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皇宮の花嵐  作者: 透明
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当主継承編 話してくれて嬉しいよ



 血を流し、倒れている充を見た悠美。


 騙された事はわかっているし、充達のせいで自身の母親が亡くなり、恨む気持ちもある。



 だが、生まれて初めてできた、地位も立場も関係ない、心を許せる友人の死を悲しまずにいられる程、悠美の心はまだ大人ではない。




 悠美は、充の上半身を抱え、自身の膝の上に乗せる。


 すると、充は空をぼーっと眺めながら、遠のいて行く意識の中、話し出す。




 「今でも夢に見るんだ。父さんが生きていて、母さんと僕と、家族三人で貧しいけど幸せに暮らしている夢。父さんがもし、あんな事をしてなくて、殺されていなければ、母さんもあんな奴に無理やり結婚なんてさせられなかったって」


 「一度、言ったことがあるんだ、義理の父親(あの男)に。何で暴力を振るうのに、母さんと結婚なんかしたんだって」


 「そしたらあいつ、そんなに気に食わなければ、結婚を承諾しなければよかっただろ?って」


 「よく言うよ。散々、結婚を承諾しない母さんと、僕に嫌がらせしといて」




 そう笑みを浮かべる充。


 だが、その瞳には涙が浮かんでいる。


 そんな充の話を、悠美はただ黙って聞いている。




 「あぁ……僕もう死ぬのかな。母さんも父さんも、こんな感じだったのかな。結局、僕がした事は何の意味もない事だったんだな……でもこれで、父さんと母さんの元に僕も行けるよ」




 充はそう言うと、悠美の方を向き、悠美の頬に手をやると「悠美……お前のことが大嫌いだった」笑みを浮かべ、悠美の頬に触れていた手は力なく降りる。


 亡くなった充の表情は、何処かつきものがとれたような、穏やかな表情だった。



 充を看取った悠美は、泣き喚くわけでもなく、怒るわけでもなく、ただただ、息を殺し項垂れていた。




 こうして、初めてできた、友人との短く儚い時間は終わったのだった。




 皇帝陛下が、知らせを聞き戻って来たのは明けごろだった。


 亡くなった皇后を見て、皇帝は涙を流さなかったと言う。



 だが、その表情は何処か思い詰めているようで、ただひたすら、皇后を見て謝り続けていたと言う。




 それから、捉えた一人の男の証言で、今回の件の首謀者として、地星の夏彦の処刑が決まった。


 最後に夏彦は「罪を犯したのは、自身の身内だと言うのに、勝手に恨み、復讐しようとするとは、やはり貧しい者は哀れですね」と残し死んだ。



 夏彦が、今回の件を犯した理由については、悠美を殺害し、次期皇帝候補を排除したかったからだそう。


 夏彦は、昔から地星こそが皇帝に相応しいと思っており、その思いが行きすぎたのだろうと、後に皇帝は語った。




 だが、今回の件で地星が関わった事は公表されておらず、また、充の存在も消し去られ、密輸、売買をしていた者たちの逆恨みで皇后は殺害されたと、世間に知らされたのだった。







 「……これが、私の今も尚、消し去ることができない過去の話だ」




 そう言って、悠美は笑みを浮かべるが、何処か辛そうだ。



 泉凪含め、他の者たちは皇后が亡くなった詳しい詳細は知らず、初めて聞く話に泉凪は驚きを隠せない様子。




 「……そんな事が九年前にあったなんて」




 悠美は眉を顰め「その事があってからは、誰かと親しくなろうとしても、その事が頭をよぎり、一歩引いてしまうんだ。誰かが私を褒めたり、良くしてくれても、それには全て意図があるのだと……」自嘲気味に笑う。




 悠美の言葉を聞き、これまでの悠美を思い出す。



 確かにここ最近、悠美とは距離が近づいた気がするが、その前は泉凪だけではなく、他の神力者たちとも距離があったように見える。


 そしていつも、笑みを浮かべていたのは、自分のことを守っていたのだろうと、泉凪は思った。




 「それに、後から聞いた話なんだが、充の母上は皇宮に支援を求めたらしい。だが、その時対応した者は、何でお前らみたいな貧しい奴らを支援しなければならないのか。と言い、それを拒否したらしい」


 「だから、充の母上は嫌がらせがひどかったと言う事もあるが、結婚を承諾したそう」


 「だが、その支援を断った者と、充の義理の父親は裏で繋がっており、充の母上は嵌められたそうだ」




 悠美の話に、泉凪は顔を顰める。


 そんな泉凪に悠美は真っ直ぐ見つめ言う。




 「クソみたいな話だよな。けど、権力を持つ者の中にはそんなクソみたいな奴がうじのようにいる。そしてそんな奴らは、存在するだけで、立場が弱いものを脅かす」


 「そんな奴らには絶対にならないと、常々思ってはいるが、ふと、一人になり、この事を思い出すと思うんだ。」


 「自分は、そいつらのように、気付かずうちに誰かのことを脅かしているのではないかと」




 悠美の話を聞いた泉凪は、前に、皇后の墓石の前で悠美が言っていたことを思い出す。


 その時の悠美も、誰かのことを知らずうちに傷付けていないかと、不安に駆られているようだった。



 悠美は「すまない。せっかくの秋月夜の会なのに、こんな話をしてしまって」と眉を八の字にし笑う。


 そんな悠美に、泉凪は首を横に振り「話してくれて嬉しいよ。悠美と少し距離が縮まったみたいで。ありがとう」と笑う。



 そんな泉凪を見て、悠美は一瞬驚いた表情を浮かべるも、何処か泣きそうな表情を浮かべ笑う。

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