございませんか」
突如、そう言って何処からか、狐の面を被った者が現れたのだ。
その狐の面を被った者を見た仁柊は、咄嗟に、皇帝の前に立ち「誰だ?」とその者を睨みつける。
そんな仁柊に狐の面の彼は「おや? 私の事をお忘れですか? 一度、お会いしたことがあるのですが」と呟く。
皇帝は仁柊に「下がれ」と指示する。
「ですが……」
「大丈夫だ。彼は月花の姫君の師匠だ」
皇帝の言葉を聞き、仁柊は、ハッとする。
皇帝の言う通り、狐の面を被った者は、泉凪の師であるハナだった。
ハナは皇帝に「流石は皇帝陛下。お会いしたのは十年以上も前だと言うのに、覚えてらっしゃるとは」と褒める。
そんなハナに、皇帝は「一度会ったことある者のことを覚えるのは得意なんでな」と返す。
「皇帝としてこれ以上ない特技であられますね」
狐の面から覗く口元が、ふっと笑みを浮かべている。
そして、皇帝に「こんな時期に墓参りとは珍しいですね」と言う。
「少し挨拶しに来ただけだ。そろそろ失礼しようとしていた所だよ」
「そうでしたか。そう言えば、この前、悠美様が月花の郷へとやって来られましたよ」
ハナの言葉に、皇帝は「……そのようだな。」と曖昧な返事をし「私たちはこれで」と歩いと行こうとする。
だが、それを「陛下」とハナは呼び止める。
「何だ?」
「悠美様はご存知なんですか? 月花の郷が滅んだ理由に、貴方がた火翠の人間が関わっていると言うことを」
ハナの言葉に、仁柊は「それは……!」と言い返そうとする。
だが、皇帝はそれを止める。
そんな皇帝にハナは言う。
「この先一生、隠すおつもりで?」
「……時がくれば話す」
真っ直ぐハナを見てそう言う皇帝。
そんな皇帝に「お早目に話すことをお勧めしますよ。時が経てば経つほど、その事実を知った時、傷つくのは、他の誰でもないあの子達なのですから」とハナは言う。
「……あぁ、わかっている」
皇帝はそう言うと、踵を返し、歩いて行く。
残されたハナは、火翠の石碑を見つめると「何かと月花と火翠は縁があるらしい。良くも悪くも」と言うと、花を添える。
「泉凪のはいい縁だといいな。」
そう言ってハナは笑うと、その場を後にする。




